※この話はアニメ無印の13倉庫の怪の続きのようなつもりです。ほんの少しのホラー要素が含まれております。また、司令部内の構造を捏造していますのでご注意下さい。
「しっかしこないだは拍子抜けだったなー。まさか犯人が……」
と言うとハボックはアルフォンスと戯れているブラックハヤテ号に視線を向けた。
ハボックの言葉にブレダ、ファルマン、フュリーも何とも言えない顔で同じ方向に目を向けた。
多数の視線を浴びた無垢な子犬は元気よくワンと一声吠えた。
「なんの話?」
話の見えない少女はホークアイの淹れてくれた紅茶とお茶漬けのクッキーを頬張りながら首を傾げた。
「実はな────」
「ハァー、あほらし…」
各々語りだしたこの間のちょっとした怪談話(真相は怪談話等ではなかったのだが)にエドワードは呆れた顔を隠しもせず盛大な溜め息を吐いた。
「まさかコイツが犯人だなんて思わないだろう!」
「エドワード君だって真相を知らなかったら怖いでしょ?!」
「生憎錬金術師は科学者なんでね。非科学的なものは最初から信じてねーんだよ」
どこかで聞いた言葉に部屋にいた男性陣(アルフォンス除く)はこれだから錬金術師はと首を振った。
「まあこの間の話はおいといて。知ってるか?ここには他にも色々あるんだぜ」
「東方司令部七不思議ですね!」
ハボックの言葉にファルマンは声を上げた。
「七不思議ぃ?」
少女の胡乱気な顔など気にもせずファルマンは嬉々として説明する。
「まず第一の噂は真夜中、演習場横の倉庫から聞こえる物音ですね」
「あ、それなら僕も知ってます。一週間くらい前に寮の隣の人から聞きました」
フュリーのタイムリーな話にファルマンは先を譲った。
「先ほど言った通りこれは僕の寮の隣の人から聞いた話です。その日彼は街に飲みに出ていて帰ってくる頃にはもう深夜を回っていました。宿舎に帰ろうと演習場横を歩き丁度倉庫の前を通りかかったとき微かな物音が聞こえました。彼も酔っていたから最初は聞き間違いかと思い通りすぎようとしたらもう一度今度ははっきりと彼の耳に届きました。誰かのいたずらか?と思うもこんな真夜中にそんなことをする輩はそうそういないしそもそも倉庫は演習後しっかり施錠する決まりになっているから誰かが簡単に入れるわけはない。一気に酔いが醒めた彼は恐る恐る倉庫の扉に手をかけるとなんと施錠されているはずの扉は簡単に開きました。驚いて中に足を踏み入れ、誰かいるのか呼び掛けますが誰の返答もありません。しかし物音は鳴りやまないので仕方なく音のする倉庫の奥の方に進むとそこには一人軍服姿の男が彼に背を向け佇んでいました。見知った軍服姿にほっとし、『おいこんな時間に何やってんだ。悪ふざけにしたって見つかったらまずいぞ』と声をかけながら近づいていくと段々と彼の顔が青ざめていきました。さっきは暗いことと離れていることもあって気付きませんでしたがその軍服姿の男には無いんですよ………膝から下が。凍りつきその場から動けないでいるとゆっくりと男は振り返って……その顔は血まみれで原型を留めていなかったそうです。」
「ぎゃああああああ!!!」
部屋中にハボックの悲鳴が響き渡った。
「その日以来彼は夜中そこを通らなければいけない時は耳を塞いで全力疾走しているみたいですよ」
「なあ、それって…見間違いとか勘違いじゃないよな?」
「はい。僕に話した時、相当参ってたから本当に見たんだと思います」
フュリーの返答にブレダは肩を落とした。
「昔、演習中に誤射の砲弾が当たって亡くなってしまった兵士がいたそうです。噂ではその彼が未だにさまよい続けていると言われています」
ファルマンの言葉に皆苦い顔をした。
「確か俺らが入隊する何年か前にそんな事故があったって聞いたな 」
「ええ、大佐なら何かご存知かもしれませんね。では次の噂は、」
「まだやんのかよ!」
ハボックの言葉を華麗にスルーしファルマンは続ける。
「第二の噂は書庫にて勝手に飛び出す本と動き出すビスクドールです」
「書庫って俺そんなの聞いたことねえし見たこともねえぞ」
東方司令部を訪れた際は必ずといっていいほど書庫を利用するエドワードは訝しげに声を上げた。
