Long StoryShort StoryAnecdote

PIECE of PEACE


 体温のこもった薄暗い部屋。新しい蛍光灯を買って来なきゃならないのに、いつも忘れてしまう。
 四畳半に毛が生えたような軽鉄骨のアパートは壁が薄くて、もしかしたら隣に声や振動が伝わっているんじゃないかと思う。思っていると、ドッ、と壁を叩く音。もしかしたらさっきから訴えていたのかもしれないけど、セックスに夢中の俺は気付かなかった。
 俺の下で喘ぐ平和(ひらかず)の声はいつもより掠れている気がする。風邪でもひいてるのかもしれない。丁度季節の変わり目で衣替えの季節だし……と、脱ぎ捨てられ部屋の隅でぐちゃぐちゃに蹲るブレザーを見て思った。
「翔(かける)……も、むり、やだ、終わりにして……っ」
「何言ってんだよ、まだ始めたばっかりだ」
「っ……は……ぁ、も……やだ、や……ぁ、あ、あっ」
「大丈夫、オレバイトで鍛えてるし、結構体力あるから」
「そ、じゃな……おれ、がむりなっ……はぅっ……ン」
 俺のチンコをぐっぽり飲み込んだ狭い肉筒の中、突いてくれと言わんばかりに張り出した前立腺をコンコン突きながら細い首筋を舐めてやると、平和はビクンと大袈裟に震えた。

 平和と俺は同じ養護施設で育った。
 こいつは中学に上がる直前に引き取られて施設を出て行ったが、俺は高校を出るまで施設の世話になった。卒業するとすぐに働き始め、以来この安アパートで一人暮らしをしている。
 平和と再会したのは俺のバイト先、カラオケ店でだ。平和は男と一緒だった。顔は思い出せないけど、俺と同じ年くらいで、聞けば恋人関係だという。
 でも、平和はそいつと別れたいと俺に相談してきた。何があったのか詳しくは聞いてないけど、相性がよくなかったんだろう。
 だから俺はそいつから平和を奪って、俺のものにすることにした。俺は施設にいた頃から平和のことが大好きだったし、一緒にいると不思議と安心できるから。
 今日は平和と付き合うようになって、初めてのセックス。元カレってヤツにツラい目に遭わされたのか、平和の身体は時折緊張して、俺を恐ろし気に見つめる。でも大丈夫、俺はきっと優しくするから。

 平和の腰をしっかりと掴んで、受け入れてもらったチンコをゆっくり出し挿れすると、平和はグズグズ泣き縋る。イッてるから無理、もうやめて、イキたくない、とか好き勝手言って、薄情なヤツ。俺はまだイッてないんだけど。
 何だかぐったりしてしまった平和の背中を掬い上げて俺の上に座らせると、自重で穴を拡げられた平和は目をぱちぱちと瞬いて喘いだ。
「ふ、あっ、あっ……あ、たま……っかしぐなっぢゃ……ぁ、あぐッ!」
「でもお前のケツん中キュンキュンしてるよ? 気持ち好いんだよな」
「あ、あぅっ、うっ、ひぃっ!」
 熱い肉ひだがオレのチンコに絡みつく。やだやだ言う割りには、引き抜くと咎めるみたいにキュンッと切なげに締まる。平和の上の口と下の口は言うことがバラバラだ。
「お前ん中スゲー気持ち好い。まだ全然足りないよ」
「や、もう……むり、ぉわり、おわりにしてっ、ぁ、あっ、あ"ぁっ!」
 平和のチンコはもう出すものもありませんてな具合に萎えきってる。こいつの腹は精子でドロドロ。いつの間に出してたのかわかんないけど、こんだけ射精しまくればそりゃそうか。
「やら、やら、……や、もうや、」
「いやいや言うなよ、レイプしてるみたいじゃん」
 でもいやいや言うのを強引にするのが好きなのも本音。だって全身ゆでダコみたいになりながら顔ぐちゃぐちゃにして泣き縋る平和、最高にソソる。涙と鼻水と涎で汚れてさえ整ってるのがわかる顔を包み込んで、はぁはぁと荒い息を吐く唇にぢゅう、とむしゃぶりついた。
 そのまま腰を揺すると、平和は俺の肩に必死にしがみつく。耳元で小さく「あ、あ、あ、」て喘ぐ声が可愛くて、俺はますますチンコを硬く大きくした。
「んっ……ぁ、なか、また出て……かけ、るので、もういっぱ……ぃ、」
 きゅうっ、と締めつけられて俺は呻いた。平和の背中に手を回してゆっくりと寝かせると、太腿を掴んで平和の身体を丸く折り畳む。柔軟な平和は、そのままぐぐ、とでんぐり返しをさせるように力を加えるとほとんど膝頭がシーツにつきそうだった。
