Long StoryShort StoryAnecdote

バースデー


 豪奢なタワーマンションの最上階。見晴らしのいい部屋の眺望を、ミヒャエルは独り占めしている。
 こんなに幸せでいいんだろうか。
 ミヒャエルは窓外の高層ビル群と、反射して映り込む自分の姿とを交互に見た。
 男性に生まれながらアナルセックスで妊娠できる特殊な生態──一般には「オメガ」と呼ばれる──に生まれついたミヒャエルは、これまではそれなりに苦労もしてきた。
 世間では体外受精、遺伝子操作による交配がごく一般的になっていたが、ミヒャエルは自然交配によってこの世に生み落とされた。その時点である程度、運命は決まったようなものだったが、さらにオメガであることが知れるとすぐに捨てられ、施設に引き取られた。
 オメガ特有の性質のひとつに、「ヒート」という発情期がある。ヒートの間は発熱し、身体が怠くなる。そうしながら、男性を惹きつけるフェロモンを振り撒くのだ。
 ミヒャエルは4年前、12歳の時に初めてヒートの発作を起こし、学校で上級生達に襲われそうになったことがある。しかしその時、すんでのところで教師に助けられた。
 卒業後、その教師──アレックスとは恋人同士となり、この家に引き取られた。以来、少年は彼と同棲している。
 アレックスから与えられたコルセットは少年の細い首を強固に守っている。うなじを噛まれると強制的にヒートになり、その状態で性交すればほぼ確実に妊娠してしまうからだ。
 アレックスはミヒャエルを労り、外に出ることを禁じた。ほとんど軟禁状態の生活だったが、ミヒャエルは彼と一緒にいられるのならそれでも構わなかった。
「16歳の誕生日を迎えたら、セックスをしよう」
 彼はそう約束した。同性同士でも、16歳になれば婚姻が認められている。そして今日がその日……ミヒャエルの16歳の誕生日なのである。
 きっと世界ではオメガに生まれてつらい人生を送っている人もいるだろうに、アレックスと出会えたのはまさに幸運だった。
 ミヒャエルは改めてそう思い、チェストの上に飾られた2人の写真立てを手に取る。アレックスは20代の青年で、ブロンドの髪を丁寧に梳り爽やかな笑顔をこちらに向けている。並ぶミヒャエルは学校の制服を着ていて、まるで兄弟のようだ。
 ミヒャエルは熱っぽい身体で気怠く、恋人のベッドにゴロンと寝転んだ。
 発作を鎮める抑制剤はあるが、あれを飲むと副作用で1日中寝込んでしまう。誕生日を楽しむどころではない。
 アレックスが帰って来たら、今夜は2人でパーティーを開いて、そのままベッドに直行する。うなじを噛んでもらい、深く繋がって……アレックスの子を宿してもらうのだ。
 それなら、今日は薬を飲まずに待っていよう。自分のフェロモンにあてられて、獣のように求めてくるアレックスの顔を見てみたい……。
 ミヒャエルはその想像だけで胸が高鳴り、彼がしてくれるだろう愛撫を想像して下着を濡らした。
「はっ……ぁ、アレックス……」
 アレックスの香りがするシーツに顔を埋め、股の間に自分の腕を挟みこすりつける。湿った感触が肌に伝わり、そこがさらに濡れてしまうのがわかった。
 1人の部屋ならいくらフェロモンを振り撒いても問題にならないが、それにしても性欲を持て余す。ミヒャエルは火照った身体をくねらせて、アレックスに抱かれる妄想で自慰をした。
 ピンポーン……
 ハッと目を見開く。何度か鳴っていたのだろうか、ミヒャエルは慌ててドアホンに駆け寄った。画面には宅配便らしき男が映っている。何やら大きな花束を抱えているようだ。
『すみません。アレックスさんからミヒャエルさんにお届け物なんですが……宅配ボックスがいっぱいなので、お部屋に直接お持ちしてもよろしいでしょうか?』
「あ、ええと……」
 ドア応対くらいは許されているが、今日は薬を飲んでいない。
「ドアの前に置いてもらえますか?」
『いや、花束なので……受け取ってもらえません?』
 配達人はやや面倒そうに言う。確かに、アレックスからの花束を床に直置きするのは忍びない。ミヒャエルは「わかりました」と答えると、慌てて衣服を着替えた。
