中学二年 02/14(水)


バレンタインデーキッス!と肩を組んで騒いどる、俺と白石。校内にはチョコの甘ったるい匂いが充満しとる、2月14日。この日、早苗は朝からずっとそわそわしとって、隣におってもその緊張が伝わってきた。


「えーと、大丈夫?」
「だめ。むり。」


机にへばり付く早苗は、いつもの強気なんやどっか行ってもうて。あぁ、こいつも恋する乙女とやらになるんやなぁって、どこか冷静に考えとった。


「周りに女の子いっぱいおんねん。」
「うーん、けど一番仲良いのは早苗やろ?」
「…友達、だからね。」


友達、って…。それやったら今の俺はなんや。俺かて、早苗とはただの友達やん。俺の想いが伝わらんことは最初から分かっとっから、今更引き止めようとは思わんし、うまくいってほしい。応援したってんやから、うまくいかんと俺が報われんわ。けど、やっぱり邪魔しよる女はいるもんや。


「うまくいくかなー?」
「いくっしょ!あんな女に白石くん渡してたまるかっちゅーねん。」
「それもそうやな!」


なんで俺、昼休みに玄関なんや来たんやろ。俺は机やロッカーに入りきんかった使用頻度最少の教科書類を下駄箱に入れとった。っちゅーか男は基本おきべんやから下駄箱にも入れとるやつ多いけど。せやからまぁ、次に使う家庭科の教科書取りに来たわけなんやけど。下駄箱の陰に隠れとると、用事終わったんか、女共がこそこそと退散していくんが見えた。こない日までようやるわ。はぁ、とため息をついて、俺のクラスの下駄箱に近付いた。


「うわ、」


思た通り、早苗のローファーの上にはルーズリーフの紙切れが置いたった。今のやつらか、と紙を見てみれば、やっぱり呼び出しの手紙やった。再び深いため息をこぼす。そんで力強くそれを握りしめ、ポケットに突っ込んだ。


「白石、」


今日は女にとって盛大なイベントやから。白石の周りにはこれでもかってほどの女がたかっとる。そこをわけて入る俺は勇者やろ。


「ちょっとなに一氏!」
「今あたしら話してるんやけど!」
「うっさいわカス!香水振り撒いてほんま臭いんやけど。それからその厚化粧やめといた方がええで。化け物みたいや。あと白石の顔よう見てみい。引き攣りすぎやわ。」
「なっ」


言い淀む女に一瞥くれて、俺は白石の腕を掴んで男子トイレまで連れてった。やってどこに女がおるか分からんやろ?


「はぁ〜助かった。おおきにな、ユウジ。」
「ほんま大群やったな。」


都合の良いことに、男子トイレには誰もおらんし、俺は個室の壁にもたれ掛かった。


「んで、どないしたん?」
「これが早苗の靴箱に入れられるん目撃してもうた。」


ポケットからぐちゃぐちゃになった紙を取り出して、白石に渡した。本人も目ぇ真ん丸にしとる。俺かてびっくりしてん。


「な、これ俺の字…」


ルーズリーフにはなぜか白石の細っこい字で、『放課後に屋上で待っとる』と書かれとる。どないしてこの筆跡マネしたんか分からんけど、ちょっと尊敬や。


「一個上の女やで。いーつも早苗に文句ばっか言っとる。」
「え、そ、そうなん?」


白石は知らへん。早苗が先輩らに何言われとんのかも、それを白石には気付かれんよう無理して笑ってんのも、白石を想って泣いとることも。俺の方があいつをよう分かっとるのに。


「白石、行くやろ?行って一発言ったりや。早苗は俺のやから手ぇ出すなーってな。」


はは、と自嘲がこぼれた。やって、今日、やっとくっつくんやろ?こいつら。俺は一年から早苗を見てきたのに、俺の方が仲良えのに。


「…おおきに。」


白石はぐしゃり、と紙を握りしめ、そう言った。ほんまは、俺が行ったりたかった。俺が行って、早苗に手ぇ出すなって、言ったりたかった。けど、そんなん叶わん夢やってん。


「ユウジー、白石知らへん?」


ホームルームも終え、先程教室を出る白石を見た。これで最後や。


「…早苗、」


好きなんや、って言ったりたいのに。俺は背中を押すことしか出来ひん。


「屋上、行ってみ?」
「ん?屋上?」
「おん、ええもん見れるで。」


俺はうまく笑えてたやろか?教室から出て行く早苗の後ろ姿に、胸が締め付けられた。後悔はしてへん。してへんけど…


次の日には、あの白石が付き合い始めたっちゅー話で持ち切りやった。