 俺と繋がった部分が丸見えになった平和はゴクッ、と唾を飲み込むと短い吐息と涙を零す。耳まで真っ赤になってるのは、この格好がちょっと恥ずかしいのかもしれない。確かに、精液でドロドロの腹や半勃ちのチンコ、俺のぶっといのハメてびっちり拡がった穴は、俺がちょっと動くだけでヌチヌチと精液が溢れてめちゃくちゃいやらしかった。
 ゆっくりチンコを抜いて、抜けきるギリギリのところでシコシコ擦る。出っ張ったカリが狭い入口で刺激されて気持ち好い。
「ひぁ……っう、いやだっ拡げな、でっ……! やめてぇやだ……う、あし、たもがっこ、あっ……た、ちゃう、勃っちゃう、からっ……」
「授業中勃ちっぱなの? ホントに淫乱だねぇ、平和は」
「……っふ、う、……も、きらい、かける……やだ、きらい、きらい……っ」
「そんなこと言うなってば」
「あっ」
 ちゅ、ちゅ、と耳に口付けると平和はそれにも反応して全身を震わせた。耳の穴に舌突っ込んでベロベロすると、「に"ゃあぁっ」て変な声で鳴くのも超可愛い。
「もーちょっと頑張って」
「むぃ、も、あたま……へん、おひり……こわえちゃ……あっ」
 平和の膝裏を押さえつけて、斜め上から深く突く。パン、パン、パン、と肌を打つごとに、「あ、あ、あ、」と平和も喘ぐ。平和のイき顔がまた気持ち好さそーで、エロ可愛くて最高。
「も、やら、突かな……れっ、いやだ、いやだぁっ……うごかな、でぇっ」
 連続で突きまくった平和の中は、いつ射精したのか俺の精液でトロトロのやわやわ、ピストンの度に繋がった縁からブチュブチュ汁が溢れてクソエロい。俺は何回イッたんだっけ? まだ足りない気がする。
 動きを止めると続きをせがむようにヒクヒクと中が痙攣する。抜けきらない浅いところにハメたまま動きを止めて焦らすと、平和は薄く目を開けてボロボロ泣いた。
「ひ、どい……っ、ひどいぃっ、うっ、あぁ……っ」
「なーに、動くなって言ったのお前だよ?」
「らって、こんな……ぁっ」
 ちゅ、ちゅ、と口付けてやると平和はフゥフゥと鼻息荒く応える。舌が絡むとケツ穴も反応して、もっともっとってねだってるみたいだ。
「乳首だけでイく練習とかしちゃう?」
「きぁ、っあ、やらぁっ」
 舌先でちゅうっと可愛い胸の突起をしゃぶると、舌先でツンツン、甘噛みしてやるとそれでもまたイッた。まったく、どこもかしこも弱いんだからこいつは――これで初めてなんて、本当かな?
「ひっ……ひ、……は、」
「さて、どうして欲しい? 平和」
「さい、てぇだ……っひどい、こんなのさいてぇ、……ばかっ、死ねっ!」
 組み敷いた相手に泣きながら詰られるってのもなかなかいい。
「初めからケツとかおっぱいだけでこんなに感じまくる男なんていないぜ。今までその顔と声で何人の男狂わせたんだよ、え?」
「な、に言っ……そんな、のそんなぁ……っい、ぎぁっ!」
 俺がピストンを始めると、それを悦ぶみたいにぎゅっと締め付けて扱いてくれる。前立腺は擦って欲しそうに張り出して、俺のチンコの先にチュウチュウ当たって吸い付いてきた。平和はその度に高く喘いで感じて、空イキしまくる。もー、めちゃくちゃ気持ち好い。
「あっ! あぅっ! あっ、んっ! いや、そこらめっ、も、らめ、らめぇっ! そ、こもう何回もイッ……あ、あっ、あっ、あンッ! イッ…くイくイくっ、イッて……いやぁっ!」
「AV女優みたいに大袈裟な芝居しやがって……このっ!」
「ひっ――!!」
 ゴリ、ゴリ、ちゅうっ、むぢゅっ
 チンコで前立腺にキスしまくると、平和のチンコからはブジュッとカウパーが溢れた。そのまま中をぐりぐりしてやったら肩をビクビクさせ、仰け反ってイく。俺のチンコからもザーメンがビューッと出て、平和の体内を汚した。
「やら……も、中……くるし、から……出すなぁ……っ、」
「もっと奥もぐちゃぐちゃに壊しちゃおっか。誰のチンコもここまでハメたことないんじゃねーか?」
「ひっ!?」
 一気に引き抜いて身体をひっくり返すと、ケツだけ上げさせて獣の交尾。じんじん疼いてるの丸わかりな可愛い穴にまだまだ元気なムスコを突っ込んでやると、平和の細い腰がびくびくって跳ねた。あ、イッてる。あー、むちゃくちゃ可愛い!