 再びインターホンが鳴り響き、今度はそれがドアの前からのものであると知れる。ミヒャエルは玄関の姿見の前で手早く身だしなみを確認すると、ドアを開けた。
「すみません、ありがとうございます」
 目の前が色鮮やかな花束でいっぱいになる。同時に、玄関に押し入って来た男にドン、と身体を押されて、ミヒャエルはその場に尻もちをついた。バサ、と花束が落ちる。
「いっ! た……、」
 見上げると、配達員の男が驚いた顔でミヒャエルを見下ろしていた。
「お前……オメガか?」
「えっ……?」
 ゾワ、と背中に悪寒が走った。自分のフェロモンに誘発された、雄の匂い──それを敏感に感じたミヒャエルは咄嗟に立ち上がろうとしたが、くらりと目眩を起こす。
 男はミヒャエルに覆い被さると、腕を押さえつけた。ミヒャエルの全身から血の気が引く。
「なっ……!? 何を──」
「オメガなんだろ? なぁ、そうだよなぁ!」
 男の息が荒い──ミヒャエルは必死に抵抗するが、ビクともしない。足にのしかかられて、蹴り上げることもできなかった。
「や、やめっ、」
「抑制剤も飲んでねぇだろ、何されても文句言えねぇよなぁ!?」
「いやっ……やあぁっ!」
 男はミヒャエルを床に押さえつけながら、シャツを引き裂く。バチバチと音がして、弾け飛んだボタンが床に転がった。
「天然物の女はお国に保護されてほとんどお目にかかれねぇからよぉ。その手の店にしか世話になったことはねぇが……オメガがどんな具合か、いっぺんヤッてみたかったんだ」
 男の手がミヒャエルの薄い胸を撫でる。乳首に触れられると、ヒートのミヒャエルはそれだけで下腹に熱を帯びるのを感じた。
「やめ……人を、呼びますよ……!」
「呼んでみろ。全員で手籠めにされるのがオチだ」
 ミヒャエルは青褪めた。それは決してただの脅しとも言い切れなかった。学校で襲われた時、確かにそれまで仲のいい友人だった少年までもがミヒャエルに欲望を抱いたのだ。
「ひっ──」
 男はミヒャエルの首に手を伸ばすと、コルセットのダイヤルに手をかけた。
「ほら、番号を言え」
「し、知らない……」
「嘘つくんじゃねぇ、言え!」
「ひっ、ぐ……!」
 男は容赦なく、コルセットの隙間に指を入れて頸動脈を圧迫してくる。息が詰まり、頭がギリギリと痛んだ。
「誕生日を命日にしたくねぇだろ? 死にたくなかったら早く言いな」
「た、ぁ……っ、たん、じょ……?」
 何故この男が知っているんだろう。思っていると、男は花束に手を伸ばし名刺サイズのカードをミヒャエルに見せる。
「メッセージカードが添えられてたからな。お前の誕生日なんだろ? ……ああ、もしかしてそういうことか」
 男はダイヤルを回す。カチリと音がして、鍵がはずれた。
「……ビンゴ」
 ミヒャエル自身はコルセットの鍵のナンバーを知らなかった。しかしアレックスは今日という日にはずすつもりで、恋人の誕生日に設定していたのだ。2人にとって、不運なことに。
「はは、パスワードに誕生日はダメだって学校で教わらなかったのか?」
 男は嘲りながら、ミヒャエルの身体を反転させると白いうなじに唇を寄せる。そして口を大きく開けた。
「ぎっ──!? いだぁっ……!!」
 剥き出しにした犬歯がミヒャエルの皮膚に深く食い込む。鉄錆の匂いと味がさらに男を興奮させ、ミヒャエルもまたグワン、と目眩が強くなるのを感じた。
 心拍が速くなり、下半身が熱を持つ。アレックスを想って自慰をしていた時の後ろめたいような快感が爪先からにじり寄って、ミヒャエルの秘部がヒクリと反応する。
「はぁ、はっ……ぁ、あっ……!」
「なに、お前も乗り気じゃん? じゃあこれ、合意のセックスだよなぁ」
 ミヒャエルは床を這って逃げようとしたが、男に足首を掴まれ引き戻された。玄関入ってすぐの廊下で腰を掴まれ持ち上げられると、四つん這いにされた尻に何か硬いものが押しつけられる。振り向いて、ミヒャエルは息を飲んだ。男も完全に勃起しており、そのペニスをミヒャエルの尻にすりつけていたのだ。
 男はミヒャエルのズボンと下着を引き下ろすと哄笑した。
「はは、もう濡れてんじゃねぇか! やる気マンマン? なぁ、ここ──誰かに挿れさせたことあんのか?」
「ひっ……うっ、……や、」
