高校一年 07/07(月)


最近部室がにおう。暑いし、むしむししてるし。でもべつに嫌じゃないのは、みんなが頑張っているのを知ってるから。そんな部室に集合させた先生は、笹と短冊を置いてすぐに去ってしまった。


「それだけのために集合かけたんかな?」
「そういうやっちゃで、オサムちゃんは。」


忍足くんと話しながら白石くんが律儀に一人ずつに短冊を配ってくれた。わたしが受け取ったのは水色の短冊。さて、何を書こう。


「舞、何書くん?」



早苗ちゃんが話を振ってくれた。でも、今願い事ってないなぁ。友達も仲間もできて、東京にも帰れる。みんながいる日常に幸せを感じているのに、これ以上何を望む?その時、斜め向かいに座っていた一氏くんがバランスを崩したのかパイプ椅子を揺らした。


「どないしたん?ユウジ」


早苗ちゃんが少し笑いながら尋ねていた。いいなぁ、あんなに普通に話し掛けられてる。そういえば、わたしまだ一氏くんにメールしてなかったな。せっかく教えてもらったのに。


「さっ早苗ちゃんは?何をお願いする?」
「あたし?う〜ん…とくにあらへんな」


やっぱりみんなないのかな。早苗ちゃんは紙をぺらぺら揺らしながら言った。そして隣に座る白石くんの短冊を覗き込んでいた。


「ぶっ…な、何それ」
「え?今年の俺の願い事や」


早苗ちゃんは白石くんの短冊を奪い取って、わたしにも見せてくれた。


「更なる完璧を俺に…?ふふっ」
「なっ!二人して笑うなや!お、早いな、ユウジ。何書いたん?また小春関連?」


白石くんは短冊を取り返し、笹に吊しながら一氏くんに話を振っていた。小春ちゃんのことを忘れていたのか、一氏くんは慌てて新しい短冊を準備し始めた。


「えぇよ?無理せんで。」
「は?俺には小春だけやもん。」
「えー?けどアタシじゃ、ユウくんの元気は取り戻せへんもーん。」


あ、そうだ。一氏くんここ最近ずっと元気ないんだ。まだ、何かに悩んでるのかな。早苗ちゃんと違って、わたしじゃ一氏くんの力にはなれないけど。ぼーっとしながらそんなことを考えていると、無意識に一氏くんを見ていたことに気付いた。ど、どうしよう、目合ってたよね?凝視しちゃってた。慌てて視線を短冊に落としたけど…恥ずかしい。


「ユウジ〜?」
「な、なんや早苗。」
「願い事、まちごおてない?ほんまにそれでええん〜?」


また、早苗ちゃんが一氏くんに絡んでいる。胸がつまった。どうして、こんなに目につくんだろう。どうして、こんなに切ないんだろう。一氏くんはもう早苗ちゃんのこと好きじゃない。でも、二人には強い信頼があって。すごく、すごく羨ましい…。


「…ええよ。まちごおてない。」


一氏くんが本当に願うことって、何だろう。早苗ちゃんは知ってるのかな。小春ちゃんも。もしかしたら白石くんも忍足くんも。みんなは、それを知って、一氏くんを応援してあげることが出来る。わたしには、出来ない。


願い事なんてなかった。今のままで十分だったから。でも、ただ一つ願うとすれば。わたしじゃ力にはなれない。応援も出来ないけど、願うことは出来る。


『はやく元気になりますように』