Long StoryShort StoryAnecdote

ホームステージ


「弥生(やよい)、大丈夫か?」
 ソファに腰掛け、膝の間にギュッと握り締めた手を置いて、弥生は声を発さずにはらはらと泣いていた。
 俺は彼の前に膝をつき顔を覗き込む。
「……宅間(たくま)さん」
 半ば呆然としたまま俺の存在を認めると、その大きな黒い双眸には再び水膜が張り、ボロボロと頰を伝う。
「俺、どうすれば……っ、」
「落ち着いて。水でも飲むか?」
 ハンカチを渡し、部屋に備え付けのクーラーボックスからミネラルウォーターを取り出す。
 手で目元を拭っている弥生の前にボトルとハンカチを差し出すと、彼は軽く頭を下げて受け取った。キャップを捻り一口呷る。
「……すみません」
 濁った声で言いながら、ぐしゅ、と鼻をすすった。俺はその小さな頭をポンポン、と撫でる。
「怖かったよな」
 弥生は目元を赤くしたままコクンと頷いた。

 名の示す通り3月生まれの弥生は、高校1年の冬を迎えてもまだ15歳だ。アルバイトができるギリギリの年齢でこんなところで働くのには理由がある。
 「こんなところ」と言っても、決していかがわしい店ではない。……いや、まぁ、確かに危うい空気はそこはかとなく漂っているが、客は若い女性がメインの喫茶店──言うなればメイド喫茶の男版だ。
 その名も「ホームステージ」。
 メイドの代わりに迎えてくれるのは高校生から大学生くらいの少年、青年達。役者を志す若者や、就職面接に向けて対人スキルを磨きたい、なんて理由で志望する学生が多い。俺はここで雇われ店長を務めている。
 他の喫茶店系の接客業と様相が違うのは、会員制であること、そして店員と客が個室で1時間半、2人きりで過ごすことだ。各部屋は男子学生の1人部屋のような作りで、カラオケの小個室程度の空間にテレビやオーディオと、漫画やCDが並べられたカラーボックス、ベッドの代わりに2人がけのソファが置いてある。
 店員達はみな「キャスト」と呼ばれ、通常のカフェでバイトするよりもいい給料で雇っている。指名が多ければさらにボーナスも加算。客にとってみれば安上がりなホストクラブ、バイトする側にとってみれば儲けのいい仕事ということだ。
 キャストはモデルやアイドルほど垢抜けないながらも、だからこそ身近で素朴な魅力を漂わせる者を選んでいる。それもまた人気の理由だ。
 1つだけ問題があるとすれば個室であるために、客がキャストに迫ったり、果てにはストーカーになることもあり得ること。
 もっとも、キャストは全員男、相手が女性客なら大抵は力で勝てるし、その嫌がらせを差し引いても給与が弾むこと、稀に客とそのままカップルが成立するケースもあることで、問題が顕在化することは少ない。どちらかといえば、恋人ができたことを理由に辞められてしまうことが難点だろうか。
 こんなサービスで未成年者が働くのに問題はないのかという疑念を抱かれるだろうが、営業時間は法規定通り。受付には女性スタッフが、バックヤードには男性社員と警備員も常駐しており、セキュリティには力を入れている。
 しかし……弥生はたった今、この部屋の中で男性客に迫られ、押し倒されたところだったのだ。気づいた警備員が部屋に入って止め、客を追い出した。俺は事務所からすぐに駆けつけたわけだが、弥生は薄い肩を震わせて泣いている。
 客が男性の場合は、こういうこともあり得るのだ。男性客は決して多くはないが、入店拒否はしていない。会員制だからそこまで怪しげな輩も来ないのだ。世の中にはいろんな趣向の人間がいるし……こちらとしては、身分証明さえきちんとしていれば問題ないという構えでいる。
 弥生は不思議と男性の固定客がつきやすかった。といって、特別目立つ顔立ちをしているわけではない。下がり気味の眉と口元にあるホクロは少しその面差しを気弱そうには見せたが、どこにでもいそうなごく平凡な少年だ。

