Long Story|Short Story|AnecdoteMirror Mirror
目を開いたのに、視界が悪い。睫毛を瞬くと、目元がごわごわした。布で覆われているらしく、布越しにはほとんど光も見えない。
隼(しゅん)は重い頭を起こすと、目隠しの布をはずそうとしてそれが叶わないことに気づいた。両腕は後ろ手に縛られている。首に当たる襟カラーの存在を確認して、学生服は身に着けているらしいと知れた。
身体が怠い、重い。自分の身体の不調だけではない。何かが、いや、誰かが圧し掛かっている。
ゆっくりと意識が浮上してくると、ぶわ、と汗が出た。
「だ、誰……ッ、将(しょう)?」
隼は恐怖に震える声で兄の名を呼んだ。
頭の靄を掻き分けるようにして、混濁した記憶を必死に辿る。
下校途中、別の高校に通う兄とばったり会って、途中まで一緒だったはずだが……眉間の辺りに重い泥のようなものが居座って、頭が冴えない。
その時、太腿に熱いものが触れて眉を顰めた。
「ンぅ、」
唇から、妙な声が漏れる。
股座の間に、何かがいる。体温を持つ生き物が、そこに――。
「だ、れ……何、これ……?」
人の体温でこもったような空気、体臭。ふと、布越しに影が落ちて身構えた。荒い、生臭い息が鼻先にかかる。目の前の影は無言のまま、隼の頬をぬらりと撫でた。
「ヒッ……!」
ゴツゴツとした大きな手は大人の男のものだ。兄ではない。
隼の顔が恐怖に強張る。男の親指の腹は隼の頬を辿って赤く薄い唇をなぞると、その間を割って口内に潜り込んできた。
「ア、がッ……は、」
舌を押され、頬の内側の粘膜を、上顎を擦られ、隼は咄嗟に歯を噛み合わせようとした。
「噛ンダラ殺スゾ」
瞬間、頭上から奇妙な声が降ってきてビクリと固まる。明らかにボイスチェンジャーを使った、甲高い機械音声だ。隼はもう1度声を聞きたくて耳をそばだてるが、それ以上言葉は聞こえてこなかった。
「ふぅ、うッ……」
男のもう一方の手が、ひたり、開かれた胸に触れてぞわりと背が痺れた。男の熱い手、汗ばんだ指先がそろりと脇腹を撫で、色の淡い乳首に触れる。隼はビクビクと身体を震わせ、口から指を引き抜かれると身を捩った。
「あぅ、や、やめ……何、ぁ、ンッ」
隼の身体は味わったことがないはずの刺激に対し、過剰に反応する。手は隼の身体を弄るのをやめない。その手は粘液にぬめって、ピンと尖った隼の乳首を何度も行き来した。
「はぁ、あッ……! は、……ぁッ?」
その時、ヒク、と下腹に違和感があった。下半身の重み。熱。倦怠感。男の手が隼の下腹部を撫でると、ぞぞぞ、と快感が走り、隼は背をしならせる。
「ンは、ぁあッ……! なっ……、あ、はッ……!」
ぬちゅ、と水音がして顔を俯ける。目隠しで何も見えないが、今――隼の尻に、熱い人肌が密着していた。
「ヒ……、な、に……これ……? な、ぁ……やだ、やめ……ッ、」
男の手が隼の太腿に触れ押し広げられると、体内に感じた熱が擦られた。隼は息を止め、身体を強張らせる。次の瞬間、深くを突き上げられて悲鳴をあげた。
「ひぃあッ……――!」
ビクビクと身体が震える。一体、何が――今、自分の身体はどうなっている? 混乱と恐怖と異常な睡魔とに同時に襲われながら、隼は額にぶわっと湧いた汗が流れていくのを感じる。
「教エテヤロウカ。今、オマエハ男ノデカチンポヲ尻ニ嵌メテ、嬉シソウニヨガッテルンダヨ」
胸元をざらりとした熱いものが触れる。ねっとりとしたそれは……男の舌だ。乳首を舌先で舐り、甘噛みし、吸いついてくる。はぁはぁという息遣いが近くに聞こえ、嫌悪感を感じながらもその刺激に隼の身体は小刻みに震えた。
「い、や……嘘ッ……! やだ、や……っ、やめ、ぁ……!?」
腰から捻るように押し潰し、男は薄い胸に顔を埋めたまま隼の後孔にペニスを突き込んだ。窄まったそこは本来は排泄器官で、当然外からの異物を受け入れる場所ではないが、隼のそこはぐっぽりと男を飲み込み白濁に潤んでいる。身体は男のペニスの形にすでに馴染んでいるかのようだ。
まさか、まさか――眠っている間、に……?
