Long StoryShort StoryAnecdote

黒く塗りつぶせ


 師範の太筆がオレの輪郭をコショリと撫でる。くすぐったくて身を捩ると、筆先はオレの耳の中に。
「ぎゃは! くすぐってーよ!」
「お前はこれが好きなんだろ?」
 こんなのではしゃぐなんてガキみたいだなって自分でも思うけど、師範にされるのは特別なんだ。本人はわかってんのかな?
 この人はまだ高校生で、オレとは4つしか違わないけど書道の師範だ。落ち着いてるし、今日みたいにかしこまって着物なんて着てるともっと大人っぽく見える。
 まだ生徒を取る立場じゃないって言いながら、オレの書道の稽古はつけてくれた。クラスの友達にはガラでもないって言われるくらい、ちょっとした特技になっている。
 今日も年明けすぐにも関わらず、墨汁の香りに満ちた師範の部屋を訪ねた。50枚は書いたと思う。師範は真面目で厳しいから、いつもは悪ふざけのオレだって真剣だ。その分クタクタになるけど、終わればたっぷり甘やかしてくれる。
「ねぇ、またアレしてくれる?」
「え? アレって……」
 師範はきょとんとしてるけど、トボケてるのか本気かわからない。
 オレは自分のセーターを下のシャツごとめくり上げると、平らな胸をぐいと張って見せた。
「ここ、筆でグリグリして……?」
 上目遣いで師範にねだった。

 最初にそれをしたのはまだオレが小学生の時。
 夏場だったけど、この部屋に遊びに来たオレは師範の高級な筆を自分の腕に滑らせて遊んでいた。
 なんたって高級な筆はその質感が全然違う。うっとりするような滑らかさで、これにたっぷり墨汁を染み込ませて半紙に乗せたらすごく気持ち好いだろうなって。
 飲み物を取って部屋に戻って来た師範はそんな陶酔に浸っているオレを見咎めると、笑いながら筆を取り上げた。
「これは大事な筆なんだ。そんな風に遊んじゃいけないよ」
 言いながらも、オレがしていた動作をなぞるようにオレの首筋に筆を滑らせた。
 その瞬間――身体に、電気が走ったかと思うようなぞくぞくとした快感が走って、オレはヘンな声を出した。甘えるような、やらしー声。
 少しの間の後、師範がオレの首筋に、頬に、耳に筆を走らせるのを、オレは唇を噛みながら犬か何かみたいに首を傾いで我慢していた。
 師範の吐息は時折頭の上で聞こえるけど、オレは必死に目をつぶっていた。何だか見てはいけない気がして……ただひたすら、自分に触れる筆先の感触だけに意識を集中して。
 やがて師範の筆はオレの襟首を押し広げて、無防備なオレの乳首を擦った。ムズムズするようなくすぐったさ、でもそれだけじゃない……あの時の快感を、オレは忘れることができない。

「あっ……ん、はぁ、あっ……気持ち、ぃ」
 妙に行儀よく正座したままシャツをめくり、ピクピク身体を震わせる。
 自分でやってもこうはならないのに、筆を通じた師範の指先の強弱を感じて股間に血が集まる。オレももう、そういう身体になっていた。
 足をモジモジさせていると、師範の手がオレの膝を割る。
「ズボン、下ろして」
 少し低い声で言われて、怖いけど心臓が高鳴る。オレは言われるままファスナーを下ろすと、盛り上がった下着を師範に見せた。
「濡れてる……いやらしいな」
「ごめん……師範の筆、あんまり気持ち好くてオレ、こんなになっちゃった……」
 布に少しシミが浮いてて恥ずかしい。俯くオレの顎を取ると、師範は突然オレに口づけた。
 ビックリして、オレは息を止めたままそれを受け入れる。目を見開いたまま、目の前にある師範のキレイな顔を見ていた。
 息が苦しくなるまでそれは続いて、やっと離れると酸欠で頭が少しぼうっとしている。そんなオレの目をじっと見据えて、師範が言った。
「――わかってる、よな?」
「え……?」
 何のことかわからなかったけど、オレは無意識にコクン、と頷いていた。
 師範はオレをそのまま絨毯に寝かせると、めくった服をオレの口に咥えさせた。外気に晒された胸や腹が少し寒くて鳥肌が立ったけど、次には師範の唇がオレの乳首に吸いついてまた別の感覚で鳥肌が出た。
「んっ、……ふ、ぅっ……」
 ちゅぱ、ちゅぱ、と音がする。師範がオレの乳首をナメて、時々甘く噛む音。
 なんで、こんな。思うけど、気持ち好くて――やめて欲しくない。
「あっ」
「こら。ちゃんと咥えてないと外に声が聞こえちゃうぞ」
 オレはもう1度服を噛んでコクコクと頷く。
「んっ……ふ、ん、ん、ん、……んッ!」
 こんなの、ダメだよ――思いながらも許してしまうのは何で?
