原型を留めたまま死ぬ


次の日、意を決して登校してみれば何も昨日の話題について聞かれなかった。こりゃセーフと安心していたのも午前中だけ。午後にある訓練、今日のメニューはヴィランチームとヒーローチームに分かれて行う実践形式だった。そしてクジ引きでペアになったのは爆豪くん。昨日の今日かよ。三奈ちゃんがチラチラこちらを見ているが、気のせいだと思いたい。
というかハッキリ言ってそれどころではない。爆豪くんが結構イライラしてるからだ。何故なら相手チームに轟くんがいるという状況に加え、ステージは森の中。勢いよく爆破して燃えてしまえば大惨事になってしまう森の中では個性が制限されてしまうし、余計に苛立っているのだろう。


「爆豪くん。私が糸で罠を仕掛けるから、爆豪くんは敵を誘導してほしい」
「わーってんだよ」


まあ、返事してくれるだけありがたいと思う。入学当初なんて連携を無視して戦ってたから、一番最初の授業でコンビを組んだ飯田くんが凄い可哀想だった。だからこそ飯田くんがあの4人の中で一番評価されたのだけど。
そんなこんなで始まったバトルだが。


「いったー、たたた………」


何故か爆豪くんと一緒に横たわってる。というか抱きしめられて…


「……爆豪くん大丈夫!?」
「、へーきに決まってんだろ!だいたいお前が変なことするからこんな状態になってんじゃねーか!!」


爆豪くんの言う通り、私が吹っ飛んできた爆豪くんを受け止めようと糸をネットように配置したのが間違いだった。冷静に考えればあのとき爆豪くんは自力で着地出来る体勢だったのだが、上から人が落ちてくるということに私は少々パニックになってしまったのだろう。気づけばネットのように糸を巡らしていた。だけど即席の糸では飛んできた爆豪くんを受け止めきれず、そのままの勢いで私の方へ突っ込んで2人ともごろごろと転がってしまった。


「、ってめぇ!早く離れろ!」
「無理言わないで!糸が絡まってほどけないの!」
「じゃあ、動くんじゃねぇ! てめーがもがく所為で余計絡まってんだよ!!」


糸が絡まって離れられなくなってしまっているので、私も爆豪くんも離れられない。しかも、だ。今の体勢というのが、いわゆる抱きしめられている状態なのである。咄嗟に私を守ろうとしてくれたのだろうか、爆豪くんの腕はしっかり私の頭をガードしていて、私はその鍛え上げられた胸元に顔を押し付けているような状態なのである。はっきり言ってすごく恥ずかしい。動いて高くなった体温が直に伝わってくるし、個性のせいか甘くていい匂いがする。なんだか落ち着く香り…ずっと嗅いでたいかも…

って何考えてるんだ私。変態かよ。

どこかへ飛びかけていた意識を頭を軽く振ることで戻し、一つ一つ解こうと指先に注目する。先程爆豪くんに怒られたので慎重にだ。
糸なのだから切ってしまえば良いと思うかもしれないが、これはピアノ線のような細くて丈夫な糸なのだ。簡単には切れない・燃えないの丈夫な素材を使用しているので、脱出するには地道にほどかないといけないのである。
結局、糸はほどけず、みかねた轟くんが百ちゃんを呼んできてくれて工具を出してもらい、やっと糸の拘束から解放された。


「爆豪くん!」


糸が切れた途端に帰ろうとする爆豪くんを呼び止める。振り返ったその顔がいつもより眉間に皺がよっていて、ただでさえ怖い顔の凶悪さが増している。早く謝らなきゃとは思うものの、まるで蛇に睨まれた蛙のように固まってしまい中々声に出てこない。それでも爆豪くんは早く言えと急かさず待ってくれる。その優しさと申し訳なさで目がウルウルしてきた。私が泣いてどうするんだ。涙をグッと堪え、拳を握りしめた。


「さっきはその…ごめん……」
「アァ?」
「私がでしゃばっちゃったから負けちゃって…」
「てめぇ、自覚してるなら次は気をつけろや」


真っ正面から怒鳴られるのは久しぶりで、とっても怖い。これを華麗に受け止める切島くんほんと凄いと思う。尊敬する。私もビクビクしないでお喋り出来るようになりたいな。
学校から森へ移動して来たバスへ歩いていく彼の背中を、まだ足に少し絡みついている糸を取って追いかけた。


prevbacknext