元より視界は闇に覆われていたが、隼は恐ろしい想像に目の前が真っ暗になり、残酷な現実に頭が真っ白になった。
「やだ、嫌だッ! やめ、」
男はますます息を荒くし、手の動きは乱暴さを増していく。左手を隼の股間に回すと、幼いペニスを摘まむ。自分以外の誰にも触れられたことのないそこを刺激されて、隼は悲鳴をあげた。
「いやッ、やだぁッ! 触んな、で……ッ、あぁ!」
恐怖と嫌悪感で身体が固くなる。口の中はカラカラに乾いた。
「あッ……は、誰か助けっ……しょ、う、将ッ!」
男は腰の動きを休めると、乳首とペニスへの刺激を続けた。隼の身体の反応が変わるまで、執念深く。若い身体はまだ体力や抵抗力が余っているはずなのに、力が入らない。全身が敏感になって、今や体内に深く突き入れられた肉棒の存在をまざまざと感じざるを得なかった。隼の腸壁はその刺激を喜ぶように、キュンキュンと収縮している。
自分の身体なのにまるで言うことを聞いてくれない。それどころか、今この瞬間にも男の好いように作り変えられていく。
「やだ、やだぁ……っ、あ、やめて、何で……嘘、やッ……!」
「クククッ……サッキマデ、意識ガナイママ、アンアン喘イデ腰振ッテタクセニ……」
「そんな、の……嘘だ……ッあ、あぁッ!」
隼の否定を打ち消すように突かれて、嫌なのに身体が反応する。声を押さえられない。男のペニスが出ていこうとすると、隼の内壁はそれを逃さないようにキュンと締めつけてしまう。
「お願、も……、やめて、や、だ……ッ」
残酷な欲望は少年の哀願など聞かない。容赦なくグリグリと内壁を刺激しながら、ゆっくりと引き抜いたり、同じ場所をしつこくしたりと隼を好き勝手にいたぶる。
どれほどの間この行為に及んでいたのか……男はすでに隼の身体が悦ぶところを掌握しており、重点的にそこを虐めた。
「うぐ、あ……ふッ! あ、あッ、あ、は……あ!」
隼は目元を覆う布が濡れていくのを感じていた。恐怖と嫌悪感、悔しさと甘い痛みに涙が止まらない。媚びるような自分の高い声を聞きたくないのに、唇を引き結ぶこともできないなんて。
「あぁ……ッ、……ぎ、ひッ……!」
隼のペニスは男の扱きに耐え兼ねて、硬く起ち上がっていた。先端は先走りでしとど濡れている。
男は激しく抜き差しを繰り返しながら、長い時間隼の身体の奥を嬲った。隼は荒い呼吸を聞きながら、もうほとんど抵抗する気も逃げる気も失せていた。きっと腹の中にはすでに何度も男の精液が吐き出されているのだろう。男が入口の際まで亀頭を引き抜くと、中の汚液が掻き出されて内股を伝った。
羞恥からはいっそ距離を置いてしまった方が楽だ。命を奪われる恐怖と、兄を案じる気持ちだけを強く意識する。
死にたくない、死にたくない、死にたくない。
どこかこの近くで、兄も同じ目に遭わされているのかもしれなかった。
男は隼の身体をほとんど2つに折るように両足を肩に担ぎ、上から押し潰すように突いていたが、隼の背中に腕を回し抱き起こすと自分の上に座らせて今度は下から突き上げた。
「はぁ、うッ……!」
何も見えなくても、自分の体重で男のペニスを深く受け入れていくのがわかる。触れた皮膚から男の体温、ドクドクという脈が感じられて、隼は背を震わせた。熱い手が隼の尻を掴み、捏ねるように揉まれる。
「う、あンッ……、ひ、あぅ……ッ」
男は身体を前に倒すと、隼の唇にむしゃぶりついた。熱い鼻息が顔中にかかる。隼自身も鼻から一生懸命に呼吸するが、息苦しさのせいで男の性器をきつく食い締めていく。男のペニスは硬度を増し、先までよりも深いところをゴン、と突いた。