「エドワード君がよく利用している書庫は中央棟じゃないですか?」
「そうだけど。なに?ここって他にも書庫があんのか?」
「ええ、もう一ヶ所東棟の一階の奥に。といっても今は書庫としての役割はなく物置小屋となっていますがね」
「へえー初めて聞いた」
「無理もありません。改築されて今の書庫ができたのは8年も前ですから。───これはある女性の体験談です。定時になり退勤しようとした彼女は迷子になってしまったんです。まだ配属されたばかりで勝手が分からず中の構造をよく理解していませんでした。といっても司令部はとても広いですから配属されたばかりの方にはなにも珍しいことではありません」
フュリーはおずおずと手を上げ、実は僕も最初はよく迷っていましたと恥ずかしげにカミングアウトした。
「しばらく歩いていると彼女はある扉の前にたどり着きました。見慣れない扉に好奇心が勝り部屋の中に足を踏み入れた彼女の目に留まったのは乱雑に放置されたガラクタの数々でした。埃の被った今は使われなくなったであろう備品に贈呈品と思しき高価な置物。───そしてその中でも取り分け目立つ等身大のビスクドール。薄暗い室内に差し込む夕陽に照らし出されたそれはとても美しく、長いブロンドの髪は人工のものとは思えないほど光輝いていました。
奥まで進むと壁一面に設置されている本棚に彼女はこの部屋の本来の役割に思い当たり納得がいきました。しばらく本棚を眺めながら歩いていると一冊の本が床に落ちていることに気付きました。その本だけ埃が被っていないことに疑問に思った彼女でしたがあまり気に止めず目の前の棚に戻しました。一周し部屋を出ようとすると背後からバタンという音が聞こえました。驚いて後ろを振り返るも何かが倒れたような形跡はありません。音の正体を確認すべく奥まで戻ると先ほど棚に戻したはずの本がまた床に落ちているのに気付き本に手を伸ばすも彼女の手は震え不自然に止まりました。本の上には長いブロンドの髪が何本も落ちていました。慌てて辺りを見回すも当然誰の気配もなくしかしそれだけにこの不可解な現象に説明がつかず彼女の心臓は凍りつきました。上にのった髪を払い、まじまじとその本を見てみると先ほどは気付かなかったけれど大分古ぼけていて至るところがボロボロでした。そっと冊子を開くと一行だけ『Bloody Doll』と書かれていました。そのタイトルに何か嫌な予感を覚え心臓は早鐘を打ち、震える指でページを捲りました。すると現れたのはただの白紙でした。次のページもそのまた次のページも白紙であることを確認すると彼女はほっと胸を撫で下ろし安堵すると最後のページを開きました。次の瞬間彼女の目に映ったのは………黒ずんだ赤一色に染まったページとその真ん中に書かれた『lt's your turn』という言葉。彼女は悲鳴を上げて部屋から出たそうです」
「………………」
静まり返る一同の中、エドワードはぽつりと呟いた。
「……なあその本ってさ、まだそこにあるのか?」
「多分誰かが持ち出していなければそのままあると思いますよ。」
「そっか……」
何やら考え込んでいるエドワードにブレダは声をかけた。
「どうした、エド?」
「いや、ちょっと見てみたいなーってさ」
「おいおいおい大将正気か?!」
ハボックは信じられないとばかりに声を荒げた。
「だって、本は本だろ?」
平然と言ってのける少女にそういえばこの子もまたシェスカ同様本の虫であったと再認識した。
「……これもやっぱり幽霊の仕業なんですかね?」
「どうでしょう。霊の目撃情報はありませんが……」
少し言葉に詰まりながらもファルマンは続けた。
「その、ビスクドールに関することなら」
「ビスクドールってその部屋に置かれてる?」
「そうです。……なんでもそのビスクドール喋るらしいんです」
「喋るって、そんな」
「……『髪をちょうだい』と。何人かその書庫で奇妙な体験をしたものがいますがこう聞かれるのは決まって綺麗なブロンドの髪をしているものだけらしいです」
「ブロンド……」
ぽつりと呟くエドワードにハボックは怖さを払拭するようにわざと明るめの声で冗談めかして言う。
「大将の髪って長くて綺麗だし真っ先に狙われそうだよなー!なんて…ははは」
