桜坂ちゃんとメアド交換して、夜に聞いてみるとやっぱりANNA SUIユーザーだった。
ケバケバ大魔神だけど彼女は保護者っぽい性格だし、ANNA SUIユーザーだし、一人暮らしの私にとってはお母さん代理になるのだろうなとこれからの高校生活に思いを馳せてみた。
いやこれからの高校生活っていうか桜坂ちゃんのポジションだけだった。いやー、日本語間違えちゃった難しい。
「ミカちゃん、桜坂ちゃん。おはよー」
「わぁ、ほんとになまえって眠そうな顔がデフォなんだね」
「しかもいつも表情筋が怠慢してるの。真顔。あはは」
友人達は私のことをひとしきり笑ってからおはようと返事してくれた。酷くないか?
教室のドアをガラガラと開けて、担任が元気におはよーと叫びながら入ってきた。うるせえ。
後ろからダンボール箱を抱えた男子達が入ってきたので、教科書を配るのかもしれない。
「まず席替えな!!」
うそやん。
すぐに席替えするタイプかよ。えええまだ出席番号でいいじゃん。
桜坂ちゃんの隣になった。
ミカちゃん離れた。
桜坂ちゃんと手を繋いで2人でミカちゃんに向かってやーいやーいと囃し立てるとミカちゃんが少しむくれた。かわいい。
教科書が配られてマーカーで名前を書き終わると、自己紹介タイムだと告げられた。
担任はどうやら生徒に青春を謳歌させたい系の人らしい。
「桜坂サクラです!立海からそのまま来たよ。流行を追いかけつつ自分のおしゃれを極めるのが私流ファッションです!よろしくねぇ!!」
え、ケバケバ大魔神めちゃくちゃ個性強いじゃん。
クラスのおそらく立海内部生だと思われる子達はサクラさんけばーいおしゃれーとヤジをとばしつつ笑っている。
え、もしかして桜坂ちゃん人気者なのかな。
「え、あ、みょうじなまえです。えと、大阪田村丸中学から来ました。頑張って標準語覚えます、よ、よろしくお願いします」
隣で桜坂ちゃんが「もしかして緊張してる?緊張しててもやっぱ真顔かー」とキャハキャハ笑っている。
よせやい。
「長藤ミカです。中学は立海です。小学生のころからおともだちのみょうじと再会できて嬉しいです」
それ自己紹介かよって思ったけどほわっと微笑んでいるのがかわいい。
案の定クラスの女子も男子も可愛い〜と呟く奴が多い。その中に私もいるけど。
部活動紹介は怖かった。
何が怖いってとある部活動が印象強すぎて他が霞んでいたのだ。
テニス部である。
彼らが体育館のステージ上に現れると同時に、女子達から黄色い声が上がった。
モデル集団かと思うほど綺麗で頭のカラフルな男の子達が部活動の説明をしていた。
青髪の優しそうな先輩は2年生にしてすでに部長らしい。老け顔の黒髪の先輩が副部長だと。それでいちばん解せなかったのは、白髪(銀髪?)の先輩が禄に説明もせずに発するプリだのプピーナだのという謎の鳴き声に女子達がかわい〜と言っていたことだった。
桜坂ちゃんにどう?テニス部かっこよかったでしょ?中学の頃から学校のアイドル状態なのよって言われたけどまじやべーなとしか言えなかった。
普通あんなに美形揃う?いや、揃わないって。こわいこわい。
「なまえは誰がいちばんかっこいいと思う?」
「え、そんなん考えてなかったよ。やべえしか頭になかった。次元が違うなあ」
「あははー、面白いこと言うのね!私もみょうじも可愛さで言えばほとんど同じ次元なのに」
ミカちゃんが爆弾発言した。私はフリーズした。
ミカちゃんが自分のことを可愛いと分かっているのは結構なことだが今かなりの大声だったけど。え、普段からこんな風なの?桜坂ちゃんの反応からしてそうみたい。
いやいやそれにしてもミカちゃんが私のことを好きすぎるだけで、私はそんなに可愛くないんだけどなあ。私は私の顔あんまり好きじゃないし。
それより桜坂ちゃんも入れてあげようよ!いや、確かに化粧で作った美人って感じの顔ではあるけどそれでもまあ可愛いじゃん???
「私ねぇやっぱりジャッカルがかっこいいと思うの!!」
「桜坂はジャッカル一筋よねぇ。あ、私はもちろん精市なのよ?だって彼氏だもの」
私に2度目のフリーズが訪れた。
桜坂ちゃんに肩をガクガク揺さぶられながら、生きてるかーと呼びかけられる。
激しくヘッドバンキングしながら
「ミカちゃんよくあんなに人気ありそうな人と付き合えるね」
と辛うじて声を発した。
「まあうちの学校のファンクラブって過激じゃないし」
「ふぁ、ファンクラブとかあるんかいな」
私を揺さぶるのをやめた桜坂ちゃんが「あ、出た関西弁!!」と喜んでいる。なんだか可愛いな。
「他の学校は色々厳しいみたいだけど、ここのテニス部ファンクラブは抜け駆け禁止とかないし彼女できたら差し入れ減らすし、いじめ撲滅運動とかしてるくらいだからね」
めちゃくちゃ良心的じゃないの。
「それにしてもファンクラブあるとかもう次元がちげえわ」
今日の収穫。とりあえずテニス部こわい。
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