 弥生はハンカチで涙を拭うとそれを握り締めて言った。
「もし個人的に別の場所で要求に応えるなら、もっとお金をあげるって、言われました」
「……なんてヤツだ」
 弥生は母親と妹と3人暮らしで、病気がちな母親は家計を支えきれずにいるらしい。親族に頼るあてはなく、弥生は自分と妹の学費を稼ぐために中学を卒業するとすぐにこのバイトに応募した……というのが、面接の時に弥生自身が語ったことだ。
 弥生の境遇を知る俺は、そこにつけ込むかのような男の話を聞いて渋面を作った。
「実は……こういうことされたの、初めてじゃなくて」
 俺はぎょっとしたが、今はまず弥生の話を聞くことにした。
「カメラの死角になるところで手を握ったり、腿や腰に触られて……俺、それがとても嫌で。恥ずかしくて情けなくて……母にはこの仕事のことは言ってません。お店にも迷惑をかけるし、そろそろ潮時なのかも」
「弥生は何も悪くないよ」
 弥生は首を横に振った。
「違うんです。身体に触られる時、いつもお金を渡されていて……強引に手の中に捻じ込まれてたけど、俺はそれを返せなかった。もし、その話に乗ったらいくら貰えるんだろうって、一瞬でも考えてしまったんです」
「弥生……」
 邪な意図を持って触れられ、金を握らされる度に罪の意識に苛まれる中で、自分を騙し騙しやってきたのだろう。
「俺のこと、心配してくれたのに……卑しい人間でごめんなさい。こんなの、売春と変わらない。でも、受け取ったお金は使っていません。会社を通して返金してもらいます」
 俺、バカですよね。言いながら弥生は項垂れ、抱えた膝にまた涙のシミを作った。白く細い首筋が痛ましい。
「偉いよ、弥生は。よく耐えたし、金の誘惑にだって負けなかったじゃないか」
「宅間さん……」
「本来ここに来る客のほとんどは、ただ君達と話をしたり、逆に聞いたりして癒されたいだけだ。実際、俺は弥生の顔を見ると疲れが吹き飛ぶよ。力をもらえるんだ。それって、誰にでもできることじゃない。別にこの仕事を無理に続けろと言ってるんじゃないけど、弥生はもっと誇りを持ってもいいんじゃないかな?」
「誇り……?」
 弥生の濡れた黒い瞳に、光が戻って来るのがわかる。真っ直ぐに俺を見つめ返すと、小首を傾げながら言った。
「そんな風に考えたこと、ありませんでした」
「弥生を指名するのは男が多いから、なんて言うか……嫌な思いをすることもあるのかもしれないけど」
「いえ、そういう……ことをしてきたのはあのお客さんだけです。母の容態が悪くなって、焦っていたのもあって……本当に、自分が恥ずかしい」
 俺は弥生の背中に手を回し優しくさすった。
 一体、この細い身体にどれだけの重荷を背負っているのか。といって、俺が弥生のために大金を用立ててやることはできない。俺は唇を噛んだ。
「……俺、宅間さんが来てくれてすごく安心しました」
「……え?」
 不意の言葉に、思わず目を見開く。
 弥生ははにかみながら、
「宅間さんと話をすると、俺も気が軽くなるっていうか……いつも楽しいです」
 言って、照れ臭そうにしながら涙を拭った。
「はは、そんな風に言われたら照れるな……」
 俺はしどろもどろになりながらソファの端に寄る。体温の上昇と手汗を弥生に悟られたくなかった。
 しかし、弥生は俺のシャツの袖を緩く引っ張ると、俺の肩に頭を預けた。
「……少し、こうしていてもいいですか?」
 ドクン、と胸が高く鳴る。年甲斐もなく、こんな子供に。思うけれど、止められない。
「──ああ、いいよ」
 俺はぎこちない体勢のままそう言うのがやっとだった。
「俺、生まれた時から父がいなくて……妹とも父親が違うんです。妹の父親も、俺が物心つく頃にはいなくなってた。母の病状は少しずつ少しずつ悪くなっていって……とうとう、今みたいな状態になってしまって」
 チラと視線をやると、弥生はまた目を潤ませて悲しげに遠くを見つめていた。
 こういう状況でなくても、弥生はどこか影を感じさせ、いつだって俺の庇護欲を誘う。
「だから、1度でいいから宅間さんにこうして欲しかったんです」
「……そうか」
 俺は弥生の小さな頭に軽く手を置くとポンポンとあやすように撫でた。途端に、弥生の瞳からポロポロと涙が落ちる。
 俺は思わず弥生の肩を抱き寄せ、頭に頬を寄せた。

