ときめきに終止符



「凄く過保護というかなんというか、厳戒態勢ですけど もしかしてまだ名字さんは敵に狙われてるんですか?」

 引退したとはいえオールマイトが着いてきてくれて、その上に3年生が3人。自分の買い物に4人を付き合わせてしまう事に申し訳なくなって俯いてしまう。オールマイトにその問いかけをした緑谷くんは 配慮が足りなかったとブンブンと首を振って「大丈夫!僕達は暇だったから大丈夫なんだけど!気になっちゃって!」と言ってくれた。

「分からない、でも確実に敵連合は私を狙っては来ないよ。西條組でもお荷物扱いだったと思うし、オール・フォー・ワンから貰った個性も弔くんに私を宛てがう為に渡されたもので、使えるものでは無い。狙われはしないと思う。」

 焦る緑谷くんに 大丈夫、ありがとう。と笑顔で告げたあと 自分の考えを首を捻りながら伝える。オールマイトも「そうそう、念の為だよ。」とにこやかに答えてくれて、私もほっとする。もう少し強い個性を渡されたのなら裏の世界で名を馳せたオール・フォー・ワンの弟子、つまり死柄木弔の兄弟弟子だと勘違いされて狙われる可能性はあったけど、私はサポート系の個性。しかも気持ちに左右されてしまう不安定なもの。攫えばヒーローに狙われる、そんなリスクを犯してまで欲しいものでもないだろう。

「死柄木のこと、弔くんって呼ぶんやね」
「あ…、癖だね。殺されない為にしっぽ振ることも大切だから」

 さすがに本人目の前にして 死柄木弔 なんてフルネームで呼ぶことはまずない。 オール・フォー・ワンの威圧感に圧倒されていたし、目の前で親を殺した人間に頼る人なんていない。でも頼れるのはオール・フォー・ワンか死柄木弔の2択。ならば、弔くんを選ぶしか無かったし ある程度は愛想を見せるしかなかった。それだけの事。でもやっぱり怖くて 弔くんが癇癪を起こす度にやっぱり怖くて震えて部屋の端で丸まってしまっていたのを覚えてる。愛想は振りまいても怖いものは怖い。個性が発動するはずもなく。

「そもそも、何で名字だったんだ?」

 今まで黙り込んでいた轟くんが問いかけてくる。その声に心臓が飛び出そうになるけれど 態度に出さないように眉を下げて笑みを作る。「なんでだろう」と首を傾げる。あの頃より低くなり、話し方も落ち着いている彼はやはり魅力的。優しくて笑顔が可愛くて 幼ながらに「好きな子ができたの、おとうさんには内緒だよ」と母に話していたことを思い出す。布団を引っつけてお話したあの日から。







 お茶子ちゃんとちょくちょく会話をしつつ懐かしいことを思い出しながらショッピングモールに着いて、館内案内の冊子を見つめながら唸る。雑貨屋、レディース、メンズ と色んな区切りがされているのはわかるけど どんなお店なのかは分からない。むむ、と声に出しながら冊子と睨めっこをしていれば、お茶子ちゃんに 難しい顔しとる と言いながら笑われてしまった。

「必要なものも多くて、これだけ人数がいるなら2班に分かれるのはどうでしょう?」

 緑谷くんが人差し指を立ててオールマイトに提案する。女の子の持ち物だから お茶子ちゃんと私は別々の方が良いだろうとのこと。

「名前ちゃんの服見てあげたかったけど、たしかに今回はその方が効率がええかもね。今度はA組女子全員と来よ?」
「うん、私は皆の意見に従わせてもらうよ。私のためにありがとう。」

 オールマイトは一応の厳戒態勢ということで生徒3人を連れてきたため最後まで唸ってはいたけれど、時間も少ない。効率よく色んなものを手に入れる為には仕方の無いことだと折れてくれる。服や化粧品などの私が居ないと買えないものは自分で。その他生活雑貨はお茶子ちゃん組ということになった。
 ならば、1番話しやすいオールマイトと回りたいと オールマイトの袖口を引っ張る。

「姫は私と回りたいらしい」

 冗談めいた口調でHAHAHAとアメリカンな笑いを響かせながら言う。姫、という言葉に顔に熱がこもるのを感じて 袖口を引っ張った手を離しブンブンと大きく首を横に振った。然し、オールマイトだと言うことが世間にバレている為 私ではなくオールマイトが狙われる可能性だってある。2人きりでは不味いということで、お茶子ちゃんと緑谷くん、オールマイト 私 轟くんで二手に分かれる事になった。
 何やら緑谷くんとお茶子ちゃんは2人きりでショッピングをする流れになるとお互い目も合わさずドギマギとし始めた。さすがの私でも察する。