 師範はオレの両方の乳首をさんざんナメた後、今度は筆をおヘソの中に入れてイジり回した。
「ふぃっ…んっ、んひぅっ」
 何でこんなに気持ち好いの……? 思わず腰が浮いて、すっかり硬くなったものの主張がさらに強調される。
 師範の手がその膨らみを柔らかく掴んで、ゆっくり、ねっとりとやらしい手つきで揉み始めた。
「ふぁっ、や、やだっ……そんな、ダメ……!」
 思わず師範の腕を掴むけど、師範の力は思ったより強くてビクともしなかった。いつもは繊細な筆使いをするはずの師範の手が――オレはちょっと怖くなってしまう。
 さっき、わかってるよな、って聞いたのは……これから何をするか、ってこと?
 師範の手が忙しなく動いて何も考えられなくなっていく。コスコスと根元や先の方までシゴかれて、オレはとうとう師範の手の中に射精してしまった。
「あっ……手、師範の……っ」
 師範の大きなキレイな手は、オレの吐き出したものでべっとりと白く濡れていた。師範はそれを指先で擦り合わせる――糸を引いて、垂れる。
 オレは思わず泣いていた。師範の大切な手を汚したくなかったから。自分ので汚してしまったのがショックだった。
「ごめんなさい、……オレ、師範の手を、」
「大丈夫だよ。……可愛いね、本当に。まだ続けていい?」
 朦朧としながらもオレが頷くと、師範はまたオレに優しくキスをしてくれた。
 何、これ――いつもの筆遊びじゃない、全然違う。
 皮膚の上を軽く撫でるだけの馬の毛とは比べ物にならない、師範の指先の体温と汗、しっかりとした力を直に感じる。
 白い半紙に下ろされた筆が伸び伸びと黒い文字を書きつけていくみたいに、師範の指が次々にオレの身体を開いていく。
 大の字になったオレの両足が師範の肩に担ぎ上げられる頃には、オレの身体は茹でダコみたいに赤く、グニャグニャになっていた。視界は何だか潤んでボヤけているし、息も整わない。心臓はずっとドキドキしてるし、早くどうにかして欲しい気持ちで下半身は疼いている。
 手と筆はオレの全身を這い回り、その間に師範は何度も何度もキスをしてくれた。口の中に舌まで入ってきて、オレは身体の内側をナメられる初めての感覚にまたユルく勃起してしまっていた。
 それから師範は自分の指でオレのあそこまで押し広げた。後ろの、誰にも触られたことのない……。
 おまけに大事な筆の柄の部分までそこに突き挿れて、ずいぶん奥の方までぐりぐりと責め立てた。オレは恥ずかしくて恥ずかしくて、両手で口を押さえながらも悲鳴は全然殺せていなかった。
 師範はオレの顔が汗と涙でぐちゃぐちゃになるまでそれを続けた。
「ここで、お前を僕のものにしてもいいか?」
 師範はいつもと変わらない落ち着いた顔で着物の前を寛げる。
 そこには見たこともないくらい大きい、師範の冷静さには不釣り合いなほど漲ってヒクつく大きなものが潜んでいた。
 ひたり、オレのあそこに押し当てられて、熱い――。
「オレ……オレは、」
 こんなことするなんて思いもしなかったんだ。あの上質な筆で身体を撫でられてくすぐったがるだけで嬉しかった。
 何が何だかわからないうちにこんな風にされちゃって、正直すごく怖い。オレがオレじゃなくなっちゃうみたいで恥ずかしくて情けなくて……でも。
「オレは、師範のことが好きだから……だからオレ、それでいい」
