Long Story|Short Story|Anecdote炎書
うつらうつらと浅い眠りに落ちかけていた北川(きたがわ)は、突然布団を剥がされると乱暴に肩を揺すられ飛び起きた。
「ストームだ、ストームだ! みんな起きろ!」
4、5人の生徒が鍋や太鼓をガンガンと打ち鳴らして怒鳴る。学生寮の窮屈な部屋に押し込まれ眠っていた青年達は、薄汚れた煎餅布団から這い出ると、眼鏡をかけ下駄を履き、ヨロヨロと室外に飛び出した。
「……くそ、またか。勝手にやっててくれよ」
「そう言うな。これも学生の仕事のうちってもんさ」
隣に並んだ生徒に言われ、北川は乱れたままの髪を掻き毟る。
「今晩は何だって言うんだ」
「歓迎ストームだとよ。いつも通り、鹿嶋(かしま)さんが扇動してるらしい」
恵まれた体躯を擦り切れた学生服に包み、腰には手拭いを提げて仁王立ち。破れた帽子に高下駄を履いてにやり笑う男の顔を思い浮かべて、北川は溜め息をついた。
「鹿嶋か……何が蛮カラだ、くだらない」
北川が進学した高等学校では、「蛮カラ」と呼ばれる生徒達が、学生寮の窓ガラスを割ったり庭で巨大な火を焚くなど、蛮行の限りを尽くしていた。この破壊行為は高等学校の生徒達の間で全国的な流行となり、「ストーム(嵐)」と称された。
本人達は、ストームは質実剛健や男らしさの証と豪語していたが、北川にしてみればただの馬鹿騒ぎだった。与しない者は軟弱とみなされ叩かれるため、仕方なくつき合っている。
人の流れに身を任せて廊下を出ると、黒い群衆は道場の中へと流れて行った。中に入ると、異様な興奮に顔をてらてらと脂ぎらせた蛮カラ達が、竹刀を手に素足で練り歩いている。
この道場で日々剣道に励んでいる北川は、連中の我が物然とした態度が癪に障った。竹刀を双肩に担ぎ持った生徒を捕まえると、北川は不愉快を隠そうともせずに尋ねる。
「神聖な道場で一体何をする気だ」
「青少年のお愉しみですよ」
くく、と笑うと隙っ歯がいやらしく覗いた。
顔を顰めた北川だったが、ふと場内に獣のような唸りと高い鳴き声が重なって、人の集った黒山の群れを振り向いた。歩み寄り、人の囲いに首を突っ込む。そこで北川は息を飲んだ。
少年達の輪に取り囲まれるようにして縺れ合う2つの身体。破帽を打ちやり髪を逆立てて、獣の形相で腰を揺らしているのは鹿嶋だ。その脇から2本の白い足がにゅっと飛び出し、風に揺られる芒のように無力に揺さぶられている。
貪るように覆い被さる鹿嶋は獲物の細い手首をしっかと握り締め、ぐんぐんと腰を振りたくった。突き上げに呼応して、鳴き声は高く、短く、速くなる。苦し気な呻きは、よく聞けば掠れた少年の声だった。
鹿嶋がぐっと腰を突き込んで動きを止めると、犯されていた少年の胸が仰け反る。ひときわ高い嬌声で鳴くと、爪先をぴんと伸ばし脱力した。
ぐったりとした獲物の半身が抱きかかえられると、剥き出しの薄い肩が北川の視界に入った。北川は目を見開く。
「あ、──芦屋(あしや)……、」
北川の呟きを聞いてか、鹿嶋がゆらりと顔を上げた。欲望に染まった赤い顔で、北川を睨みつける。
「おお、やっと来たか、北川」
「お、お前達、一体何をして……、」
「何って、歓迎会さ。愛しの北川の元にやって来た芦屋君を、みんなで祝ってやろうと思ってな」
鹿嶋の取り巻き達がにやにやと笑う。
北川はさっと血の気が引くのを感じた。部屋に置いてきた教科書、あの中には一葉の艶書が挟んであった。北川に宛てた、芦屋からの文だ。
芦屋は尋常小学校の頃に北川の剣道に励む姿を見て、男ながらに男に惚れてしまった。秀才だった彼は11歳で中学校、15歳で高等学校に飛び級するや、1年先輩になる北川に艶書をつけたのだ。
便箋に綴られた言葉に北川は戸惑い、きまりの悪い思いをした。考えあぐねて、教科書に挟んで自室に置いておいたのだが……いつの間にやら、目敏い鹿嶋かその取り巻きに見つけられてしまったのだろう。北川は己の迂闊さを呪った。