瞬間部屋中の非難するような眼差しを一身に浴びたハボックは頭を掻きながら空笑いをした。
「冗談だよ、冗談!」
「しかし、まったくあり得ないことではないかと…」
細目を更に細くし難しい顔で思案するファルマンにどういうことかと皆押し黙り先を促す。
「先ほどの話にはまだ続きがあるんです。後日彼女から相談を受けた上官は例の書庫に向かいました。馬鹿馬鹿しいとは思いつつも蒼白な顔で訴える同性の部下に全てが嘘だとも思えなかった彼女は自ら真相を暴いてやろうという思いでした。颯爽と歩く姿は凛々しく見事なブロンドの長髪が歩幅に合わせるように揺れています。定時を疾うに過ぎてからの探索ということもありも日は暮れ外はすっかり真っ暗でした。書庫の扉を開け窓から差す月明かりを頼りに部屋の電気をつけるも蛍光灯がきれているのかまったく点く気配がありません。彼女は思わず舌打ちをし部屋中を見渡すと等身大のビスクドールが目に入りました。暗闇に浮かび上がるそれは大きく印象を変え彼女の目にはただただ不気味に映りました。なぜこんなものがここにあるのかと眉根を寄せ、尻込みすることもなくさっさと奥まで進むと本棚までたどり着きました。本棚を確かめるように歩いていると一冊の本が床に落ちていることに気付きました。本を手に取り触ってみるとざらざらとした手触りに本の角が微妙にすれていて相当傷んでいることに気付きました。月明かりを頼りに冊子を開き目を凝らすとそこにはたった一行だけ聞いたタイトルと全く同じものが書かれていました。どうやら話は本当だったようだと次のページを捲ろうとした瞬間彼女の背後に不穏な気配が漂いました。『誰だ!!』声を荒げ振り向くとそこには先ほど見たあのビスクドールが立っていました。さすがに驚きしばらく動けないでいると月明かりに照らされたビスクドールの口元が動き何かを呟き始めました。聞き取れず耳を凝らしていると今度ははっきりと告げました。『髪をちょうだい』。その言葉をしっかりと聞き留め後退するもビスクドールは思わぬスピードで距離を詰め右手で彼女の首に手をかけました。細くしなやかな陶器の手からは想像もできないほどの強い力に堪らず呻くとビスクドールの左手は彼女のブロンドの髪を掴みました。尚もちょうだい、ちょうだいと言い募りながら与えられる攻撃に『こ、の…いい加減にしろ!』ありったけの力でビスクドールの腹部を蹴り飛ばすとその陶器は呆気なく吹き飛び床を転がり彼女はそれを見届ける前に急いで部屋を出たそうです」
「なんか……一気に信憑性が増したな」
「……はい」
ブレダとフュリーの顔が若干ひきつる。
魂の抜けたような顔で天井を見つめるハボックはどうやら話の途中で放心してしまったようだ。
アルフォンスはブラックハヤテ号と戯れていた手を止め未だ押し黙ったままのエドワードを見つめると言い知れぬ不安が胸をよぎった。
姉さん、変なこと考えてないと良いけど。
何かと厄介事に巻き込まれる(自ら首を突っ込む場合が大半)姉を思うとアルフォンスは無いはずの胃がキリリと痛む心境だった。
「第三の噂は、」
ファルマンが続きを話そうとすると遮るように司令室の扉が開いた。
室内の妙に緊迫した空気と一斉に向けられた視線にここにいる皆の上官は首を傾げた。
「なんだお前達、どうした?」
ロイに続き部屋に入室したホークアイも異様な雰囲気に眉根を寄せた。
「なんだ、大佐かー。驚かさんで下さいよー」
「ハボック貴様!なんだとはなんだ上官に向かって!」
声を荒げる上官を尻目にホークアイが冷静に訊ねる。
「何かあったの?」
「この東方司令部に纏わる怪談話をしてただけですよ」
いつもと変わらず平静な糸目はけれどもどこか少し楽しそうであった。
「またか、お前達はほんとに懲りないな」
ロイは大きな溜め息を吐き、呆れた様子を隠しもせず己の部下達を見渡した。
「いや今回のはマジっぽいんですって!」
なあ!と辺りを見回すハボックに先ほどの怪談を聞いたもの達は皆一様に頷いてみせた。
「おや鋼の、君もかい?」
意外な人物が肯定を示したことに驚いたロイだったがそれもつかの間、すぐにいつもの意地の悪い笑みを少女に向けた。