* * *

 あの日以来、宅間さんは俺のことを今まで以上によく気にかけてくれるようになった。
 俺は少しずつ、少しずつ宅間さんとの距離を縮めて、ある日とうとう告白した。
 宅間さんのことが好きだ、と。
 宅間さんは弱った風に頭を掻いて、でも、俺の気持ちを正面から受け入れてくれた。そして、優しく触れるだけのキスをしてくれた。俺の恵みの少ない人生の中で、1番幸せだったと言っても嘘じゃない。
 そして、今日は──。
「ごめん、待たせたね」
 浴室のドアが開いて、心臓が跳ねる。
 スウェットを着た宅間さんがタオルで髪の毛を拭きながら、ベッドに座っている俺の隣に座った。
 先にシャワーを浴びた俺と、同じ石鹸の香りがする。匂いと体温が近づいて、俺の心臓は早鐘を打った。
 手を握られる。
「あっ、あのっ!」
 声が裏返る。俺はきっと真っ赤になっているだろう。
 ──何を白々しい。
 頭の隅で、妙に冷めた自分がそう囁く。
 宅間さんに真っ直ぐ見つめられて、純粋な喜びや照れからくる恥ずかしさと、後ろめたさややましさからくる羞恥がごちゃ混ぜになって、俺はまたあの時みたいにポロポロと泣き出した。
「弥生、どうしたんだ?」
「ごめ、なさい……、宅間さん、」
 宅間さんの両手が俺の顔を包む。顔を覗き込まれて逃げ場がない。
「俺……ごめんなさい、おれ、ばかで、」
「弥生?」
「おれ、ばかだから……どうしたらいいか分からなくて……、う、ううっ、」
 宅間さんは泣き喘ぐ俺を抱き寄せる。薄いシャツごしに触れる身体が熱い。
「おれ、おれっ……これが、初めてじゃない……っ」
 宅間さんの胸にぶちまけるように言った。

 くだんの男性客は俺の告発で店には来なくなった。けど、あの時俺は宅間さんに嘘をついた。
 俺はあの男性客に呼び出されて、あの後個人的に会っていたのだ。
 本当に、顔を見るのも嫌だったけど、でも俺にはどうしてもお金が必要だったから。要求の内容を聞いてもいいんじゃないかって、最初は喫茶店、次はカラオケで会った。……それが間違いだった。
 カラオケで2人で肩を組む写真を撮ろうと言われて、深く考えずに了承したら、それをネタに脅されて男の部屋に呼ばれた。
 ……最初の時、腕を縛られて、さんざん泣きながらで、あの男も辟易してたけど……けど、俺はそれからも男の誘いを断ることができなくなった。……その時の様子を、撮影されてしまったから。
 何度も呼び出されて、それに応じているうちにだんだん身体も慣れてきてしまった。脅されつつではあったけど、男は俺にお金は渡してくれた。逃げ方のわからなかった俺は、こんなことでお金が稼げるなら安いものじゃないかって、自分に言い聞かせた。
 宅間さんが見ているのはステージの上の俺だ。
 現実の俺は宅間さんが思うようなきれいな人間じゃない。騙しているのは心苦しかったけど、俺はそうやってしか生きられないんだって思ったから。
 ステージの上でだけは、俺は健気に振る舞おう。俺の生まれついての不幸を見せつけて、優しい宅間さんに取り入ろうって。そのうち、宅間さんの優しさに心の底から夢中になった。
 あの男に抱かれる時も、宅間さんだと思って受け入れたら心はずいぶん楽になった。いつか、宅間さんとこんな風にできたら……そんなこと考えるなんて、本当に最低だけど……俺はキャストだから。あの男の前では物分かりのいい男娼を、宅間さんの前では不幸で健気な苦学生を演じ続けた。