「きっ――! ぃ……っ!」
「くぅーっ! やっぱこっちのが深く突けるっ! ほら、なぁわかるか平和? お前のお腹の奥、どんどん俺のが入って……っ、熱い粘膜掻き分けて犯してんの、」
 ヌリュヌリュと平和の中にハメたチンコを押し進めると、狭い内壁がキュンキュンと応える。平和が感じてるぞくぞくとした快感が先っぽから伝わってきて、俺も全身鳥肌が立った。
「あ、お、お、おぐっ、ダメったら……こわい……っこわいからっ、やだ、やっ、やだぁっ」
「ウソつき。この感じ……っ、初めてじゃねーだろ? 身体中どこ触っても敏感で……一体誰に仕込まれたんだ? ほら、ほらっ奥で、感じて、んだろっ!」
「ぎぃっ! うっ、あっ、……あっ、あっ、ふが、ふがぃ……っしぬ、し、死ぬぅっ、死んじゃう、がらっ」
 ぐぅーっとほとんど体重で圧し掛かるように下半身を叩きつけると、ごちゅん、ごちゅん、と平和の腹の奥にチンコが当たる。狭くなった粘膜の奥の壁が俺のチンコのそれ以上の侵入を阻もうとするけど、かえって俺はムキになってペロリと唇を舐めた。
 ブチブチ、チュウチュウ、押し当たる強情な腸壁をノックしながら少しずつ奥へ。
「ひぃっ……! だ、めだから、そこ……はい、ぢゃらめ、」
「もっとイッて、もっと……やらしー声で鳴いて、イキ顔見せて」
 ぐるんと身体を反転、横抱きにして後ろからズコズコ。首筋に噛みつきながらハメて、平和がイくと正常位に持ち込む。顔がよく見えるように覗き込んで、細い手首を掴むと手綱を振るうようにぐん、と腕を引いた。同時に腰を前に揺らして深く突き上げると、平和の喉から「ぎゃうっ」と悲鳴が漏れた。
「も、イッて…ずっと、イッてりゅ……っ!」
 うん、でも、まだ始めたばっかじゃん。
「ひぃっ――やめ、やめでぇっ! 奥いや、奥やだぁっこわい、こわい――あっあっあっ、いやあぁッ!」
「腹の中まで俺が犯してやるよ」
「やだ、やだやだもうそこは挿れないでっ、それ以上入って来ないで……っ!」
 俺は平和の腕を引きバチュンッと強く打ち付けた。自慢のチンコをフル勃起させた状態で頑張ればきっと届く。こいつ、身体小さいし。
 ごちゅん、ごちゅん、激しいピストンを続けているとチンコの先がめりめりとそこを抉じ開けた。パクパクしてた弁みたいなのが押し広げられて、俺のチンコがぐりゅ、と粘膜の壁に飲み込まれる。平和の肩がビクビクと震えて背を反らせた。キレーなアバラが浮き上がって、俺のチンコの収まった辺りがポコン、と出っ張ってる気がする。
「が、ひっ……! ぁ、かはッ……っは、……はら、……そごっ……」
「あっ……ヤバ、いここ……すげ、狭い……っ!」
 まだ、まだイケる。
「もっと……おまえん中、深くまでっ……はいっ、て」
 グニグニ腰を捩ると、ぢゅるん、と奥にハマった。ここが多分、平和と交われる1番深いところ。
「がっ……あっ……マジでヤバ、いヤバいここ、平和の……っ1番奥、誰も汚してないとこ……っ俺の、精子っ」
「ぎっ……」
「飲めっ!」
 俺はそこでビュルビュルと射精した。平和の腹の中にドプドプと溜まっていく精液。平和の中はそれをゴクゴクと飲むみたいに搾り取っていく。
 ドクッ、ドクッ、ビュクッ、ドクン、ドクンッ。
 濃いザーメンをたっぷり中に注ぐと、薄かった腹をボッテリ膨らませた平和は声もなく痙攣していた。
「あーっ……すご、きもちい……。平和の中、全部俺の……チンコのカタチ……」
 俺はハメたまま、子種を植え付けるみたいにぐりぐりと腰を揺すった。
「ひっ……ひっく、ひっ……ぅ、」
「何だよ。泣くなよ平和」
 イきっぱなしの平和の中からチンコ引き抜くのはなかなか大変だった。食い締めが強過ぎてチンコもげるかと思ったくらい。
「初めてでこんな、キツく締めて悦んでたくせに」
「ひっく……ふ、うぅっ……は、じめて……?」
 ぬぼ、と抜き取ると拡がった穴からボトボト精液が溢れ出た。すげ、俺いつの間にこんなに出したんだ?