「お前と偽って返信を書き、芦屋を呼び出した。僕も君が恋しひ、願わくば道場にて会いませふ……とな、」
鹿嶋に組み敷かれたままの芦屋は顔を背けると、薄い肩をひくひくと震わせる。鹿嶋は芦屋の手首を掴んだまま、再び腰を揺すった。鼻から甘い吐息が抜けて、芦屋が唇を噛む。
鹿嶋はひとしきり少年の身体を弄ぶと、太い陰茎を引き抜いた。繋がっていた秘部から、どろりと濃い精液が溢れる。
「さぁ、次は誰だ」
鹿嶋が芦屋の白い尻をパシンと打つと、取り囲んでいた少年達がたたらを踏んで前に躍り出た。
「お、俺が、」
「俺が先だ!」
「猿じゃあるまいし、争うな。芦屋も先輩諸君に可愛がられて嬉しいだろう? お前は新入生の中でも飛び切り優秀だから、特別だ」
ぐったりした芦屋の頬を掴むと左右に揺する。少年は無抵抗にされるがまま、閉じられた目から涙を流した。
硬直したままの北川の目の前で、青年が1人躍り出るや、芦屋の膝に縋りつく。芦屋ははっと目を開くや床を這って逃れようとしたが、帯紐を捕らわれた。青年が着物の前を緩め、すでに猛っている自身の陰茎を取り出すと、鹿嶋によって辱められた穴にその先端を押しつけた。
「いや、いやぁ……!」
「暴れるな! おい、誰かこいつの腕を押さえてくれ」
先輩後輩の隔てもなく、いくつもの手が伸びる。多勢がその身体を押さえつけると、青年は腰を進めた。
「あぐぅっ……! ひ、は、あひっ……!」
「うおっ、すごい……入って、くっ、」
芦屋の赤い唇から切なげな声が迸る。人の群れは妙な熱を持ってそれを見守り、中には興奮の雄叫びをあげる者や、淫行を眺めながら自慰に耽る者もいた。
「やぁっ……いや、だ……っ!」
「北川に抱かれていると思え」
腕組みに仁王立ちの鹿嶋が、揺すぶられる芦屋の頭上で言う。芦屋が北川から顔を背けようとしていることに気づくと、鹿嶋はしゃがんでその小さな頭を押さえつけた。
「おい、北川の顔を見ろ。そこも道をあけろ。北川に芦屋の顔が見えんだろう」
「くっ……! すご、締まって……う、うっ!」
「ひ、ひぃッ……!」
芦屋の身体を貪っていた青年は呻くと、腰をぶるりと震わせた。芦屋の大きく見開いた目から涙が零れる。腹の中に、精液が注がれているのだ。青年が陰茎を引き抜くと、まだ勢いのあった射精が弾けて芦屋の下半身を汚した。観衆は手を叩いてそれを悦んでいる。
「北川に見られながら犯されるのはどんな気分だ?」
鹿嶋がわざとねっとりとした声色で言う。芦屋はただ泣きじゃくるばかりだ。広げられた足を閉じる力もない。白い身体にかけられた情欲の証……その煽情的な肢体に、北川は思わず滑る唾液を嚥下する。
「さて、お次は?」
「っ、助け……、きた、がわさ……っ」
芦屋の口から名前を呼ばれ、ずくんと下腹に重い熱が集まる。同時に、胸には苦いような痛みも走った。艶書の内容を思い出して、芦屋が寄せる自分への気持ちを思い出す。
鹿嶋はにやりと笑い、
「なんだ、やはり北川が欲しいか。ご指名だぞ。抱いてやれよ、北川」
北川に水を向ける。北川は苦々しい表情で俯くと、硬く拳を握った。
「俺は男色はしない」
「何だ、軟派者か、お前は」
鹿嶋は鼻で笑い、芦屋の方に向き直ると少年の逆上せた頬をぺちぺちと叩いた。
「可哀想に、芦屋は掘られ損だな」
「北川、芦屋を抱けよ」
「犯せ! 犯せ!」
観客となった青年達から怒号とも言えるような声が飛び交う。
芦屋はやや額が秀でてはいたが、黒目がちな瞳とふっくらとした赤い唇が美しく、入学したその日から上級生達の注目を受けていた。揃っていつかあの少年を自分の稚児にしたいと狙っていたのだ。
すると辛抱耐えかねた数人の生徒が踊り出し、芦屋の身体に虫のように群がった。
「ひっ――! ぁ、やぁあ……ッ!」
「ずっと前からお前を可愛がってやろうと思っていたんだ!」
「あ、いや、厭だ、あっ……ぁ!」
床に縫い止められた少年の全身を男達の手が、舌が這い回る。自身の陰茎を握らせ扱く者、胸に咲く桃色の果実にむしゃぶりつく者、少年の耳の中に、臍に舌を差し入れ、内股をきつく吸い、白い肌には次々と凌辱の痕がつけられていく。