「ごめんなさい、おれ、おれ……っ」
「弥生、落ち着いて」
「おれ、こんな人間で……宅間さんお願い、おれのこと嫌いにならないで」
「大丈夫、大丈夫だから」
 宅間さんは俺の呼吸が落ち着くまで、小さな子供をあやすみたいに俺の背中をさすってくれた。
「ああ、もう……可愛い顔がぐちゃぐちゃじゃないか」
 タオルで顔を拭われて、ティッシュで鼻をかむよう促される。まだ喉でしゃくり上げている俺の頬を優しく包むと、宅間さんはゆっくりと俺に口づけた。
 今までで1番、甘くて深いキス。
「……は、」
「少しは落ち着いた?」
「宅間さん……、」
「まだ泣くのか?」
「ぅ、うっ、おれ、おれずっと宅間さんとしたかった……のに、」
 あの男としたことは思い出したくもない。けど、身体は新しいことをどんどん覚えさせられて、嫌なのに抗えなくなっていくのが恐ろしかった。
 最悪なのは、まだあの男との縁が切れていないことだ。
「おれ、汚いんです……今まで宅間さんに見せてた俺は、偽物なんだ」
「偽物なんかじゃないよ。弥生はいつも弥生だ。真っ直ぐで純粋で、誰にも汚したりなんてできないよ」
「宅間さ……」
「これから、俺が弥生を抱くよ。いいか?」
 宅間さんの言葉に、俺はギュッと唇を引き結んで頷いた。

