中学生になったころ、お父さんの経営する会社が軌道に乗りだした。
お?これは…?って思った投資家さん達の融資と、専務であるお母さんの頑張りと、社員さん達の一丸となって働く姿勢のおかげで、ぐんぐん会社が成長した。………と聞いている。私には難しい話だ。



「なまえちゃん!これなら今までみたいな貧乏生活とはおさらばやで!!」

「ほんま?やったー」

「たしか、お金があれば行くのになあって言ってた高校なかったか?」

「立海大付属高校やで。小学校同じだったミカちゃんが、立海の中等部から高等部にそのまま進むって言うてたからな」

「お母さん達と離れて一人暮らしできるなら、そこへも行けるわ!氷帝学園レベルじゃないならどこの私立でも大丈夫や!!」






かくして私は大好きなミカちゃんと同じ、立海の高等部へ行けることになったのだ!!











* * *


『ハンカチ持ったな?』

「持ったよ」

『じゃあ、入学式の1時間前に正門で集合ね!!』

「分かっとるって〜、ふふ」


鏡を見て、ふたつくくりをきゅっとひっぱってみる。
立海の校則を目にして「緩いじゃんラッキー」と髪の毛を明るい茶色に染めたのだが、私の縦巻きくるくるくせ毛によく似合っていると思う。

新しくカバーを替えたスマホがピコンと音を立てる。ミカちゃんからメールだ。


「えーっとなになに、みょうじと会うこと考えたらわくわくが止まらない、だってぇ〜?ミカちゃん可愛すぎかよ!!私もドキドキしてるって返信しておこ」



電源を切ったスマホをスカートのポケットに滑り込ませて、リュックをえいしょと背負う。
新しいローファーを靴べらでぐりぐり広げながら履いて、床をぺたぺたと鳴らす。



いってきまぁす。
























「わ、お母さんお父さん、もう着いてたの?待ち合わせ10分前だよ?」

「楽しみで早く来てしもうた」

「それより見てやあんた、なまえちゃんの制服姿。感動して泣きそう!」

「お母さん恥ずかしいから我慢してよ〜」



お母さんとお父さんを体育館の保護者席まで見送って、私は校舎へ向かった。

1年生の階はここで合っているはず。私の教室は……D組!ならここだ!!

開け放されたドアをくぐると、数人からちらっと見られた。緊張する。
そんな私の視界の端っこに見覚えのある顔が映った。

「も、もしかしてミカちゃん?」

「え、やだ、みょうじ?」

ミカちゃんと私は偶然にも同じクラスであるようだ。
私たちは無言で暫く見つめあった後、ひしと抱きしめあった。


「みょうじ髪の毛染めた?でもすぐわかったよ!!そんな特徴的な眠そうな真顔、みょうじ以外に見たことないもの!」

「み、ミカちゃん〜!相変わらずお口は悪いのに可愛さが天使級〜〜好き〜〜運命」


ミカちゃんは例えるならばそう、橋○環奈と本○翼を足して2で割った感じの顔なのだ。こんなに可愛い天使が幼少期からの私の親友である。全国の男子共よ、存分に羨むが良い。



「ミカ、その子見た感じ外部からっぽいけど知り合い?」

「あ、桜坂ぁ!そうそう、この子が私のみょうじなまえ!!みょうじ、この子は桜坂だよ。中二の頃メールの話題に使ってた、ケバケバ大魔神!」

「おおー、あのケバケバ大魔神さんか。たしかにピンクアッシュの髪の毛だし宇宙ネイルじゃん。かわいいな、よろしく」

「ちょっとミカ、私のことケバケバ大魔神なんて呼んでたの!?もうー!!なまえちゃんよろしくね?ケバいけど私怖い人じゃないのよ」


早速新しい友人ができて余は満足じゃ。なんてな。

少しお話してから席につくと間もなく、担任であろう男性が教室に入ってきた。
出席番号順2列に並ぶように言われて廊下に並ぶと、お隣はケバケバ大魔神こと桜坂さんであった。
2人で顔を見合わせて驚いた。




体育館に着くと保護者席も生徒席ももう満席で、うちのクラスが最後の到着だったようだ。


席につく。
ケバケバ大魔神めちゃくちゃいい匂いだ。これはもしやANNA SUI?お母さんもANNA SUIユーザーなんだよなあ。


ケバケバ大魔神の麗しきANNA SUIと校長のお経みたいな祝辞によって退屈してきた頃、ようやく入学式は終わった。


ぞろぞろと教室に向かう生徒の群れの中をぼーっと歩いていると、ケバケバ大魔神に声をかけられた。

「なまえちゃんって眠そうな顔してるけど、やっぱりさっき眠かった?」

「うん、眠そうな顔は生まれつきだけどさっきはやばかったぁ」

「話聞いてた?まあ特に重要なのはなかったけど。あ、そうそう明日の午前中は部活動紹介だって」

「ほへー、私何に入ろうかな。帰宅部はありかなあ」


まあありだとは思うけど、と桜坂さんが苦笑いする。
ああ、それと私はこれから彼女をケバケバ大魔神もしくは桜坂ちゃんと呼ぶことに決めた。















お母さんお父さん、初日からお友達が出来ました。
高校生活わくわくです。