否定するには遅すぎた


「んー…」


まさかこの人がこんな所で寝てるとは思わなかった。気持ち良さげにベンチに横たわって寝ているのは、先程話題に上っていた爆豪くん。普段の眉間にシワが寄っている顔から想像出来ないほど穏やかな顔をしている。一見不良そうに見えて、遅刻も無ければ授業中に寝ているところも見たことがない、案外真面目な爆豪くんがこんな所で居眠りとは予想外だ。

しかしこうして顔をよく見てみると、整った顔立ちでカッコいいと思う。てか可愛い。寝顔って随分と幼く見えるんだなぁ。ツンツン立ってる髪の毛も、今は風に吹かれて穏やかに揺れている。つり上がっている目は閉じて、睫毛が長いのがよく分かる。スッと通った鼻筋に綺麗な肌。薄く開いている口が少し間抜けで、小さい子の寝顔を見ているように愛おしく感じる。乾燥知らずの薄い唇に触ってみたいと思わず手を伸ばす。


………今、私は何を考えた?
異性の身体に触れたいと考えるなんて変だ。私、変態だ。今までそんなこと思ったことなかったのに。

『恋だよ、恋!』

なんて今、三奈ちゃんの言葉を思い出すの…恋なんてするわけない。私が爆豪くんに恋なんて……

あれ。なんで私は爆豪くんのことを好きになるはずがないと決めつけてるんだろう。確かに高圧的な態度は大きなマイナス要素だけど実は優しいし、なにより常に一番目指して努力してるところなんて尊敬する。
というか好意を持たないようにって自分に言い聞かせてる時点でもうアウトなんじゃないのか。認めないと頑なに否定していたけど、それって私、実はもう爆豪くんのことが…


「好きなのかなぁ…」


なんてそんなことない。ありえないよ。


「触ってんじゃねぇ」
「、ひぇ!?」


宙に浮かせたままだった手を、いきなりパシッと掴まれて思わず変な声が出てしまった。下を見れば、先ほどまで寝ていたはずの爆豪くんがいつも通り眉間にしわを寄せてこちらを見ていた。怖い。さっきまであんなに可愛かったのに。というかさっきのひとり言、もしかして聞かれてた…?


「 あ、べ、べベベ別に触ってないよ! ただ気分転換に中庭に来たら爆豪くんが寝てて、でももう少しで授業が始まるから起こそうかなと思っただけで! な、なな、なにもしてないから!!!」


自分でもすごい慌てようだと思う。だけどこんな状況で落ち着けるはずもなく。ピョンと未だにベンチに寝っ転がっている爆豪くんから距離をとった。


「ああああそう、もう授業が始まるから教室戻るね! 爆豪くんももう戻った方がいいよ!! じゃ、じゃあもう行くね!」
「おい、待てや」


呼び止める爆豪くん。だけど此処で振り向いたらアウトな気がして、走り出そうと背中を向けた。瞬間、再び腕を掴まれる感覚。ここには私の他には一人しかない。ギギギ…とロボットのようにぎこちなく後ろを振り返ると、上体を起こした爆豪くんの姿。


「てめぇ、」
「ごめんなさいいい」


何か言いかけようとした爆豪くんを振り切り、逃げてしまった。これ、教室戻ったら私死ぬかも。


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