高校一年 07/23(水)
終業式の次の日、わたしは期待と不安を胸に、東京行きの夜行バスに乗った。こっちに来てからは今日で三日目。一日目は家事を手伝ったり。二日目は悠紀と一緒に観光地巡り。実は東京タワーに登るのとか、初めてだった。そして三日目の今日。自分で決めたことだったけど、まさかこの日が本当に来るとは思わなかった。青学の校門を前にして、見事にわたしは足を竦めてしまった。ここは、もうわたしがいた青学じゃない。
「姉ちゃーん?なに立ち止まってんの?」
背後からひょっこりと顔を出す悠紀。高校の場所が分からないから、ついて来てもらった。なのに、足が動こうとしてくれなかった。菊丸くんがわたしのこと覚えてるのかも分からない。言いようのない不安が身体中を駆け巡る。でも、わたしには帰る場所があるから。泣ける場所もある。きっと早苗ちゃん達は、笑って迎えてくれるから。わたしは胸を張って帰ることができる。そうやって奮い立たせた時、
「もしかして…弥栄さん?」
びくり、と肩を揺らした。振り返ると、さらりと髪を揺らす懐かしい姿。制服は中学の頃より少し着崩して、髪はちょっと伸びていて、でも相変わらずの細目、そして端正な顔が驚きに満ちている。
「ふ、不二くん…?」
「やっぱり!弥栄さんだ」
覚えてる。同じクラスだったとは言え、数えるほどしか喋ったことはなかった不二くん。けど、覚えていてくれたし、わたしだって当然のように覚えてる。
「英二に会いに、だよね?呼んでくるよ」
それは不二くんの親切心。でも、それじゃあダメ。わたしは走って校内に向かおうとした不二くんの腕を、咄嗟に掴んだ。不二くんは昔のわたしを知ってる。だから、そんなに驚くんでしょ?でも、違うから。わたし、もうそんなに弱くないから。
「よ、呼ばなくていいです。わたしが会いに行きます。」
それは、わたしの最後の覚悟だった。不二くんは愕然としていた。そりゃそうだよね。でも、ここまで来たなら、最後まで向かっていきたい。手に汗を握りながら真っすぐに不二くんを見つめると、彼はふ、と笑った。
「うん、分かったよ。一緒に行こう」
昔と何も変わらないその表情に、少しだけ安心した。