✳︎ ✳︎ ✳︎

 ベッドに仰向けになった弥生は、きれいだった。金のために何度も男に抱かれたなんて思えない、恥じらう様が愛らしく、俺は夢中で全身にキスをした。
 他の男に汚されたところを清めるように、全身くまなく手で、唇で、時に舌を使って愛す。
 弥生は感じているのを悟られるのを恐れるように必死に声を殺していたが、キスと全身への愛撫だけで昂ってしまった幼い雄の象徴に触れると甘く鳴いた。
「はっ……宅間さ、」
 縋るように求めてくる手を握り、優しく扱いてやるとあっという間に達してしまう。
「あ、ぁ……っ」
「可愛いよ、弥生」
 耳元で囁き、俺のものを弥生の性器と擦り合わせた。途端、ぎこちなく強張る身体が切ない。
「怖い?」
「だ……大丈夫、」
 初めてじゃないって言いましたよね、と言いながらまた泣き出すので、俺は慌てて目尻に唇を押し当て涙を吸い取る。
「宅間さん……おれ、最初は宅間さんがよかった」
「弥生……」
「手、縛られて、怖くて……抵抗もできないまま、無理矢理……痛くて、怖くて」
 どんなに手ひどいことをされたのだろう。想像すると、カッと身体が熱くなる。
「弥生は悪くないよ。大丈夫、俺が守るから。力、抜いて?」
 弥生は怯えたような顔をゆっくりと上げると、コクンと頷く。そして恐る恐る俺の首に腕を回した。俺に身体を委ね、足を大きく開く。
 妖しい花のようだと思った。ほんの可愛らしい、慎ましやかな蕾のようだった弥生の身体は、その中に雄の芯を突き挿れた途端芳しい香りを放つように熱を増して赤く染まる。
 仰け反り柔らかく浮いた背中は満開を迎えた花弁のようで今にも零れ落ちてしまいそうだったが、薄い胸になる実を甘噛みすればまた萎むかのようにのたうつ。
「あっ……は……!」
 俺自身が弥生の奥まで届くと、弥生はビクンと下肢を痙攣させた。
「あ、あっ……た、くまさ……っ」
「弥生……とても綺麗だよ」
「んっ……あ、はぁ、はっ……ああっ!」
 ずぷずぷと弥生の中に身を埋めていくと、弥生は眉を寄せた。その表情が悩まし気で、可愛くて堪らない。
「あっ……あ! 宅間さん……っ」
「大丈夫、優しくするから」
「ち、がうんです……! 宅間さん……お願い、おれのこと……めちゃくちゃにしてください」
 悲しい願いだと思った。でも、叶えてやりたいとも思った。辛いことを全て忘れられるように。せめて、今だけは俺のことだけを考えてくれるように。
「弥生……っ!」
「あっ……ン! は、あっ、あっ!」
 ゆっくりと律動を開始すると、弥生はそのひと突きごとに感じ入るようにビクン、ビクン、と背を浮かせた。
「た、くまさっ……あ! お、れ……、ごめんなさい、こんな……っこんな、……あ!」
 ああ、なんて淫らな──俺を包み込む熱と、その狂おしいほどの締めつけに、これが本当に弥生の身体なのかと慄く。弥生もまた、感じ易い己の身体を恥じるようにいやいやと首を打ち振るった。
「ごめ、なさっ……ひ、うっ……ぁ、ン!」
 切なげに寄せられた眉、泣き過ぎて真っ赤になった目元。
「宅間さんっ、好きです、すき、すきぃっ」
 甘い喘ぎを溢しながら何度も俺の名前を呼ぶ弥生が愛しくて堪らない。こんな肢体が他の男の目を愉しませたのかと思うと、今さらながら嫉妬と怒りが湧いた。
「弥生、動くよ」
 呼吸を荒げながら、弥生はコクコクと頭を振った。
 俺は少しずつ腰の動きを速めた。弥生の喘ぎがやや苦鳴に転じても、かえってそこを執拗に虐めて鳴かせた。
「ぅ、あっ! あんっ、あっ、だめ、だめぇっ! 宅間さん、そこっ、おれ……っ!」
「……知っているんだな、弥生は」
 自分の弱いところを。そう思うと悔しくて、記憶を塗り替えてやりたくなる。
「ああっ! あーっ! あっ! まっ、待って、待ってぇ……っ!」
 弥生の声色が少し変わる。甘えたような響き。この快楽を知っているのだ。
「ひぃんっ! んひ、ひぃっ、ん! んは、あっ、あっ、ああっ‼」
「弥生、ああ、気持ち好いよ弥生っ」
 味わったことのないような快感に、腰を振りながら俺も鳥肌が立った。
 弥生の身体は若くしなやかで、触れているだけでもエネルギーを与えられているかのようだったが、俺の肉棒を捕えた場所の快楽はその比ではなかった。緩急をつけた締めつけとうねりに、何度も達してしまいそうになる。
「はぁーっ! ンあっ! あ〜〜っ!あ"ァ──〜〜ッ!」
 ぬぷーっ、と入口から奥まで擦り上げるように抜き挿しすると弥生の悲鳴も高く、長く震える。舌を出して喘ぐのがなんともいやらしい。
「い、イくっ、イくぅ、イッ……ン――!!」
 「イく」なんて言葉も覚えてしまった弥生は予告通り激しく達したが、俺は罰を与えるかのようにピストンを続けた。
「ひっ!? だ、めっ、待っ……宅間さ、あっ! まだ、まだイッて……ひッ、ぃ──!!」
 痙攣している中を文字通りぐちゃぐちゃに捏ねくり回してやると、弥生は白い喉元を天井に晒して声もなく絶頂を繰り返す。汗で煌めくその細い首筋は魅惑的で、俺は狼のようにそこに食らいついた。
「ひっ──ンッ──!!」
 その痛みにすら感じているのか、弥生の直腸はさらにキュンと締まり、俺は一瞬動けなくなる。
「くっ、う……やよ、ぃ」
「はっ──! は、はぁ、っ……! は、ぁっ──! い、てぅ……イって……っ」
「弥生……」
 名前を呼んでやると、弥生はゆっくりと薄く目を開いた。流し目で俺を見るのが年に似合わず色っぽい。
 顎を取ると唇を塞ぐ。
「ふっ……ん、むっ……」
 ちゅぱちゅぱと音を立てて唇を吸いながら、キツい締めつけを堪能するように腰を回す。
「ん"、んっ──〜〜! ふ、あっ、ひぁ……、」
 弥生の身体はすっかりのぼせ上がって、今にも気絶してしまいそうだった。まるで快楽の拷問を受けているかのような蕩けた表情に、さすがに可哀想になり俺も頂を目指す。
「弥生、弥生の中に出すよ」
「ひ、ンッ! くだ、くださいっ、たくまさ……んっ、あ、はぁ、ンあっ! あ"ーッ!!」
 俺は激しく性器を出し挿れした。
「弥生、弥生、弥生っ」
「ん"ンッ、んは! あっ、ああっ! 宅間さっ……あ"ーっ!!」
 極まって切なげな表情で悶える弥生を見下ろしながら最奥を突いた瞬間、欲望を発射した。
「う、くっ……!!」
「はっ……!! ン"ッ──!! ん"、ひン"ンッ〜〜!!」
 弥生の薄い腹の中に、俺の精液が飲まれていく。弥生も幼い性器から精を吐き出して果てた。
 俺は弥生の腹を優しく撫で、弥生もその手に手を重ねた。

