新生活の始まり
「誰も、いない…」
ヒーロー科の最高峰と言われる雄英高校に合格した私。今日は待ちに待った入学式だ。楽しみで目覚ましより先に起きてしまったが、寝坊するよりいいだろう。顔を洗い、髪を整え、新品の制服を着る。中学まではセーラー服だったから、ネクタイの結び方は動画を見つつ練習した。鏡に写っている姿は中学のときと比べて服が変わっているだけなのに、まさに高校生という印象になった自分を見てテンションがあがる。ルンルン気分でご飯を食べて出発の準備を整えたら、出発予定時刻まで随分と余裕ができていた。しかし今日は初っ端から教室集合だったはず。早く行けばそれだけクラスメイトとお話するチャンスができるのでは…?
そう考えて予定を前倒して家を出てきたのだが、どうやら早すぎたらしい。私以外誰もまだ登校していない。自分の身長の倍以上もある大きすぎるドアを見つめるが、誰かが来る様子はなし。広い廊下を見渡してもいるのは自分だけという寂しさ。
とりあえず自分の席に座り、外を眺める。この学校は森…というか山の上にあるので緑に囲まれており、見晴らしがいい。ここで3年間学ぶのかぁ、としばらく感慨に浸っているとガラガラガラ…とドアが開いて眼鏡をかけた男の子が入ってきた。
「おはよう!」
「お、おはよ! えっと…」
「僕…いや俺は聡明中学出身、飯田天哉だ!」
「折寺中学出身のみょうじなまえです。よろしくね」
私の次に登校してきた飯田くんは、いかにも真面目って見た目の男の子だけど手の動きが独特で面白い。ちょっと融通は利かなそうではあるものの悪い人ではなさそう。
「しかしみょうじ君は随分早いな」
「えへへ、ちょっと早く起きちゃったからさ。でもそういう飯田くんだって早いね」
「うむ。初日から遅刻するわけにはいかないからな!」
どうやら張り切ってるのは私だけじゃなかったみたいだ。やっぱり新生活の幕開けだもん。ワクワクしちゃうよね!と飯田くんとお話ししているといろんな子が次々とやってきた。
腕がいっぱいある男の子や鳥の頭をした男の子、全身ピンク色の角の生えた女の子に頭が紅白の子もいる。おめでたいカラーだ。いろんな強そうな個性持ちの子がこんなに……流石は雄英! ヒーローを輩出する名門校!
中でも驚いたのは透明の個性持ちである葉隠透ちゃん。制服が浮いてる…!と正直怖かった。話したらすごく明るい女の子で、そんな気持ちどこかに吹き飛んだけど。
そうして自己紹介を繰り返していると、見覚えのある子が目の前に。お互い「あ」と一言。
「しっぽの…尾白くん?」
「うん、えっと……みょうじさんだよね?」
「そうだよ! みょうじなまえです。入試のときはありがとう。楽しかったよ」
「こちらこそ感謝してる。おかげで入学することができた」
「それはこっちのセリフだよ」
入試の実技で一緒に戦った尾白くん。強靭な尻尾をもつ彼は死角から襲ってきたロボを撃退してくれて、お返しに今度は私が尾白くんのピンチを救う。それを受けて尾白くんがまた私を助ける…という感じで貸し借りの応酬というか、共闘することになったのだ。数少ない枠を取り合うライバルではあったけど背中を預けて戦ったのは
格闘術を軸にした戦闘スタイルが似ていてやりやすかったし、何より楽しかった。だからまた一緒に闘えたらと期待していたのだが、まさか同じクラスになれるなんて。
「おい、」
「、」
「あ。かっちゃんだ!おはよ〜」
尾白くんと入試のときは緊張して話せなかったオススメのトレーニング方法や筋トレなどに花を咲かせていれば、背後から聞き慣れた声。かっちゃんの怖い見た目か少しドスの効いた声か、はたまた両方にか分からないが、尾白くんはビクッと固まった。このツンツンボーイは初めてだとちょっと刺激が強すぎるかな、と「また!」と尾白くんから離れてかっちゃんの方へ向かう。
「なんで先行ってんだ」
「だって朝早く起きちゃったんだもん」
「中学のときはあんなに寝坊してたくせにか」
「かっちゃんが毎日起こしてくれてなきゃ大変だったよね………ん? もしかして今日も待っててくれてたの?」
「、ンなわけねーだろ!」
「分かった。今度は集合時間決めようね」
「話聞けや」
誰が一緒に行くかよ、と吐き捨ててはいるものの、口角がほんの少し上がっているので、これは誘われて嬉しいとみた。この幼馴染は誤解されやすいがちょっとツンデレなところがあるのだ。もう少し素直になればいいのに、と中学の友達に言えば「爆豪のことをそう言うのはアンタだけだよ」なんて言われたけど、そんなことないよ。たぶん。付き合いの長い人は感じてるはず。
時計を見ればそろそろ時間になる頃合いだったので自分の席へと向かう。でもおかしいな。もう1人の幼馴染であるいっくんこと緑谷出久が来ていない。遅刻するような子じゃないから心配である。とりあえずメッセージだけ送っておこう。「おはよう! もう少しで始まるけど、大丈夫?」と…
その間、視界の端っこでは足を机の上に乗せたかっちゃんに真面目飯田くんが説教(?)をしていた。みんな見てるし、これ止めた方がいいのかなぁ、と一瞬思ったがやめた。めんどくさい。初日から仲裁したらもう仲裁役から抜け出せないことを経験から学んだのだ。かっちゃんのことは好きだが、機嫌が悪いかっちゃんを押しつけられるのは嫌。スルーしよう。
と突然かっちゃんと飯田くんが言い合いをやめてドアの方を見たのでつられてクラス全員が一斉に入り口を見た。あ、いっくん来てたのね。クラス中に見られてるもんだから頬っぺたを赤くして慌ててる。かわいい。あとから来た女の子もほわほわしててぴょんぴょんしてかわいい。可愛い子大好き。あの子とも友達になりたいわ……
そんなほのぼの雰囲気をぶち壊したのは、黄色の寝袋から出てきた細身の男。合理性に欠けるとか8秒かかったとか訳わからないことをブツブツ言っている。無駄にいい声なのが逆に気味悪い。ここにいるってことはこの人が先生でプロのヒーローなんだろうけど……正直好かん。だいたいどうやって寝袋で移動してきたんだ。芋虫みたいに這ってきたのかな。そっちの方がよっぽど合理性に欠くと思うんだけど…
周りを見ればみんなも「うわぁ…」という表情を浮かべていた。よかった、ドン引きしていたのは私だけじゃないみたい。
そんなひきつり顔の私たちをよそに、その男は相澤消太と名乗り自身が入っていた寝袋から体育着を取り出すとグラウンドに出るよう指示をした。これから入学式じゃないんかい、と内心突っ込んだのは私だけじゃないはず。実際みんな戸惑ってるみたい。とりあえず言われた通り体育着に着替えるべく、ロッカールームに向かう。ていうかロッカールームどこ。
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