いまにわかるでしょう


「どけ、邪魔だ」
「あ、ごめんね」


放課後、帰ろうと教室のドアを開けようとしたときに仲良くなったクラスの女の子に呼び止められ話をしていた私は、爆豪勝己くんに声をかけられた。というものドアの前にいる私が邪魔だったからだ。謝りつつ避けるこちらを見ることなく、そのまま廊下に出て行った爆豪くん。その後ろ姿を見て私は、いつもより鼓動が強く聞こえているのを感じていた。

爆豪くんを目で追い始めたのは入学してすぐに起こったマスコミ乱入事件のときからだ。非常用ベルが鳴り、みんながパニックになりながら出入り口に殺到したあのとき。人の波に押されて潰されそうになっていた私を爆豪くんは壁際に引き寄せ、庇ってくれた。
入学式の代わりに行った体力テストによって、私の中で凄くカッとなりやすい人というちょっと悪い第一印象になってしまった爆豪くんがまさか助けてくれるとは思っておらず、なんとかお礼を言うことはできたけど、大した会話もまだしたことがなかったのに何故助けてくれたのか、怖くて聞くことが出来なかった。
気になるなら聞いてしまえばいいのに、何かが壊れてしまいそうで、私はあれからずっと爆豪くんのことを目で追い続けている。


「なまえちゃん? ぼーっとして大丈夫?」


声のした方を見れば、癒し系女子であるお茶子ちゃんが私の顔の前で手を振っていた。


「…うん、大丈夫。少しドキドキしただけだよ」
「そっか、爆豪くんってちょっと怖いもんね」


えへへ、と頬をかきながら笑うお茶子ちゃん。可愛いすぎる。天使だ、天使。


「爆豪も口が悪くなきゃいいのにね! はい、どーぞ!」


そういうのはピンクのショートヘアがお似合いの三奈ちゃんだ。帰ろうとした私を呼び止めたのも三奈ちゃんである。なんでもガールズトークがしたかったらしい。もうすでに教室には私たち3人しか居ないため、使いたい放題とばかりにそれぞれ適当なイスに座る。お菓子をバックから取り出し、差し出してくれた三奈ちゃんの好意に甘えていただく。訓練終わりで疲れているからか、甘いお菓子がいつもにも増して美味しく感じた。


「んー、でも、あの口調じゃない爆豪くんなんて想像出来ないし、意外と優しいところあるからそんなに嫌いじゃないなぁ」
「え、なまえちゃん爆豪くんになにされたん!?」
「優しいってどういうこと!?」


2人の予想外の食いつきっぷりに戸惑いつつ、マスコミ乱入事件のときに助けられたことやそれから気になって目で追いかけてしまっていることを話した。


「へぇー、爆豪くんも優しいところあるんだね〜」
「それよりそれより! 気になってずっと目で追っちゃう…って恋じゃない?!」


お茶子ちゃんは感心したように、三奈ちゃんはキラキラとした目で爆弾を落とした。


「えええ!違うよ! 恋じゃないよ!!」
「だって気になってるし、目で追いかけちゃうし、ドキドキしちゃうんでしょー?」
「そ、そうだけど…! でも、べべべつに爆豪くんに対して恋愛感情持ってるとかそんなんじゃなくて、なんで助けてくれたのかなって疑問に思ってるだけで、大体爆豪くん怖いからドキドキしちゃってるだけで三奈ちゃんの思ってるドキドキとはわけが違うし……!」
「わー!なまえちゃんめっちゃ早口!顔真っ赤! それで言われても説得力ないよー!」
「…だって違うし……」


ニヤニヤと笑いながらこちらを見てくる三奈ちゃんに何を言ってもこれは恋に持っていかれると察する。ガールズトークしたいって言ってたものね、多分こういう話がしたかったんだろうな。半ば諦めたところに、今まで静かだったお茶子ちゃんがさらに三奈ちゃんの恋愛思考に火をつけた。


「……もしかして、爆豪くんってなまえちゃんのこと好きなんじゃ…?」


ひえええ、やめてくれ!
そんな私の心の叫びも虚しく、2人はどんどん盛り上がっていく。「そっか! だからなまえちゃんのことを助けたんだね!」から始まり、最終的に「両思いだ!告白だ!カップル誕生だ!」とまで話が進んでいた。このままでは告白させられると危機を感じた私は、この場からの逃亡を決意した。


「ごごごめん! 私今日用事があるんだった! また明日ね!!」


そう言い放ち、カバンを引っ掴んで、過去にないほど早く玄関まで走る。私を引き止めるような声が聞こえた気がするけど、戻るわけにはいかないとますますスピードをあげた。本来廊下を走るのはルール違反だし、注意される事案ではあるが、かなり下校時刻を過ぎていたので誰にも会うことはなかった。
にしても女の子の思考回路って怖い。なんでも恋愛に結びつけたがる気がする。……あぁ、明日が怖い。何言われるかなぁ…


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