「……ッ! ふぐぅ、ン……ッ!」
「ぐ、ふぅ……!」
それまで声を殺していた男の呻きが聞こえる。舌を絡めたままぎゅっと腰を抱かれて、隼の身体に鳥肌が浮く。痛い、痛い、気持ち悪い――身体は悲鳴を上げているのに、喉からは引き攣りながらも快感に震える喘ぎしか出てこない。
男は腰を浮かせると、より律動を激しくした。
「は、ふぐ、ンッ、ン"ぅッ! ……、はっ……ぁ、……うそ、うそ、やらぁ……ッ!」
男に跨り、肛門に肉棒を押し込まれて激しく突き上げられ、揺すぶられて。腹の奥に、自分のものではない熱を感じる。繋がった部分はじんじんと痛むのに、身体がバラバラに壊れてしまわないのが不思議だった。
しかし、隼の受けたショックなどお構いなしに、男の律動は加速していく。中に収まっていたペニスが肉筒を抉る度、隼の身体は快感に打ち震えた。
「い、……あ"ンッ! ン"ッ、ぁは……っ、や、だ……! やだ、も、動かな、で……!」
チリチリとした痛みと、腸を引きずり出されるような感覚に怯え、隼は背中に回された拳をぎゅっと握りながら鳴く。
「はっ……! あ、あン"ッ……、ぁア"ッ!」
嫌なのに――男としての性衝動に、隼の性器も自然と反応してしまう。男の欲望を受け入れたまま、下半身に血が集まっていくのを感じた。腰を打ちつけられる度、肉と肉がぶつかる間抜けた音が響く。
隼は自分自身の甘ったるい喘ぎ声を聞きながら、まるでAVみたいだ、と他人事のように感じていた。
「……マルデ、AVミタイダナ」
不意に、またあの機械音声が聞こえる。自分の思考を読まれると同時に侮辱され、もう恥ずかしさなど麻痺していたはずなのにカッと頬が熱くなった。自分には相手の姿が見えなくとも、相手は隼の痴態を、はしたない声を余すことなく愉しんでいるのだ。
「あっ、あ、あぁン! はぁ、あっ! ン、くぅッ!」
男の手の刺激に、内壁も反応して締まる。耳元に吹き込まれる吐息からも、男の興奮が高まっていくのがわかった。
「いや、あ、あン! は、あぁッ、だめ、だめ、ぁは、あ、あッ!」
男は隼のペニスと乳首を弄りながら、ガンガンと奥を突き上げる。男の亀頭が好いところを擦る度に、吐息混じりの喘ぎが隼の赤い唇から溢れた。その口端からはだらしなく唾液が零れる。男が感じているのと同様に、隼も快感の沼に引きずり込まれていく。
「あ、あはァッ! は、イッ……く……! いや、いや、いやだ、や"あァッ!!」
やがて馬の嘶きのような呻きを耳に注がれながら、同時に、隼の腹の奥に男の精液が大量に吐き出された。ドクッ、ドクッという激しい脈が自分の心音より大きく感じられる。隼の腸壁は女の膣のように男の性器を締めつけた。
「ひっ……!? う、そ……うそ、やだ、中、に……出て、ぇ、……ぁ、あッ……、」
隼は男の手によって、自身も射精を果たしていた。震えるほどの快感に、いつの間にか死への恐怖は薄らいでいた。むしろ、恥辱を受け汚されたこの身体が、消えてなくなってしまうことすら望んでいた。
気怠い快楽の波に揉まれながら、隼は頭を強く殴られたような眠気を感じた。男の胸に倒れ込む。ぐったりと身体の力が抜けていく。唐突に深い海の底に身を沈めるかのように、目を閉じるとそのまま意識を手放した。
「毎度あり」
学生服を着た少年が、一万円札の枚数を数え、ぺろりと舌を見せる。ピラピラと札を振って、衣服を整える中年の男にウィンクした。
「どう? 好かった?」
「……本当に悪い子だね、君は」
