1年A組ヒーロー科。
彼は体育祭でも結構活躍していて、アツくてかっこよかったし、だから職場体験の指名もそこそこ来ていたって話だ。
中学生の頃は髪、黒かったけど、今は赤い。ワックスで固めていて少しだけ紅頼雄斗に似た髪型だ。
中学の頃よりがっしりしてきたなあ。毎日筋トレとかしてるんだろうな。
今日は私が日直だった。
日誌を提出して仕事は全て終わった。
赤く染まった教室たちを眺めながらゆっくり廊下を歩く。
と、なにかにぶつかった。
「いてっ、とと……」
私は何にぶつかったのかしらと足元に目をやる。
「……切島くん」
「あ!おお、お……みょうじ!!!」
ものすごく驚かれたみたいだ。
「て、あれ?切島くんさ、私のこと覚えてたんだね」
中学が同じだとはいえ、同じクラスになったのは3年生の時だけだし、ほんの少ししか話したことがない。
あの頃からずっと切島くんに片想いで、あの頃は照れ屋だった私は切島くんと2人で話すのが恥ずかしくてすぐに会話を切り上げていた気がする。
それに他人行儀だったかも。
「もちろん覚えてるぜ!!だってほら、みょうじだもんな!?」
「ぷふ、何それどういうこと?私だもんなって何?」
目の前の彼はしゃがんだまま何故か顔を赤くしてワタワタし始める。
「切島くんっていつもかっこいいのに何か可愛いね、ウケる……あ、私何言ってんだろごめん」
いつもいつも漢らしさがだの漢気がだの言っている切島くんに可愛いとは失礼なことを言ってしまった。
それに恥ずかしい。
「あー、ていうかさ。ぶつかってごめんね。しゃがんで何してたの?」
「全然、全然ダイジョーブ!!あ、俺、靴紐ほどけてたから結んでた」
なるほど、だから私は気付かずにぶつかったのか。余所見もしていたし。
「へーえ、そっか。私はね、バカだから何にも考えずに教室みながら歩いてた。前方不注意だなあ、あは」
「教室…?そっか、みょうじそういうの好きだったよな。何かイイ感じの風景」
「何かイイ感じの風景って言い方面白いね。でも何で切島くんそんなの知ってんのよ?」
「え、いや、よく中学の時みょうじが友達と話してるの聞いてたから…」
「…何それ」
「あ、ごめん俺ストーカーとかじゃなくてその、な!?」
「別に怒ってないよまあ嬉しいかなあ。それより切島くんいつもと何か違うね?うーん、まあいいや」
そう、まあいいんだよ。
私は別のクラス──普通科だし、もうそんなに会うこともないでしょ。
だから告白してみようかな。なんて気持ちになった。
「あ、そーだ。私ね中3の時からずっと切島くんのこと好きなんだ。応援してるよ、ヒーローになるまで陰から見守らせてもらいます」
にこっと笑って見せて、じゃね〜と手を振って帰ろうとした。
しかしそれは切島くんによって阻まれた。私の肩を掴んだ切島くんの手によって。
「え?今聞き間違いじゃなけりゃみょうじ俺のこと好きって言った?」
「……言ったよ。かっこよく告ってかっこよく帰るつもりだったんだから引き止めないでよほんと切島くん何してくれてんの」
「うれしい!!」
……は?
「俺、俺もみょうじのことずっと好きだった!」
はー!マジかよー!!と騒いでいる切島くんのことが全然わからない。
好いてくれるのは嬉しいけれど、これで晴れて両想いだねーめでたしめでたしとはならない。
だって私は、キラキラしたマスコットを鞄からぶら下げていて放課後にスタバに寄って休み時間にキャイキャイ騒ぐ、よくいる量産型女子だ。
こんな素敵な人の目に留まるような何かが抜きん出た女の子じゃない。
切島くんの方を振り返って聞いた。
「私のさ、何がいいの?そこら辺にある雑草みたいな奴でしょ、私なんて」
「俺、なんつーかさ、中学生の時のいつだっけ、教室に残って詩集?読んでたみょうじ見かけたことあって、んでみょうじが泣いててなんか綺麗だなって思って。ヒトメボレってやつ?」
同じクラスになってみょうじの名前知って嬉しかったんだよなー。そしたらみょうじっていつも誰にでも優しいし、字とか綺麗だし、やっぱ時々放課後に残って詩集読んでるのが印象的だったなー。
などと至極楽しげに話す切島くん。
聞かされていて恥ずかしくなってくる。
じわじわとほっぺたが熱くなってくる。
「あ、みょうじ照れてんじゃん!中学のころすっげー照れやすいイメージあったのに最近照れてるみょうじ見てなかったからなんか懐いなァ」
「うるせ。………ねえ切島くん、付き合おうか。切島くんが紅頼雄斗みたいな漢気溢れるヒーローになるまでずっと何があっても支えてあげるよ」
「おい普通それ男が、俺が先に言わなきゃいけないやつじゃねーか!支えてやるとか言うのもみょうじ、あーもー、おい、あのなァ……」
うぐうぐと唸っている切島くんが面白くて、思わずげらげら笑ってしまった。
「いや、何か俺、みょうじの女らしくないとこ好きだぜ。詩集読んで泣いたり裁縫上手かったり調理実習得意だったりすんのにさ、そういうとこあるの爽やかでいいと思う」
「切島くん、結構失礼なんだね」
お前の良いとこ言ってやったぜ、てな感じの満足気な表情の切島くんの頬を思いっきり引っ張ってやった。
「そんじゃ、私帰るわ。じゃね!」
「おう、またな!」
「また、か……うん、いいね。うん」
「?」
なんかまた明日も会えるよって感じでいいなって思ったんだ。
「またね!」
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