「ではでは、オールマイトせんせ、轟くん。あとは若い2人だけで」

 ふふ、と小さく笑いながら 私も冗談めいた口調で言ってみれば「チャウカラ!」とお茶子ちゃんは真っ赤な顔をして首を横にブンブンと振っていた。生活雑貨も、お茶子ちゃんならすごく可愛らしいものを選んできてくれそうだし緑谷くんもセンスが良さそうだ。冗談はさておき、よろしくお願い致します と頭を下げれば 任せて と拳を握ってくれる。

「若い2人、って。同い年だろ」

 2人と分かれ、少し歩いたところで轟くんが時間差のズレたツッコミをしてくるものだから オールマイトと一緒に笑ってしまった。





「名字少女、ここの服とかキミ好きそうじゃない?」

 オールマイトに言われて入った店で服を物色することにした。できるだけ安くて可愛いもの…と値札とにらめっこする。オールマイトは近くのベンチで座って待ってると言っていたけど 轟くんは無言のまま隣にいて少し気まずい。

「轟くんも座って待っててくれて大丈夫だよ、出来るだけ早く終わらせるね」
「…いや、姉さんともよく買い物に来るから 女の買い物は時間がかかるものだとわかってる。大丈夫だ。」
「といっても、私買い物とかするの初めてだし 安くて可愛ければそれでいいから 直ぐに終わるよ」
「芦戸が、買い物は女の子の生きがいだと言ってた。」

 10%〜30%off と書いてある棚の服を物色しながら、轟くんの言葉に服から彼に視線を向け見上げる。つまり こっちの事はいいから楽しめ と言ってくれているのだろうか。他でもない しょーとくんの優しさに触れると なんだか泣き出したくなる気持ちになってくる。短くお礼を告げて口元に笑みを湛えれば「おお」と短い返事が返ってきた。





「ヘイヘイヘイ、荷物が少なすぎないかい?」

 買い物を済ませてオールマイトの待つベンチに戻れば 額に手を当てて轟くんが持ってくれた紙袋を見て一言。マネキン買いで一式手に入ったし、透ちゃんがくれたワンピースがあるし、部屋着はもう眼力猫でいいし 本当に十分だと思っているのに オールマイトはやれやれと首を振る。持たされたブラックカードを出すときどれだけ手が震えたか見せてやりたい。

「もう1つ良さげな店を見つけたんだ。そこに入ろう」
「その前に、轟くんも買い物があったんじゃないの?」
「ああ、…いや、今日はいい」
「ついでに買ってきたらどうだ?」
「大丈夫です」

 寮で一緒に買い物に行くメンバーを決める時に 買いたいものがあるから と手を挙げていた事を思い出して轟くんに問いかけるも 歯切れの悪い答え。怪訝な表情で首をかしげ見つめるも 本当に大丈夫 としか言わなくてそれ以上問いかけるのをやめた。
 オールマイトが見つけてくれた店に入れば 服はもちろん 髪留め等のアクセサリーも一緒に置いていて シンプルなのに可愛らしい服やアクセサリーのデザインをひと目で気に入った。先程は言われるがまま言われた店で安めの服を見繕おうとしていたけど、なるほど買い物の楽しさとはこういうものか。然し自分が働いて稼いだお金という訳では無いから心苦しい。

「思いの外お気に召して貰えたようだね」
「はい、シンプルなのに可愛くて 見ているだけで楽しいです」

 髪留めやイヤリングの棚、可愛らしい服を着せられているマネキン 棚やハンガーにかかっている服も全てが可愛くて目が輝く。

「やはり女の子はこうでなくちゃ!」

 きっと私と同い年の子達、否 女性の殆どがショッピングモールでこうして目を輝かせ自分を綺麗にするため 自分へのご褒美 デートの準備など様々な理由でこの可愛い服に手を伸ばすのだろう。年相応の女の子らしいことを久しぶりに体験できて つい頬が自然と緩んでいく。オールマイトは これも似合いそうだ、これも、これも!と言いながら私に服を宛てがい 細い腕の上にかけていく。まさかそれ全部買うつもり?と顔を青くするもお構い無し。確かに買い物慣れしてなくて 何を買えばいいのか分からないけど、さすがにそんなに要らないと首を振るも聞いてはくれない。

「さ、次はアクセサリーを選んでおいで。轟少年、名字少女は何が似合うと思う?」

 後ろを着いてきていただけの轟くんに不意にオールマイトが話を振る。お、と驚いたような声を上げながら 真剣にアクセサリーが置いてある棚と私を交互に見る。何だか緊張して心臓が口からポロリと出てしまいそう。変な空気感に耐えられずに視線を泳がせていたら、シンプルなパールがあしらってあるサーモンピンクのシュシュとインキューブのネックレスを手に取った。

