高校一年 07/29(火)
かぽーんって効果音つきそうな温泉に、早苗ちゃんと並んで浸かる。中学の修学旅行にはあんまりいい思い出がないから、実はこの合宿結構楽しみだった。今日の朝に四天宝寺を出発して、夕方到着してちょこっと練習したら一日目は終了。宿で各々自由時間で、9時からのミーティングのために早めに大浴場に向かった。時期も時期のため、和歌山から来たらしい何とか高校のサッカー部も、合宿先は同じだったみたいで。温泉も、結構学生で溢れていたりする。
「あー、疲れたわー」
「お疲れさま。」
「舞も頑張っとったやん。」
「うん。」
真夏の太陽の下、タオル配ったりドリンク作ったりタイム計ったりするマネージャー業は結構大変だけど。でも汗だくになりながら、テニスコートを走り回るみんなの方が大変だと思うから。弱音なんて吐かないで頑張った。明日は一日中練習なんだ。今日の二倍は疲れると思う。
「夏終わったら蔵が部長かー。」
高校三年生は、進路の関係で夏の全国大会が終われば引退。白石くんが部長を引き継ぐのももうすぐ。ふと、なぜか違和感を感じた。あれ?なんだろう…。聞き慣れない名前。
「えっ、く、く、くら!?」
驚いて早苗ちゃんの方を見ると、少し恥ずかしそうに笑っていた。あれ?前からそう呼んでたっけ?
「くらって…白石くん、のことだよね?」
「あはは、せやで?」
「名前呼びだ…」
「あーなんかユウジに指摘されてもうて。その後本人からもめっちゃ懇願されたし、ええかなって」
はにかむ早苗ちゃんにきゅんってなる。可愛いなぁ。どうして早苗ちゃんはこんなに可愛いんだろう。白石くんは本当に幸せ者だなぁ…
「舞は?」
「え?何が?」
「ユウジと、うまくいってるん?」
返答に困った。うまくいく、ってどんな状態なのか分からないから。付き合う、ってことになったのがもう合宿直前で。あれから一緒に帰ったりはしてないし、ろくに話してもない。
「…付き合う、って何だろう」
「へ?何言うてんの?」
「わ、わたし初めてだからね、よくわかんないんだけど…、付き合うって、具体的にはどうすればいいのかな…?」
早苗ちゃんなら、長く白石くんと付き合ってるから分かるのかなって。
「…何もせんでええと思うわ。」
「え?何も?」
「せや。あんた分かっとる?付き合うから一緒におるんやなくて、一緒におりたいから付き合うんやで?」
逆、なの…?一緒にいたいから、付き合うの?
「ユウジのこと、好きなんやろ?」
「…うん。」
「せやったら、舞ばっかり悩むんやのうて、これからのことは二人で考えていくもんや。」
「早苗ちゃんと、白石くんもそうだったの?」
「当然やん。」
大浴場の大きなガラス窓の外を眺めながら、早苗ちゃんは言った。まるで懐かしむように、目を細めてる。
「…まちごおても、ユウジのこと避けたらあかんで。」
「えっ?」
「ええから。周りに何言われようと、負けたらあかん。」
早苗ちゃんの力強い言葉は、説得力がありすぎる。もしかして、体験談?早苗ちゃんと白石くんにも過去があって、いろんなことを二人で乗り越えてきたんだろうな。そんな二人に憧れて。結局、付き合うってどういうことなのかは分からないままだけど。わたしは一氏くんと一緒にいたいから、一緒にいるだけ。