「センセには負けるよ。またいつでも言ってね。それに、お仲間もいたら連れて来てもらっていいから。そうだな、その時は……センセにも紹介料1万でどうだろう?」
「まったく、商売上手というか何というか」
男は呆れて溜め息をつきながらも、悪い顔で笑う。その意味は諾、だ。
細い鼻梁に赤く薄い唇をした少年は、幼い子供のような上目遣いで品を作り、微笑む。男はじっと少年に見惚れた。
「わたしは君のその表情にこそ、興をそそられるが……」
「おっと、」
男の手が少年の頬に伸びるのを、少年は首を傾いで躱した。ゆっくりと瞬きし、長い睫毛を上げる。先とは打って変わったぞっとするような冷たい目で、口元だけで笑んだ。
「それは契約外だぜ、センセ?」
「おお、怖い怖い」
男は降参というように両手を上げると、その場から足早に去っていった。
少年は金をもう1度数えると、フン、と鼻を鳴らす。満足と嫌悪の入り混じったような吐息。尻ポケットに札をしまいながら、口元を歪めて笑った。
「変態エロオヤジが」
冷淡に言い放つと、先まで行為の行われていたマットの端に腰かけた。視線を横に投げる。
そこには、学生服の少年が力なく横たわっていた。学ランの中のシャツは開かれ、下半身は片足に靴下が引っかかっているだけだ。剥き出しの白い尻は男の精液でドロドロに汚れている。
「お勤めご苦労さん」
マットに掛けた少年はそう呟くと、意識のない少年の目隠しを解いた。長い睫毛は涙に濡れ、その眉は苦しそうに歪んでいる。整った細い鼻梁と、赤く薄い唇――2人の少年は、同じ顔をしていた。
隼の意識はすっかり深い眠りの底に落ちている。さっき飲ませた薬が再び効き出したようだ。
不眠症に悩む母親に、いつもより即効性のある強い薬を出してもらうようアドバイスをした。かかりつけの医師が出したのはハルシオンという薬だった。
向精神薬のハルシオンはリアゾラムを使用した睡眠導入剤で、レイプ・ドラッグとしてもよく知られているが、その効果と副作用の危険性から病院でしか入手することができない。担当医がいい加減だったのか、思ったよりあっさり入手できたのは幸運だった。
買ってやった林檎ジュースに粉末化したハルシオンが投入されたことなど知らず、隼はそれをすべて美味そうに飲み干した。
隼の言動が怪しくなるまで4、50分、街を適当に連れ回して時間を潰し、しまいには足取りも危うくなった弟を、指定の廃ビルまで引きずるようにして連れて来た。
そして、買春の取引相手となる自分の学校の教師に、弟を売った。
「さっきは名前を呼んでくれてありがとう。もしかして俺の心配でもしてたのか? ……でも悪いな。俺と一緒に生まれてきたのがすべての運の尽きだ、隼」
言って、将は弟の汗で湿った前髪を優しく梳いてやると、その隣に鏡のように横になり、寄り添う。
薬の効果で、服用前後の記憶は途切れがちになる。明日の日中は副作用で不安感に苛まれるだろうが、自分の身に起きたことははっきりと認識できないだろう。
誤った服用を続けていけば、隼はどんどん不眠症に追い込まれていくはずだ。そうなればしめたもの、母親と同じ病院に隼自身が通うことになる。自らを陥れる、毒林檎を求めて。
「鏡ヨ、鏡……」
将が口元にあてたスマートフォンから、機械音声が流れる。悪ふざけをする子供のような高い声が、悪戯っぽく呪文を唱えた。
「――コノ世デ1番残酷ナノハ、ダーレダ?」
2016/09/22
● Main ●
─ Advertisement ─
ALICE+