 ミヒャエルは泣きながらブルブルとかぶりを振る。学校で襲われた時も、服を脱がされそこに性器を押しつけられた。嫌なのに、自らが分泌するもので濡れて、太腿で挟んでこすられて……挿入されそうになった時、間一髪でアレックスが止めに入った。
「あ──もしかして、今日彼氏とするつもりだった?」
 ミヒャエルの身体がビクッと震えて、男は図星を悟るとニヤニヤ笑う。
「なるほどねぇ。ここ、彼氏んちだろ? お前みたいなガキがこんなところに住めるわけないもんなぁ。いやー、お手つきになる前でラッキーだったぜ。彼氏もとっとかないで早くヤッときゃよかったのになぁ」
 男はミヒャエルの分泌した愛液を絡ませるようにペニスをこすりつけると、窄まりを探った。
「い、やっ……!」
 そこはすでにぬかるんで、生殖を求めている。でも、望む相手はこんな男じゃない──思うのに、うなじを噛まれたせいでミヒャエルはろくに抵抗することもできない。
「すげぇ……マジにどんどん濡れて……お前らってさぁ、妊娠できるんだろ? せっかくの誕生日だもんなぁ、欲情してビショビショになってるところ、彼氏にハメてもらおうと思ってたってわけだ。魂胆がスケベだなぁ」
「ううっ、ふっ……う……っ!」
 ぐち、ぐち、ぐちゅっ……、男の指が2本入れられ、抜き挿しされるとどんどん濡れる。ミヒャエルにそれを止める術はない。
「すっげぇタイミング。完璧なチャンス逃すわけいかねぇな……っ!」
 男は自分の手でペニスを扱くと、すでにトロトロになった幼い蕾にそれを押し当てた。
「い、やっ、やめっ……! う、あ"〜〜ッ!!」
 ミヒャエルは男の身体の下でビクビクと震えた。挿入されたペニスが、ズプズプと中に入ってくる。肉襞を抉じ開けられる快感に、背中が弓形に反る。
「おっほほ! 最初は先っぽだけって思ったけど、勝手に飲み込んでくじゃねーか、よっ!」
「ひぐ、うっ……! ひ、ぃっ……や、いやあっ……!」
 泣きながら顔を歪め口では拒絶しながらも、ミヒャエルの肉襞の動きは違った。愛液で潤ったそこはペニスをきつく締めつけ、引き抜かれれば強く引き留め、挿入されればさらに狭い奥に誘うような淫らな蠢きを見せる。
 味わったことのない強烈な快感に、男は腰を動かす度に鼻息を荒くした。
「くはは、自分からチンコ飲み込んでんじゃねぇかよ、このエロガキ……ッ!」
「ひぐ、ひっ……や、め……ぬぃ、抜いてっ……くださ、ひっ!」
 ずちゅんっ! と強くひと突きされて、ミヒャエルはガクンと頭を垂れて細い肩を振るわせた。男のペニスを食んだ後孔は、その縁を赤く腫らしながらも別の生き物のように根元まで食い締め悦んでいる。本当に初めてかと疑わしい反応に、男は舌舐めずりした。
「こりゃあ……愉しませてくれそうだ」
 唇を湿らせると、男は少年の細い腰を掴み引き上げた。
「あっ!」
 バックでガツガツと突き上げると、ミヒャエルはカーペットを掻き毟りながら喘ぎ散らした。血塗れのうなじが痛々しいながら、男はそれに所有の満足を得てますます興奮する。白い肌はみるみるうちに染まり、濃密な性の匂いが部屋に充満した。
「ひっ! ひうっ、うあ、あっ、あんっ!!」
「ああ、ヤバいっ……これ、絶対外まで匂い漏れてるっ……チンコここにハメて、ズボズボ突きまくって、種付けしてくださいってねだるスケベな匂いっ!!」
 バチュ、バチュン、バチュ、バチュンッ
「やめ、でっ! や、あ"っ、あぁっ!!」
「彼氏に、大事に、大事にされてきたんだろ、え? 他人のきれいなもんを、この手で汚してやるって、最高に気分がいいぜ!!」
「いや"ぁぁぁあっ!! あ、あ"ッ……!! あ、も、動かな……でっ! ぎ、ひっ!!」
 男のペニスはすっかり根元まで埋没し、先端部はミヒャエルの奥深く──小さな子宮の入り口をゴツゴツと叩いていた。本来、優しくされるべきそこを激しく責められて、ミヒャエルの視界に星がチカチカと点滅する。
「ひ、あっ、あ"っ!! 待っ……て、まっ……そん、なっ……突いちゃら、めぇっ……!!」
「は、はぁっ、うっ、ヤバっ……お前のマンコ、マジで最高だぜっ……! はは、俺しか知らねぇなんて、もったいねぇなぁっ!」
 ゴチュ、ゴチュ、ゴリュッ!!