「これ」
「オーケー!レジに行こう」

 轟くんが選んでくれたものも手に取ればオールマイトはそのままレジへと行ってしまった。遠慮してなかなか欲しいと思ったものを買えない私への配慮だろう。何回お礼を言っても足りない。

「はい、どうぞ。」
「ごめんなさい、本当にありがとうございます」
「ごめんなさい はいらないよ。どういたしまして。」

 オールマイトの優しさに困った顔をしてしまうも せっかくの厚意にいつまでも申し訳ないと遠慮していてもダメだともう一度お礼を言いながらにこりと表情を緩めれば もう一度 どういたしまして と言いながらオールマイトも笑ってくれた。

「轟くんも選んでくれてありがとう」
「ああ」

 そのまま轟くんの方に向き直ってお礼を告げれば 轟くんは口元を緩めた。その表情にキュンと胸が疼くのを感じる。あの頃はなかった火傷の痕。あってもなくてもかっこいいと思ってしまうのはフィルターがかかってしまっているのだろうか。
 尚、化粧品の売り場に行くには行ったけど、何を買えばいいのか分からない私はオールマイトに助けを求め、オールマイトは肩を竦めながら姉のいる轟くんに助けを求め、轟くんがゆっくりと首を横に振ったため 見送りとなった。





 それからお茶子ちゃんと緑谷くんと合流して、たっぷり入った紙袋は寮の部屋に着くまで緑谷くんと轟くんが持ってくれた。学校に帰れば 校長に報告があるから とオールマイトは別方向に歩き出す。もう一度大きな声でお礼を言えば笑顔で手を振ってくれた。

 買い物したものを部屋まで運んでもらって 中を開いていく。可愛らしいマグカップに新しいスリッパ、勉強する時に使うペンまで可愛らしいものを選んで買ってくれていた。シンプルが好き、とお茶子ちゃんに話したことは無かったのに「名前ちゃんっぽいかなって」と喜ぶ私に照れ臭そうに伝えてくれた。3人に改めてお礼を告げて もう遅いからと寮に戻っていく背中を見届けたあと 一人箪笥やクローゼットの中に今日買ったものを丁寧に畳んでしまって行く。そして、何より特別なものへと手をつける。これはどう保管すればいいのだろうか。轟くんが選んでくれたシュシュとネックレス。無くさないようにしたいし絡まらないように置きたいけど 何せ保管方法が分からない。無くしたくないから部屋を片付け終わるまではネックレスだけでも付けておこうと ネックレスを付けてみた。

 ゴールドのインキューブのネックレス。つけた後髪を整え、手鏡で自分を見る。轟くんが選んでくれたと言うだけで 高級ブランドのネックレスを身にまとってる気分。こう、強くなった気分?ネックレスに指を滑らせて ふふ、と小さく1人笑いをかみ殺す。もちろんシンプルで可愛くて自分好みなのもあるけど 彼が選んでくれたと言うだけで特別で。



 ​────コンコン

 不意になるノックの音。やばい、部屋はまだちらかっているのに。どうしようと思いながらも待たせるのは悪いからすぐに扉を開く。そこには轟くんが居て。
 今日何度目か分からない心臓の危機。

「どうしたの?」
「悪ぃ、財布忘れた」

 その言葉に振り返って部屋を見る。散らかしまくってて分からないけど 轟くんが座ってたのはこの辺りだから… とまだ畳めてない服を捲ってみたら黒地の長財布。これ?と彼に見せてみればこくりと頷いた。

「どうぞ」
「ありがとう」

 財布を受け取って直ぐに出ていくのかと思いきや、扉の前から動かない轟くんに首を傾げる。視線は私の目元ではなく首元へと下がっていて。あ、ネックレス付けてるの忘れてた と内心焦る。

「似合ってる」
「……っ、ありがとう。轟くんセンスいいね」

 私の言葉に 「いや」とか「名字が」とか短く何かを言うも 続く言葉が見つからないと言うように首を傾げる。釣られて私も首を傾げれば「何でもねぇ」と誤魔化されてしまった。ものすごく気になる。

「休みの日なら、いつでも連れてってやるから」

 そして、私の部屋を一瞥したあと ぽつりとそう告げて「おやすみ」と背を向けて帰って行った。ものすごい破壊力の爆弾を不意に落とされた気分だ。顔に熱がこもるのを感じながら 「ありがとう、おやすみ」と背中に向かって返したあと 扉を閉めて 扉に背を向ける。袋から出したものをくちゃくちゃに広げている部屋を見て ふと思う。あれは胸きゅんするようなセリフではなかったかもしれないと。

 …初めての買い物にはしゃぎ、帰ってすぐ袋をひっくり返す子供だと思われたかもしれない。と。