* * *

「最初から縛って無理矢理なんて、トラウマにでもなったらどうしてくれるんだよ」
「でも、好かったんでしょう?」
「……まぁな」
 俺はとあるバーの奥まったボックス席で、男と対面していた。向かいにいるのは小太りの冴えない中年男で、店で弥生を襲った客だ。
 俺はあの事件の後、顧客情報を調べてこの男に個人的に連絡を取り、弥生を襲って脅迫するように持ち掛けた。男は俺の意図を怪しみ拒否したが、店の監視カメラの映像が手元にあることを告げると渋々従った。
 弥生はまだ子供だ。大人に脅されれば対抗できる手段はそう持ち合わせていない。かつ、男が弥生の脅迫材料を手にするまでの間に俺は弥生の心の隙間に入り込み、距離を縮めた。
 男が初めて弥生を犯した時の映像は俺の手元にある。弥生をこの手に抱くまでの間は、俺の目を愉しませてくれた。俺の名前を叫びながら、無理矢理犯される弥生の姿にはひどく興奮したものだ。
「見た目も心も純真無垢なまま、身体はめちゃくちゃ淫乱で最高だったよ」
 俺はニタリと笑った。
「細い腕で必死に縋りついてきて。挿れた瞬間軽くイッてた。泣きながら俺の名前呼んで、可愛い声で鳴いちゃって……めちゃくちゃ感じ易いの、あれってお前の調教の賜物かと思ったら俺も熱くなっちゃってね」
「本当、悪趣味ですねぇ」
 男は俺の顔色を伺うような薄笑いを浮かべる。
 最初こそ脅してやったが、俺の目的がわかってからはすっかり徒弟のようだ。こいつの金は弥生に回っているが、実際に弥生の身体を愉しんでいるのだからもはや共犯者といっていいだろう。
「奥までズコズコ突いたら締めつけすげーのなんのって。そのくせ、感じ易いのが恥ずかしいみたいでさ。真っ赤になって謝ってくるのなんか股間に響いたな」
 弥生の反応を思い出すと下半身が熱くなる。
「最近はお前に対しても妙に素直な様子だったからちょっと妬けたけど、これでまた嫌がる弥生の顔が見れる」
 こいつと弥生の行為はすべて動画を提出するように要求している。一時期は諦念からかしおらしく男の言うがままだった弥生も、俺とセックスをしてからは男との行為に抵抗しているようだ。
「こっちは大変ですよ。またじゃじゃ馬になっちまって……まぁそれを捻じ伏せるのもまた一興、ですけどね」
「ちっ、お前もちゃっかり愉しんでるじゃねーか。しばらくしたら3人でヤるか?」
 俺は笑いながらそう言ってウィスキーを煽った。
 弥生には、男のことは俺が手を打つと話したが、こいつは今しばらく泳がせておくことにする。弥生だって金が必要なのは本当なのだ。

 弥生が見ているのはステージの上の俺だ。
 現実の俺は弥生が思うような優しい人間じゃない。いたいけな子供を騙していても少しも良心は痛まない。俺はそうやってしか生きられないんだって思ったから。
 ステージの上でだけは、俺は優しく振る舞ってやる。弥生の不幸な人生をより艶やかに彩るために。弥生の心は真っ直ぐで純粋で、誰にも汚したりなんてできない。
 それだけは、本当なんだよ。

2020/06/22

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