「おい、お前ら退け、退くんだ!」
大柄な年長の生徒が声を張ると、芦屋の細腰を掴みその身体を抱き起こした。自身の胡座の上に背中向きで座らせ、傍にいた青年達が暴れる芦屋の腕や膝を掴む。青年は芦屋の腰を持ち上げると、ずんぐりと猛った己の一物を少年の後孔に突き立てた。
「ひぃンッ――!」
自重で男根を飲み込んでいく秘部から、卑猥な音が漏れる。足を開かせた青年達が内腿を撫で、腕を拘束する青年達が乳首を捏ねると、芦屋は叫びながら白い喉を反らした。
「うぅッ、こりゃあすごいぞッ! 熱い肉が俺の魔羅に絡みついてくる、」
「い、や……あ、あっ……ン!」
「嫌がる割りに、お前のここは悦んでいるようだなぁ、え?」
「あひ、ひぅッ! 赦して、ゆぅしてぇ……ッ」
呂律も回らない芦屋を、凌辱者達が笑う。
青年は後ろから芦屋の首筋や耳朶を噛んだ。その度に少年の身体がびくびくと反応する。芦屋の陰茎に手を伸ばすと、先走りの汁が溢れた先端を引っ掻いた。
「ンはぁっ!」
「ほら、お前も感じてるんだろう? 中はうねってるし、お前のここもこんなに……」
「あ、ぁ……ッ、さわ、な、で……っ!」
言葉とは裏腹に、芦屋は自ら腰を揺らしはじめていた。自分の身体の反応を否定するように、涙で歪んだ顔をいやいやと振る。しかし男はますます動きを激しくし、中を掻き乱すように腰を擦りつけた。
「……ひぐ、ンひ、……っ、……ン、」
「う、くっ……出すぞ!」
「あっ、ぃや、はぁ、あっ……あ!」
青年の腰が抉るように芦屋を突き上げる。歪んだ芦屋の表情は、眉を寄せながらもどこか恍惚として、震える唇から一筋唾液が垂れた。芦屋の陰茎からも、同じように汁が伝う。一拍して、男の尻が小刻みに震えた。
「ふぅ……好かったぞ、芦屋。お前も達したようだな」
肉棒を引き抜いた穴からとろとろと白濁が溢れる。茫然自失になった少年を引き剥がすとそのまま前に倒して俯せにし、今度は腕を押さえていた青年が芦屋の身体を奪った。青年の尻がぴたと密着するや、腰を振り出す。
「あぅ、うっン、はぅ、……っ」
4人、5人……少年の身体は次々に青年達の性の捌け口にされていく。そのうち、芦屋の声は苦痛を訴えるものから快楽に酔うような甘い響きを醸しはじめた。
「あはぁ……ン、あ、んは、はぁあンッ、あ、あッ」
「どうだ、もっと突いて欲しいか?」
「っ、……、ぃて……」
「どうした? 声が小さいぞ」
「つ、ぃて……くださ、……っいて、……もっと突いてぇッ!」
芦屋は悲壮感を滲ませながらも訴えるように絶叫し、自ら腰を捩った。獣のように後背から繋がっていた青年は芦屋の腰を掴むと、その揺れに合わせるようにがつがつと腰を前後させた。
「あっ、あひぃッ! ひっ、ひぃンッ!」
「そんなに好いか! ええ? ここか!」
「き、ひぃッ! はぁ、はぁあン……ッ! め、だめぇ、毀れぅ、こわえぅ……っ」
北川は、艶書を受けてなお、芦屋を気には留めなかった。しかし乱れ悶える芦屋の姿を目の当たりにすると、不思議なことに腹の底に言いようのない怒りのような燻りが湧いてきた。芦屋が上級生に敵わないのを承知で、よってたかって慰み者にする鹿嶋らの卑劣さにはもちろんのことだが、自分に想いを寄せながら他の男の欲望を受け入れ、快楽に溺れていく芦屋の姿にも失望していた。
一方で、自分の下半身に溜まっていく熱も自覚している。北川の着物の前は先走りで微かに色が変わりつつあった。
そんな北川の股間に、ぬっと大きな手が伸びると、敏感になっているそこを握った。
「な、何を……!」
「お前のも立派に昂っているじゃないか。芦屋の中にくれてやれよ」
鹿嶋に耳元で囁かれ、北川は喉の奥でぐぅと唸る。
北川は15の頃、家の下女と関係したことがあった。眠っているところを襲われ、ほとんど女に強姦されたようなものだったが、最初にしてそれきりの快感はいつまでも忘れ得なかった。勉学と剣道に励んでこの方、性交どころか女と会うことすら久しい。
