2時間はとうに過ぎ、時は夜となっていた。
「すっかり暗くなっちまったな。歩いて2時間だァ〜?2時間なんて2時間前に過ぎちまったぞくそ」
歩いていると何度目かの魔獣注意の立て札に遭遇した。
「また魔獣注意の看板だぜ。こんな調子で本当にオレ達会場に着けるのかなァ」
立ち止まって「オナカすいたよーーウンコしたいよーーー」と喚くレオリオにゴンがおいてくよと振り返った時、クラピカが一軒家を見つけた。
あの老婆曰くこの一軒家に住む夫婦がナビゲーター。
「や〜っと着いたぜ」
「静かだな。我々以外に受験者は来ていないのか?」
レオリオがノックする。
「ねえレオリオ、ノック2回ってトイレだよ?こういう時のノックは3回だよ!」
「う、うるせェな!!」
というやり取りをしたが返事がないので勝手に入ることになった。
しかしドアを開けて私たちの目に飛び込んできたのは襲われている夫婦と魔獣。
男性が倒れており、魔獣は女性を抱えたまま外へ飛び出した。
「助けなきゃ」
「レオリオ、ケガ人を頼む!!」
「任せとけ!!」
「私も付いてくー」
私たちは家を飛び出した。
「森に逃げ込んだぞ」
「どっちへ行ったんだ」
「あそこだ!!」
暗く見づらい視界の中で素早く動く魔獣を見つけるとは何という動体視力。
木の上を伝って魔獣を追いかけるゴンを追って私とクラピカは地を走る。
「その女性を放せ!!」
「うでずくでとり返してみな!!」
「すごいや!!アイツしゃべったよ!!」
「人語を操れる獣を総称して魔獣というんだ!!」
「ゴン知らなかったの?」
「凶狸狐と呼ばれる変幻魔獣だ!人に化けることもできる油断するな!!」
クラピカはとても博識なようだ。
「言葉が通じるなら話が早いや」
そう言うとゴンは叫んだ。
「やいコラヘッポコキリコォーッ!!!」
そして凶狸狐に一撃をくらわせた。
凶狸狐が女性を落とす。
最後尾を走っていた私より先にクラピカが女性を抱えた。
「ふう、ムチャする奴め」
去っていく凶狸狐をゴンが追う。
私とクラピカはその場に残った。
「どこかひどく痛むところはあるか?」
「私は…大丈夫。それより夫は…?彼は一体どうなったの?」
「我々の仲間が看ているから心配ない」
「お願い。夫のところへ私を…連れて行って」
女性が掲げた手にはイレズミが入っている。
これは学校の図書室の文献で見たことがある。スミ族のイレズミだ。
この瞬間私は理解した。
この女性と夫役の男性、そして凶狸狐はグルだ。その上彼らは私たちを審査しているに違いない。
妻役の女性にスミ族のイレズミがあるという矛盾。扉を開けるまで静かだったのにタイミング良く襲われていた夫婦。
この推測はきっと正しい。
と考えているとレオリオがやって来た。
「クラピカ、ココロ、無事か?」
「!……ああ、魔獣はゴンが追っている。男の容態はどうだ?」
「心配なさそうだ。見た目ほどキズは深くなかった。今は家で鎮痛剤を飲んでぐっすり寝てる」
「……そうか」
クラピカがいきなりレオリオに武器を当てた。
すると驚いたことにレオリオはレオリオではなくなった。
「なぜニセ者とわかった?」
「別にニセ者だと思ったわけじゃない。私は「ケガ人を頼む」と言い、レオリオは「任せろ」と言った。そのケガ人を置き去りにしてノコノコ現れるような奴だから殴った。それだけだ」
クラピカが言い終わるとニセ者は消えた。
「さて……1つ答えてくれ」
クラピカは武器を構える。
「お前は一体何者だ?」
女性はニヤリと笑った。
「クラピカ、武器を下ろして。凶狸狐とこの人とあの男の人は私たちを審査してるんだよ。」
* * *
「ふーむ、何年振りかねェ、うちら夫婦を見分けた人間は…」
「うれしいねェ」
「声と顔の違い…わかるか?」
レオリオが小声で聞く。
「いや…全く」
「私もわかんない」
クラピカと私も小声で答えた。
「ちなみにオレとクラピカに殴られた方がダンナさんだよ」
だからそれはどっちだ。
「さて……もう君らも察しのとおり」
「我々夫婦がナビゲーターだ」
「娘です」
「息子です」
「このイレズミは古代スミ族の女性が神の妻となり生涯独身を通すことを誓って彫るもの。古代史に長けていないとまず判読不可能」
古代史に長けているわけではないけれど、図書室通いは無駄にならなかったのだ。よかった。
「博学をもってヒントを見逃さず見事私達2人が夫婦でないことを見破ったクラピカ殿。その上冷静に状況を分析して私達があなたがたを審査していることまで気付いたココロ殿」
殿って変な感じだ。
「レオリオ殿は結局最後まで私の正体に気付かなかった。しかしキズの応急処置は医者以上に早くて的確。妻の身を案じる演技をしていた私に対し、ずっと力強い励ましの言葉をかけ続けてくれた」
レオリオはやっぱりお人好しか。
「そしてとてつもなく人間離れした運動能力、観察力を持つゴン殿」
「合格だ。会場まで君達4人を案内しよう」
私達はコツンと拳を合わせた。
いつの間にか私もこの3人と打ち解けたように思う。
→