 師範は一瞬目を丸くして、それからふにゃりと笑った。
「ありがとう」
 言ってオレに口づけるとオレの片手を握り、もう一方の手で腰を掴んで――ぐん、と体重がかけられた。
「ッ――!!」
 ミシミシ、とそこが軋んだ気がした。口を塞がれてて声は出なかったけど、そうじゃなかったら間違いなく泣き喚いてたと思う。
 オレの中に入ってきた師範は本当に大きかった。だって、オレのそこは元々そんなの挿れるためにできてない。強引に入ってくるそれを押し戻そうと、身体が自然に強張る。
「ふっ……ン"ッ――!!」
 ぐ、ぐ、と腰を前後させながら、師範はゆっくりとそこを攻略していく。オレも協力したいけどやり方がわからない。オレは師範のなすがまま、ただ足を広げているしかない。
「ふっ……ん、んフッ……! ふは、はぁ、あっ」
「息、して」
 唇が離れて鼻先がぶつかる。涙が止まらない。
「んあッ――あ! あは、あぐっ! う、ううッ! い、いだ、いだ、ぃッ……」
「ごめん……できるだけ優しくするから、」
 途中で動きが止まる。オレの中に入ったものがビクビク震えてる気がする。オレの、中も――。
 見上げると師範も、見たことないような苦しそうな顔をしていて思わず涙が引っ込んだ。
 なんでそんな……オレが? オレがこの人に、こんな顔をさせてるの?
「ひ、ぐっ……うご、て……うごいて、い、から……っ」
 オレは握られていた手にきゅっと力を込める。
 怖い。これ以上したら身体が壊れちゃうんじゃないかって。でも――オレで気持ち好くなってくれるなら。
「しはん、おれ……こわれてもいいから、」
「……壊したりなんてしない」
 師範はオレのまぶたに唇をつけた。鼻先、頬、唇。
 オレは師範の首に腕を回して、精一杯しがみついた。それを合図に動き出す、大きな身体。
「はっ、はぁ、あっ、あぅ、うっ」
「はぁ、うっ、く……、辛く、ないか、」
「あ、あ、ぅ……っ、い、……へーき、」
 半分ウソだけど、少しずつ痛みは和らいでいる気がした。それに、オレのあそこがきゅうって切なくなる時、師範も少し顔を歪めて――すごく、やらしー顔をするのが可愛かった。
 もしかして、気持ち好いの……?
 師範は半分くらいオレの中に入ると、腰を支えていた手でオレのをシゴき始めた。
「あはっ、あんっ! あ、ダメ、そんなっ……あ!」
 師範を受け入れたところはまだジンジンしてるのに、そこをイジられたら気持ち過ぎて――オレの腰が動き出すと、師範も入り易くなったのか一気に深くまで侵入してきてついにピタリと肌がぶつかった。
「あッ――」
「……痛いか?」
「……ちょっと……、おなか、苦し……っ」
 だってあんな大きいのがオレの腹に入ってるんだ、苦しくないはずないじゃないか。
 師範は申し訳なさそうに眉を寄せて笑うと、またちゅ、と額にキスをしてくれた。
「ゆっくりするから。また少し、動くよ。痛かったら言って?」
「う、んっ……、あっ!?」
 ぐーっ、と引き抜かれる感触にゾゾゾと鳥肌が立つ。筆でなぞられた時の比じゃない、すごい鳥肌。
「ああっ……な、これ……!? だめ、しは……っ、だめ、だ、めっ!」
「痛い?」
 聞きながらも、師範はゆっくりと腰を進めてきた。
 わかんない、わかんないよ……ッ! ただあそこが熱くて、身体の真ん中がキュンキュンって苦しくて、それが気持ち好くて――!
