高校一年 06/23(月)


早苗と小春いわく、弥栄の転校は正式には決まった訳やないらしい。夏休みに一度東京戻って、それから決めるらしい。もう時間あらへんくせに、二人はものっそい楽しげや、気色悪いくらい。


まぁそれはいいとして、なんで期末直前にタコ焼き屋行かなあかんのや。試験前に部活は停止になって勉強せえよーって期間なのに、たまたま全員で下校、たまたま金ちゃんと財前に遭遇して。で、なんで引きずられるようにしてタコ焼き屋。白石とか小春は期末余裕かもしれんけど、俺は数学やばいっちゅーねん。


「まぁまぁ、ええやないのユウくん。久しぶりに会ったんやから〜」
「せやせや!ユウジ、最近元気あらへんのやろ〜?たまにはええやないか!」


その、俺が元気ないっちゅー話はどっから出た。金ちゃんの頭を掴んでガシガシと揺らすと、「小春に聞いたー!痛いわー!」と騒ぎ出した。とりあえず、中学んときのメンバーが集まってタコ焼き屋は白石の誕生日以来やから、まぁええか。道頓堀の常連のタコ焼き屋で、丸テーブルを囲む。俺はぼんやりタコ焼きを口に運びながら片手で携帯をいじっとった。つまんなくてすぐポケット突っ込んだけど。


「ユウジ、ほんまに元気あらへんなー?」
「アホか。これは大人の余裕っちゅーもんや。金ちゃんには理解しがたいかもしれんけど。」
「うっそや〜。ユウくんが突然元気なくしたん、ちょうど舞ちゃんが…」
「ぎゃー!小春っ!何言うとんねん!やめろや!」


あっはっは、と笑っとる小春を押さえ込んどると、白石が「そこいちゃつくなー」と茶化してきよって、むしゃくしゃして頭をガシガシ掻いた。くっそー、みんなして!最近空回りしまくりやわ…


「ちょっと舞、聞いとる?」
「えっ、あ!うん!」
「せやから、メアド教えてって。」


早苗はちらっと一瞬こっちを見よった。な、何なん今の。そんで早苗は白い携帯を出して弥栄にメアドをせがんどる。しかも調子乗ってケンヤと白石と小春も携帯出してきて。俺はもちろん聞かんけど。ポケットの中の携帯に手を延ばしてしもうたのは、完全に無意識。


「っちゅーか、そもそも携帯持ってんすか?」
「持ってるんだけど、昔に解約しちゃって…」
「もう契約せえへんの?」
「た、頼んでみる…」
「せや!東京行っても寂しなくなるで!」
「え?弥栄先輩、東京行くんすか?」
「えぇーなぁー東京!コシマエおるやんコシマエ!ワイも行きたいわー!」


よかねーわ。やったらおまえが行ってまえ。とか、べつに考えてへんけど…。ほんまに、俺どないしたんやろ。隣で小春と金ちゃんのやかましい会話を聞き流しとったら、次は財前が話し掛けた。


「東京行くんすか。お土産よろしくお願いしますわ。」
「え…あ、はい。」


二人をじとー、と眺めとると、財前は次は俺に向き直ってきよった。そういや財前は昔っからよう応援してくれとったからな、一応こないだの出来事話した方がええんとちゃうか。


「ユウジ先輩、最近メールしてこないっすね?スランプっすか?」
「んー?べつにメールする内容なくなったから…」
「前は事あるごとに謙也さんの愚痴送ってきよったのに?」


愚痴って言うほど愚痴でもないけどな。ケンヤの話すると財前の切り返しがおもろいねん。モノマネライブのネタにもなるし。


「あれやで、光。ユウくん最近元気あらへんの〜」
「ちょっ、小春ぅ!!」


またか、小春。俺が元気ないん、そないにおもろいか。む、と顔をしかめとると、小春は俺の頭を撫で始めた。


「ユウくん、ええ加減認めたら?早苗ちゃんにやって言われたやろ?」


弥栄のことか。思わず黙り込んでしもうて。こんなん肯定しとるようなもんや。


「ユウくんの一言で、状況は一変するのに…」


至近距離でのぼやきが耳に届かんはずがない。ゆっくりと視線を上げると、弥栄が楽しげにケンヤと話しとった。この切ない感情を、俺は知っとる。ついこないだまで、早苗に抱いとった…


「…べつに、俺やなくても」
「ユウくん、分かってへんなぁ。舞ちゃんにとって、ユウくんは特別大切な存在なんやで?」
「……ありえへんわ。」


そうや。ありえへん。やって、今までやって散々ひどいこと言ってきたし、いまさら。


『ユウジが行くな言うたら、あの子絶対行かんと思う』


『ユウくんの一言で、状況は一変するのに』


ぐるぐると頭ん中を駆け巡る言葉。二人の言葉に信憑性なんて感じられへん。根拠もあらへん。俺は何も言えへん。何も言わんまま、あいつが行ってまうんを見とるだけなんや。