 亀頭部がゴリゴリと抉るように、ミヒャエルの敏感な場所を刺激する。どうしてこんなことに──見知らぬ男のペニスで喘がされながら、ミヒャエルは大粒の涙を流す。
「ひう、うっ!! うあっ、あ"っ、あれ、あれくすぅっ……すけ、たすけ、で、」
 ミヒャエルは必死に恋人の名前を呼んだ。アレックスとするはずだった、幸せなはずの行為──それが今、他の男に打ち砕かれているという現実。
 しかし悲しいことに、うなじを噛まれた身体は支配者に服従してしまう。それはまるで、相手がアレックスだと錯覚しているかのように、男が好き勝手に突き上げているうちにミヒャエルの腰も揺れていた。動物の本能──もっと、もっと深くまでペニスが届くように、好きなところをこすり、抉ってくれるのを望んで。
「お望み通り、悦ばせてやるよっ!!」
「ぎっ──ひィッ!!」
 ズンッ!! と深くを突かれる。2回、3回──回数を増すごとに、ミヒャエルの口から溢れる声も甘えを帯び、男を惑わす色香はいや増すばかり。
「ひぁ、ぁあんっ!! あ、あだかひっ……!! ひぃ、ひっ、ひうぅッ……!!」
 にゅち、にゅち、と先端部が子宮口を捏ねくり回すと、ミヒャエルは堪らず絶頂して潮を噴いた。ガクガクと痙攣する両足──膣も痙攣し、男は強烈な快感にやられてそこで達した。
「う、くおっ、あ"あっ、出てっ……! うあ〜〜出ちまってるよぉ……っ!! 天然ものの処女穴に射精……っキメちまってるぜ……!!」
「は、ひっ……!? あ、え……? は……っ」
 腹の奥に熱いものがドクドクと溜まっていく──これ、は?
「あ〜マジ、堪んね……っ! おい聞こえてんだろ? お前のエロ穴、俺のチンコ扱いて潮噴いて、グチュグチュエロい音してんの……そこに今、俺が種付けしてやってんだよぉっ……!」
 男の射精は長く、吐き出した精液はミヒャエルの体内深いところまで流れ込む。精子が、ミヒャエルの卵管を目指して泳ぎ出す。
「はは、サイッコー!」
 ズポ、と乱暴に性器を引き抜かれると、ミヒャエルがガクンと腰を落とした。生まれたての子鹿のように足を震わせながら、蹂躙されたところから止めどなく体液を溢れさせる姿に男はゴクンと息を飲む。
「や、あ……ぁ、やら、も……たひゅけ、て……あれ、くす、」
 パクパクとヒクつく穴は空気を含んでブポ、ブピュ、と品のない音を立てながら中に出された性液を噴出する。少し間を置いて床にバタバタと垂れ落ちるものは、男の出した精液の量とその深さを物語っていた。
「やべ、出したのに全然治まらねぇや……っ」
男はミヒャエルの首根っこを掴むとあぐらをかいた自身の上に少年を座らせて挿入した。近くにあった姿見の角度を変えて、繋がっている自分達の姿をミヒャエルに突きつける。
「ほら、見てみろよ。お前のケツマンコが俺のチンコ飲み込んでるとこ……っ」
「ひ、やだっ……!!」
 ミヒャエルは両手で顔を覆う仕草をしたが、男はミヒャエルの膝裏に腕を入れて大股を開かせると、そのまま少年の手首を掴んだ。
 鏡には──まるでカエルのように両手両足を開かされた少年が、男のペニスを挿入されて勃起している姿がはっきりと映っていた。