 俺は崩折れた平和の尻を撫でると、ぐったりとした横顔にキスをしまくった。平和は遠くをボンヤリと見つめたまま泣いていたけど、きっと好過ぎたんだろう。俺はもう1度平和に深く口付ける。
 可愛い、可愛い、俺の平和。
「一緒にいっぱい気持ち好くなろうな、平和」
 平和の頬を包み込むと、俺はぎゅっと抱き竦めた。



 朝起きた途端、平和に「翔とはもうセックスしたくない」と言われた。
「――別れたいってことか?」
 平和は真っ赤に腫れた瞼を瞬かせてズッ、と鼻をすすると涙を拭う。
 昨晩は何かあったんだろうか? 声もひどく枯れているみたいだし、風邪でもひいたのかもしれない。
「俺……元々こういうの、したくないって言ったじゃないか。それなのにあんな、人を踏み躙るみたいに……」
 いきなり人を詰るような言い草。身に覚えのない俺は眉を寄せる。
「ま、待てよ。一体何の話だ? したくないって、……俺達、付き合い始めてまだ1度もしてないじゃないか」
 俺は自分の左手首に彫ったこいつの名前を指でなぞる。
 『PEACE』――平和。
 何があっても絶対に忘れないように刻んだ、大切な大切な恋人の名前。
 平和は怪訝な顔をしながら、探るように言った。
「だからっ……恋人だから、ちゃんと話したじゃないか、する前に……。セックスなんかしたくないって」
「……何でなんだ?」
 したことがないのにしたくないなんておかしい。疑惑の目を向ける俺にたじろぐように、平和はしどろもどろになりながらも口を開く。
「何でって……あの、時のこと思い出すからだよ。俺達が昔いた擁護施設で、院長達に……医務室でレイプされたことを」
「な、んだよそれ……? 何で――何でそんな、今まで黙って……」
 動揺する俺を、平和は怒りの形相でキッ、と睨んだ。
「翔が何言ってるかわかんないよ! 俺、前にも言った! 何度も何度も何度も、何度も……昨晩だって!」
「俺は聞いてない。他の誰かと勘違いしてるんじゃないか?」
 俺はイラつきながら真剣な顔で返した。そんな大切なことを今更打ち明けられたことにも、それを泣きながら怒るように言われたのも気に食わなかった。
 困惑して顔を上げると、奇妙なことに平和も俺と同じ表情で俺を凝視していた。
「どうして……? 翔が知らないはずないんだ! 翔はいつまでそうやって……現実から、過去から目を背けたいのか!? 院長達に医務室で犯されて、あれから俺……セックスの何がいいのか全然わからない! 痛くて、気持ち悪くて怖くて……っ、」
「平和……」
 拳を硬く握り、ブルブルと肩を震わせる平和の目は恐怖と怒りに炯々と光り、噛み締めた唇は白くなっていた。
「前の男は俺がセックスを拒否したら、無理矢理抱こうとした。それで参ってた時お前に会って、助けてもらったんじゃないか。でも、だから翔と恋人同士になっても同じようにセックスはできない、したくないってあれほど言ったのに、」
「そう、だったのか……悪かった。可哀想に……そんなことがあったなんて」
 俺が手を伸ばすと、平和はビクッと身体を震わせて後ずさった。怯えたように震える瞳が、俺をバケモノか何かのように見つめる。
「平和?」
「かけ、る――何で……何で? 覚えて――ないの? もしかして――昨日のことも?」
 ……昨日?