「ひぁっ――!! あっ! ……待っ……ゆ、くりゆっ、ぐ!」
 ずぷ、ずぷ。ゆっくりとした突き上げなのに、その一突きごとに頭が白くなる。多分、師範ので擦られてるところにオレの弱点がある。そこをグリグリされる度に太腿がビク、ビク、と痙攣する。
「あぅっ! あんっ! そこっ! そこ嫌だっ! いやッ、やぁッ!!」
 頭が痺れておしっこが出そう。でも師範は逆にそこばかり優しく、しつこくイジめた。
「ここが好きなんだね。……可愛い」
「やんっ! あは、――はっ! んんっ!」
 やめて、やだよ、頭がヘンになる、そこばっかりしないで――思うのに言葉にできない。それどころか、
「あーっ! あっ! あん、そこっ! そこ好きっ! きもちぃ、きもちぃ、すき、いぃよぉっ!」
 身体に正直な声ばかり溢れて止まらなかった。
 師範もその声に従って腰の動きが速くなっていく。肌がぶつかる音と自分のヘンな声、師範の息遣い。
「やぁッ! ああ、あ、あ、あッ、あひッ!」
 硬くて熱くて太いのが、オレの腹の奥をゴツゴツ突き上げてる。このカタマリが、この人のだなんて信じられないけど。でも、オレの中のこんなに深いところまで入って――それがこんなに気持ち好いなんて、なんて……嬉しい。
「あっ、ああっ、あんっ、あ、あ、あ!」
 激しい突き上げの度に声が溢れて止まらない。師範はオレの身体をぎゅうっと抱き竦めるみたいにして、2人してダンゴみたいに丸くなって繋がっていた。
 もうそれ以上深いところなんてないよ、そう思うけど師範の突き上げは止まない。それどころかますます激しくなって、オレの狭く閉じてるところも乱暴に抉じ開けるみたいに奥へ奥へ入ってきた。
 でもその頃にはもう痛みなんかほとんどなくて、もう快感だけに支配されたオレも腰を振りたくっていた。
「な、んかクる、キちゃうっ――こわい、こわい、はひ、やぁんッ!」
 パチパチいっていた後ろはいつの間にかヌチュヌチュとエッチな音になっていて、師範のが抜き差しされる度に汁が垂れてるのがわかった。
「大丈夫、一緒に……イこう」
 ぶる、と師範の身体が震える。
「うっ――!!」
 師範がオレの耳元で呻いて、身体の奥に何かが広がるのを感じた。
「ぁ、あ"ッ――!?」
 ビュルル、ビュビュッ――熱い飛沫を身体の中に感じて、ツン、と鼻の奥に墨汁の香りが香った気がした。
 真っ白な半紙にびしゃびしゃと飛散する墨。丸い汚点、血飛沫のような激しい模様、一閃。ボタボタと滴るそれがとうとう白い部分を塗り潰すその様が、オレの頭の中にぼんやりと浮かんでいた。
 オレは自分の腹にペタリと手を這わせる。ネチャ、と濡れた感触がして、自分も射精していたことに気づく。
 ああ、今オレの腹の中にも、この人のが……。
「……師範も、オレのこと汚したね」
 オレがぼんやりとした涙目のまま言うと、師範は真顔で頭を下げた。
「責任は取る。俺はお前が好きだ」
 言うと、師範はもう1度丁寧にオレの唇を奪って、腰を引いてオレから出ていった。ぽっかりと空いたそこは物欲しそうにヒクついていて、まじまじ見られるのは恥ずかしい。
「あっ……ん、なに、……」
 師範はそこにさっき使っていた筆でオレの中に出した精液をたっぷりと掬い取った。
 それからオレの腹を軽く拭いて、その生っ白い肌の上に濡れた筆を落とす。
「っ――……」
 一瞬ヒヤリとして目を閉じ、そのまま師範の書く文字を頭の中で追った。
「……わかった?」
 師範はオレの顔を覗き込んで微笑む。
 オレは今度は確信を持ってわかった、と頷く。
「自分の持ち物には自分の名前を書いておかないとね」
 そう言って笑うと、師範は自分の名前を書いたオレの身体をぎゅっと抱き締めた。

2019/01/02

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