「あっ……ああっ……!!」
「へへ、自分のエロい格好見て興奮してんじゃねぇかよっ……! 中ビクビクさせやがって、エロい汁も溢れてきてんぞ!」
 バチュ、ビチャ、プシュッ、
 男が腰を突き上げれば、ミヒャエルは呆気なく達した。射精した飛沫が鏡を汚す。
「いやあっ! あ、あっ、やだぁぁあっ!!」
「うっ……は、ほら、またお前の中で出してやってんの、わかるか……?」
 男はミヒャエルの下腹をねっとりと撫でながらそう言って、2度目の種付けを終えた。
「ふぅ……第3ラウンドは彼氏のベッドにすっか」
 勝手に冷蔵庫を漁って水分補給をした男は、ぐったりとしたミヒャエルの身体を抱え上げると、少年のシャツや靴下を剥ぎ散らかしながら寝室まで連れ込みそこに少年の身体を放り投げた。
 さっきまで恋人を想って自慰に耽っていた場所──あの背徳がどんなに甘美で幸福だったことか。
「やだ……も、許して、帰って……」
 ミヒャエルはこの聖域だけは侵したくないとばかり、必死に抵抗したが、再びうなじを噛まれると脱力した。
「ぁ……うっ……、」
「そうそう、おとなしくしてたらお前も好くなれるんだ……愉しもうぜ?」
 男は我が物顔でベッドに上がる。
「……へぇ、よく見りゃ顔も可愛いじゃん。イき顔、もっと見てぇ……っ!」
「ひっ……!」
  両足を大きく開かされ、上に覆い被さられる。先まで拡げられていた場所に再び熱を押し当てられると、奥まで挿入されるのは一瞬だった。
 ぐぷぷっ、ぐぢゅうっ──!!
「ッ──〜〜!!」
「声抑えてても感じてんのバレバレだぜ。やらしー汁、マンコから溢れてきて……俺のチンコぎゅうぎゅう締めつけてんだからさぁ」
 男は嘲るように言うと、それを思い知らせるようにゆっくりと奥を責めた。にちゅ、にちゅ、としつこく、いたぶるように。
「うあっ……あ、あぐっ……ぅ、〜〜ッ!!」
 自分が感じていることをしっかりと理解させられて、ミヒャエルは泣き喘ぎながらブルブルと首を振った。
 嫌だ──嫌だ。アレックスと──アレックスに、アレックスじゃなきゃ。
 甘いキスをくれる恋人。いつも理性的で、ヒートのミヒャエルに対してさえも翻弄されることがなく、それが少し寂しくもあった。だから今日、激しく求めてくれるのを楽しみにしていた。それなのに──。
「ひっ……ひう、やめ……っ、あ、あれ、くすっ……あ、ぁっ……、」
 また奥で出されている──ドプドプと中に注がれるものへの嫌悪感、屈辱。アレックスに対する罪悪感。
「あぅ……う、……も、抜いてぇっ……」
「やーだよ。こんな具合の好い穴、なかなかねぇ……まだまだ味わせてもらうぜ、……うくっ!」
「う、あっ、あっ!」
 また、中に出てる──もう、何回出されたかわからない。下腹が熱く、重い。うなじがじんじんと痛む。
「誕生日にさぁ、彼氏以外の男のチンコ、処女穴で扱くってどんな気分? 彼氏も驚くだろうなぁ、ハジメテなのに、こんな、やらしい身体してたなんて、さぁっ!」
 バツン、バツンッ、バチュンッ!!
