高校一年 07/26(土)


合宿が始まる数日前。今日も今日とて部活があって。でも何だか世界がまったく違って見える。みんなの使用済みのタオルを集めながら、そんなことを思った。


「ユウジー!」


白石くんとか忍足くんを呼ぶ黄色い声の中、珍しく一氏くんの名前が出てきて、自然と視線がコートの外に向く。一瞬だけ、かごを持つ手から力が抜けていった。慌てて抱え込んだから落とさなくて済んだけど。でも、さっきより視線はくぎづけ。コートの外では、一氏くんの腕に抱き着きながら、女の子が喋っていた。


「っ…」
「弥栄さん?」


至近距離の声に慌てて視線を戻すと、目の前には白石くんがいた。そしてわたしの持つかごにタオルを入れる。


「気をつけ?そうやってマネージャーやめさせられた女子、ぎょおさんおったで?」


はっと息を飲む。今、白石くんはわたしのことを言ってるんだ。わたしが一氏くんのこと見てたから。マネージャーは、部員みんなに平等じゃなくちゃ。分かってる。でも…


「けど、あれはやり過ぎやろな」「え?」


白石くんはコートの外を指差した。一氏くんと、女の子。あんなにくっついていて、もやもやと黒い感情が胸を覆い尽くす。一氏くんのファンの中心的なあの子、一氏くんのこと好きなのかな。トイレで早苗ちゃんのことを言ってきたのは彼女だったな。


「まだユウジのタオル回収してへんのやろ?行ってき?」


白石くんは優しく微笑みながら言ってくれた。彼は本当に優しくて、周りが見えてるんだ。すごいなぁって感嘆しながらも頭を下げて、コートの外へ向かった。


もやもやする。あの子があんなにくっついてるの、初めて見た。一氏くん、もしかしてあの子のことが好きなのかな?「一緒にいてください」って言ったけど、わたしと一氏くんはべつに今でもチームメートでしかない…はず。わたしが何か言う権利はないじゃないか。それでも、嫌だ。苦しい。今すぐ、離れてほしい。


「一氏くんっ!」


女の子と話し途中だったけど、意を決して名前を呼んだ。女の子も一緒にこっちを見て、突き刺さるような冷たい視線が痛い。


「タオルを、…」
「あーすまん。」


何が?って、そう口から出てくる前に、一氏くんはわたしに歩み寄ってきた。


「俺、彼女おるから行けへん。」


目の前に、目を見開くファンの子がいて、一瞬鏡かと思った。多分わたしもあれくらい驚いてる。嘘だ嘘だ嘘だ。信じたくない。早苗ちゃんじゃなくて、また誰かに恋をして、両想いに…?なんで、好きって言ってくれたのに。


「一氏くん、彼女いたんだ…」
「お前やろこのドアホ!」


その瞬間、多分今までで一番大きな衝撃が頭を襲った。今の、絶対本気だった。あまりの痛さにタオルのかご落としちゃったし。それに、彼いまなんて言った?なんか、すごいこと言わなかった?


「わ、わたし…?」
「違うんか!昨日一緒におりたい言うたやろ!死なすど!」
「えっ…」


もう、わたしの頭はキャパオーバー。昨日、確かにそれは言った。好き、とも言ったし…。でも、だからって、彼女とかそういうのって…?


「そういうことやから、すまんな。」


女の子にそう言ったかと思えば、突然引っ張られた手首。一氏くんの手が熱い気がした。かごを持って慌ててついていく。だけどわたしは何度も振り返ってしまった。あの子が、泣いていたから。胸が痛かった。もしかして、わたしのせい…なの?


「ひ、とうじくん…」
「ちゃうんか?」
「え?」
「…一緒におりたい言うたやろ?俺も好きって言うたやろ?ちゃうん?付き合っとんのとちゃうんか?」


振り返って、じっとわたしの目を見る。一氏くんの真剣な瞳は、いつもわたしから思考を奪う。もう、一氏くん以外考えられなくなる。掴まれた手が熱いのは、やっぱり気のせいじゃない。本当は、付き合うとかよく分からない。一氏くんと一緒にいて経験することはほとんど初めてだから。早苗ちゃんたちを見ていても、結局二人で『付き合っている』らしいことをしているのは見たことないし。でも、分からないけど、この手を離してほしくはない。そばにいてほしい。欲を言えば、他の女の子に触ってほしくない。ただ、それだけなんだ。


「…違わない、よ」


一氏くんの手の力がだんだん緩んでいって、そして離れた。ぶらんと垂れ下がるわたしの手はやっぱり熱くて、握られたところがジンジンしていた。