 昨日は学校帰りのこいつをバイト先のコンビニで待って、一緒にここに帰って来て……飯を食って、それから、それから――。
「おい、お前さっきから何をわけのわからないことを言ってるんだ?」
「昨日、俺にしたこと……昨日だけじゃない、だって俺、俺は――お前に何度もあんな風にひどくされて、初めてのはずがないだろっ!?」
 平和の怒鳴り声に、ズキズキと頭が痛む。
 眠りから覚めるといつもこんな調子だ。施設にいた頃にもあったけど、こいつと再会してからまたひどくなった気がする。
 俺も平和には話しておかなくちゃいけないことがある。昔から忘れっぽかったけど、この偏頭痛のせいなのか意識が飛んだり、物事をあべこべに覚えていたりと記憶が混濁すること。酒を飲み過ぎた時みたいなもんだと思っているけど……。
 ふと視線を上げると、平和が呆然とした顔で俺を見つめたまま涙を流していた。
「……俺はただ、俺は……あそこで一緒に育った翔となら、心で繋がれると思って……そう信じ、て」
 頬を伝う涙が首筋に流れていく。こいつは何で泣いていたんだっけ……?
 透明な水の流れを目でなぞっていた俺は、はたとそれに気付く。
「……お前、その首筋の跡、どうした?」
 平和の首筋には赤紫の痣があった。ぐいと腕を引き襟首を引っ張ると、鎖骨から下、胸の辺りにも……俺はさっと青ざめて、平和のシャツを引きちぎった。
「い、いやだっ、離せ!」
「何だ、これ……何だよこれっ!」
「何って……こ、れは昨日お前が、」
「ふざけるな……っ、……誰とした?」
「……は?」
「誰とヤったんだって聞いてる! お前、俺とは仲良しごっこで、よそで男作ってヤりまくってんのか? とんだ淫売だな!」
「翔、」
「くそ、一体いつから……前の男だって、別れたいって言いながらまだ関係を続けてるんじゃないだろうな。そのくせ俺を誘って……お前、施設から引き取られた先でも義父とヤってたんじゃねーのか!? なぁ、そうなんだろう!」
「翔……翔っ、待って俺は、」
 涙を流しながら、平和は俺に背中を向け逃げ出そうとした。俺はわけもわからずその襟首をひっ掴み、床に引きずり倒す。
 仰向けに寝転ぶ平和が怯えた目で俺を見ているのは何故だろう? 俺はどうして、平和に怒っていたんだ? 激しい頭痛に見舞われ、汗が噴き出る。心拍数が上がる。俺は一体――。
「翔……まさか、翔の記憶……あの時から……? 医務室に連れて行かれて、あいつらに犯された時……翔も、いたんだよ。あの部屋には俺と翔が連れて行かれたんだ。それで、院長と5人の男達が……。それなのに、翌朝翔はそのことをまるっきり忘れたみたいにケロッとしてた。1度きりじゃない、あの悪夢みたいな夜は何度もあった。でもお前は翌日には平気な顔して俺を元気づけてくれて……俺はずっと、俺を励ますために強がってるんだと……思って、」
 頭が痛い。吐き気がする。耳鳴りがして、俺は自分の両耳を塞いだ。
 埃っぽい部屋。覆い被さる影。子供の悲鳴。安いスプリングの軋む音。男達の嘲笑。
「……やめろ」
 床に飛び散る汗。全身を覆う他人の体温。下腹の痛み。手首の擦過傷。首筋の鬱血痕。
「やめろ……、やめろやめろ、やめろぉっ!」
「かけ、……翔! お前も……いや、俺が先に施設を出てしまったから、お前の方が俺よりずっと長く苦しんで……、ごめん。悪かった……1人にして。ごめん……っ!」
 泣きながら平和が手を伸ばす。俺の頭を優しく包み、俺は平和の平らな胸に頬を寄せる。
 俺は自分の頬が涙に濡れていることに気付く。俺は何故泣いているんだろう。この胸に溢れる恐怖と不安感は何なんだ。
 でも俺は平和に抱き締められていると心が落ち着いた。親のことは覚えてないけど、まるで母親に抱かれているようで。やっぱり俺にはこいつしかいないんだ。俺の抜け落ちた何かを埋めてくれる、大切な大切な欠片。
 俺は平和の薄い手の平を引き寄せぎゅっと握り締める。俺は絶対にこの手を離さない、何があっても。親指の腹で涙を拭ってやりながら微笑みかけると、耳元に口を寄せ囁くように言った。
「……なぁ、今日こそはセックスしような、平和」
 目の前の綺麗な顔が微かに歪む。何度もゆっくり頷くと、平和は苦しそうに笑った。

2017/09/19

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