「いや"ぁぁぁっ! やだ、あ"っ! あ"ぁっ──!!」
「やだやだじゃねぇよ、ほらっ! お前も感じてんじゃねぇかよっ! 無責任にたっぷり種付けしてやるからな! お前、せっかく孕める身体してんだからよぉ、少子化対策に貢献しろや!」
「ああっ! やだ、やだやだやらっ……な、か出さないで……っ!に、にんしん、したくないぃ……っ、」
「ガキがガキ孕んだらどうなるんだろうなぁ!? おらイけっ! イって、孕め、孕めっ!!」
「ぁアッ、アッ!! アぐっ、うっ──!! ひ、ハァンッ!! いや、もうなか、やだやだ、やぁぁぁあっ……!!」
「はあ、はっ、はう、うっ……出る……ッ! イく、イく、イッ──ううっ!!」
「やぁぁぁあっ!! あっ──あっ……あ、あっ……!!」
 最奥で精液が飛沫をあげる。ミヒャエルの身体が、着々と次の準備を進めていく。
「は、はぁ、はっ……! ああ、最高に好かったぜ、ミヒャエル……ハッピー・バースデー!」



「行為は3時間ほどに及んだようですね。それからさらに2時間が経過……先程、簡易スキャンをかけましたがすでに受精しているようです」
 ブランケットにくるまって、ベッドの縁に小さくなって座っているミヒャエルは、真っ青な顔をして呆然としている。首筋には包帯が巻かれ、手首や太腿には痣が浮かんでいた。
 ポニーテールの捜査官からの報告を聞いていたアレックスはミヒャエルの顔を伺い、小さくため息をつくと頷いた。
「……そうですか。抑制剤は飲んでいなかったんでしょうか」
「そのようです」
 アレックスが帰宅すると玄関のドアは鍵が開いていた。ぐちゃぐちゃになった花束と、汚れた鏡。脱ぎ捨てられた衣服を辿ると自分の寝室に辿り着き、そこには全裸でうつ伏せに横たわり、首筋を真っ赤に染めている少年の姿があった。
 幸いにも、脈はあった。うなじはさんざん噛まれたのだろう、いくつも歯形がついていた。それよりもひどかったのは少年の下半身だ。彼がここで何をされたのかは言うまでもなく明らかだったが、犯人の姿はすでになかった。
 アレックスはすぐに通報した。
「ミヒャエル。怖かったね」
 アレックスはミヒャエルの隣に座ると、その細い身体を抱き締める。ミヒャエルはたった今アレックスの存在を認識したかのようにじっと彼の顔を見つめると、その青い双眸からボロボロと涙をこぼした。
「ごめ、なさい……ごめんなさい、おれ、……おれが……、」
「あなたは悪くない」
 アレックスはそう言ってミヒャエルの額にくちづけた。
「おれ、……あれ、くすの……っ、子供、欲しくて、それで……、薬、飲まなくて」
「ああ……」
 アレックスには、ミヒャエルの発するフェロモンというのがわからない。学校で彼が襲われた時、加害少年達の話を聞いてミヒャエルがオメガであり、ヒートを起こしたのだと知った。
 ポニーテールの捜査官──彼女は、少し怪訝な顔をしてアレックスを見つめると、窓際で状況見聞をしていた同僚に耳打ちした。
「あの坊やは恋人がアンドロイドだということは知らないのかしら」
「そうみたいね。彼と子供を作る気でいたみたいだもの。やっぱり人間の考えることはよくわからないわ」
「仕方ないわよ、子供だもの」
 横から、褐色の肌をした鑑識の女性が口を挟む。
 彼女達は女性型のアンドロイドだ。天然の──自然交配で生まれた人間の女性は絶滅危惧種のため保護され、人間の生殖は管理されている。街を歩く女性はアンドロイドしかいない。
 今や人間の生態系に「自然に」影響するのはオメガ男性くらいのものだが、それもアンドロイド管理下の世界においては瑣末なことだ。
 アレックス達アンドロイドには生殖の機能はない。性器はあり、人間に快楽を与えることはできるが、当人達に性感はない。
 けれど愛情はわかる。アレックスはそう思考し、ミヒャエルを抱き締める。
 フェロモンが何なのかよくわからないから警戒はしていたが、こんなことになるとは。アレックスは傷つけられた恋人への気持ちに戸惑う。
 愛情というものを理解していると思っていた。ミヒャエルには与えてきたつもりだ。しかしこんなことになって──ミヒャエルの身体の中に、他の人間の植えつけた生命が?
 自分にはなし得ないことをされて、アレックスは混乱した。人間よりもアンドロイドの方が優れているという意識でいたのに、何かそれを根底から覆されるような……自分の中に新たに生まれたこの黒い、煩わしい感情は何なのだろう。
「だいたい、人間とアンドロイドの恋人同士なんて聞いたことないわ」
「そうは言っても、結局ペットでしょう?」
「でも、彼の方も本気みたいよ」
 女性達は少年に寄り添う男の背中を見た。型式番号ALEX−0096−M20。その男の胸中には本来彼らアンドロイドが持つはずのない暗い感情──嫉妬や憎悪といったものが生まれたばかりだったが、それを彼女達が理解することはない。彼女達にとっては、去勢していない飼い猫が外で子供を作ってきたというような事象とこの事件の意味は同じだ。
「ご愁傷様」
 そう言って、3人は同時に肩を竦めた。

2021/05/23

Main
─ Advertisement ─
ALICE+