「そうか怪談が苦手とは驚いたな。頭脳は大人顔負けでも中身はまだまだ子供ということか」
「なんだと!?」
目の前で繰り広げられる上官と少女の恒例になりつつあるやり取りにホークアイは頭を抱えた。少女を全力でからかう大人の生き生きとした様子こそがまさしく"子供"であった。
アルフォンスと目が合うとその鎧には表情こそ出ないが生身であれば自分と同じような顔をしているだろうと想像がつく。
「僕今なら中尉の考えてること分かります」
「奇遇ね私も貴方が考えていることが分かるわ」
ホークアイはなにかとすぐに少女をからかおうとする己の上官にアルフォンスはすぐに挑発に乗ってしまう姉に対して深い溜め息を吐いた。
それに、と再度楽しそうなロイを視界に入れる。
少女が子供でなくなった時きっと一番狼狽え焦るのはこの男だ。年頃の少女の成長は驚くほど早いものだ。肉体的にも精神的にも。その時この金色の少女に惹かれている男がどのような反応をするのか少し興味があった。同時に少女を傷つけるようなことがないか見定めなければならない。いつこの均衡が崩れるか目の前の光景にホークアイは一人思うのであった。
「またかどうせこの間の二の舞だろう」
「そんなこと言わずに!俺達が平穏に仕事するためにも頼みますよー!!」
必死に手を合わせ懇願するハボックにロイはやれやれと肩をすくめた。
「当然お前も同行するんだろうな?」
「あー…俺今日はちょうど予定入ってるんすよ」
頭を掻きながら目を逸らす姿はなんとも白々しい。
「すいません俺も今日はちょっと」
「僕も今日は無理そうです」
「私は夜勤なので行けそうにありません」
続くように告げられる言葉にロイは顔をぴくぴくと引きつらせた。
残った美貌の副官も夜勤であるが仮にそうじゃないとしてもくだらないと一蹴りし同行しないだろう。
しばし考え込むと突如閃いたとばかりに顔を明るくしこの男にしてはニコニコと不自然なまでの笑顔を浮かべて一点を見つめる。その視線の先に皆この男が何を考えているのか大方の予想がつきなんともいえない気持ちになる。
「鋼の。君はどうだい?」
「どうって何が?」
エドワードは突如向けられた視線と言葉に首を傾げた。
「私に同行する気はないのかね?」
「同行ってアンタと一緒に?」
ハッ冗談だろうと嘲笑するエドワードにロイは意地の悪い顔つきで煽り始めた。
「そうかそうかやはり鋼のは怖いんだな。まあ無理もないな君はまだ小さなこど「だぁれが目の前に立たれても気づかないほどのドチビだってー!?」
最後まで言わせてたまるかと言葉を遮りその勢いのまま言い放つ。
「いいぜ、七不思議だかなんだか知らねえがそんなもん俺がさっさと解明してやるよ!」
「勇ましいねそれでこそ君だ」
威勢よく高らかに宣言した少女に男は成功したとばかりにほくそ笑む。
「ちょっと姉さんまたそんなこと言って…」
アルフォンスは声に呆れを滲ませ少し心配げに続けた。
「僕も一緒に行こうか?」
ホークアイが夜勤のためその間ブラックハヤテ号を
預かる約束をしていたアルフォンスだったが暴走した姉を自分抜きで行かせるのと主人に忠実に躾られた犬とでは天秤にかけるまでもなかった。
それにこの優秀な飼い犬は留守番など朝飯前なのだ。単に自分が遊びたかっただけである。残念ではあるがこうなってしまった以上仕方なさそうだ。
「いいや、アルは待ってろ。中尉と約束したんだろう?それにこんなもん俺一人で充分だ!絶対解明してみせるさ。こいつより先にな!」
共に行動するのに協力し合う気はないのかと皆は思ったが口にするものはいなかった。
「ええ!?ほんとに大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫!心配すんなって!」
からからと笑いながら口にする姉の言葉はまったく当てにならず溜め息が漏れる。
「アルフォンス君、心配ならここに一晩いればいいわ」
「いいんですか!お邪魔になりませんか?」
「大丈夫よ。それにこの子のお守りを頼んだのは私だし。貴方もそれなら安心でしょう?」
「はい!ありがとうございます」
ホークアイの申し出に声も明るく頷いた。