しかし芦屋は男じゃないか、と冷静な頭は訴える。しかし――鹿嶋に背中を押され、操られるように歩みを進める。
あいつは男だ、ここは神聖な道場だ。やめろ、やめろと頭の中には制止の声が響くのに、脈打つ血は北川の足を止めない。
「ほら、北川の番だ。そこを退け」
有無を言わさぬように鹿嶋が言うと、芦屋を犯しながらまだ果てていなかった青年は、呻きつつもそこを退いた。腰の支えを失った芦屋はがくんと頽れる。
「は、ひぃ……っあ、はぁ……っ」
「芦屋、待ちに待った念願の相手だぞ」
芦屋はとろんとした目を開くと、目の前にある大きな足を見つめた。ゆっくりと舐めるように視線を上げていくと、股間を膨らませ俯く北川と目が合った。
「ぁ……、き、た、がわさ……、」
ぽかんと口を開けて呟くと、大きな目の縁に涙が溜まっていく。瞬きするとぼろりと頬を零れ落ちた。芦屋の顔はみるみるうちに歪み、顔を伏せると乱れた着物を掻き抱いて蹲った。
「……ち、が……っ、違う……」
「何が違う、今さら純情ぶっても遅いぞ。一体何人のでかい魔羅を食ったんだ、え?」
「ちが、うんです……っ、」
「ほら、さんざん可愛がってもらったお前のいやらしい穴を見せてみろ。これから北川のも咥え込むんだからな」
言葉で詰る鹿嶋に圧倒されながらも、北川は己の身を燃やすような欲望に取り憑かれて、芦屋の身体から目を離すことができなかった。
鹿嶋が肩を押すと、芦屋は尻餅をつくように後ろにごろんと倒れる。着物が肌蹴て、大勢に嬲られた身体が衆目に晒される。
乳首はつんと硬く尖り、全体に赤く腫れ上がっていた。痩せた腹も臍も精液にまみれ、芦屋の陰茎も半分勃ち上がったまま、みっともなく汁を垂らしている。剥き出しになった尻の穴はどろどろに濡れそぼり、その縁が薄っすらと赤くなっていた。
「北川さ……ん、」
涙混じりの声で縋るように呼ばれて、もう我慢は利かなかった。北川はがばと芦屋に覆い被さると自分の着物を捲り上げ、先端の濡れた自身の陰茎を握り締めた。すでに硬くなっているのを励ますように緩く扱き、芦屋の後孔に突き立てる。
「やぁっ! あっ、あぁッ、いやぁっ……!」
「ぐ、ぅッ……!」
芦屋は北川の肩を押し返すとも縋るとも知れない形で掴むと、首をぐっと仰け反らせた。北川の肉棒は一息に奥まで飲み込まれるようにして少年を貫き、ずん、という確かな感触を得る。まだ陰毛の薄い芦屋の肌と、北川の茂みが合わさった瞬間だった。
「傑作だ! よかった、よかったなぁ芦屋ぁ」
腹を抱えて笑う鹿嶋の声に観衆もどよめくが、結合した2人には何も聞こえない。北川は芦屋の首筋に太い鼻筋を寄せると、熱い息を吐いた。
「ふ、ふぅ……っ、」
「はぁッ……、あッ……、こん、なぁ……も、だめ……ぁ、め……、」
「……芦屋、」
耳元で低く名前を呼ぶと、きゅうと中が締まる。芦屋は北川の声だけで感じていた。
北川は自分が味わっている快楽が、そのまま芦屋が抱く自分への想いのように感じ、じわり湧き上がる甘い愛おしさに震える。同時に、すでに淫猥な少年の身体は男達に屈した結果なのだと思うと、暗い嗜虐心も湧き上がり板挟みになった。
顔を上げ、芦屋の顔を覗き込む。芦屋は顔を真っ赤に染めて、唇を戦慄かせた。目尻からはぽろぽろと涙が流れ続けている。
「きた、がわさ……ん、……僕、ぼ、くは……、」
快楽に歪む少年の顔をもっと見たくて、肩を掴む芦屋の手を引き剥がすと繋ぎ、床に張りつける。鹿嶋が最初に犯した時と同じ体位だったが、芦屋の身体はたくさんの手によって開かれ、先よりも無防備に北川を受け入れた。広がった白い太腿は、北川のしっかりとした胴を挟み込んでいる。
「芦屋……ッ」
「ひぅッ……! ひ、……っ、……ぃ、──〜〜ッ!」
「さっきまでもっと好い声で悦がってたじゃないか……、」
「……ッ! ……、き、た……っ、」
「俺以外の男にでも足を開いて、悦んでいただろう。この、……ッ、淫乱」
ぐん、とひときわ強く腰を突くと、芦屋の手がぎゅっと北川を握り返した。ぶるぶると震え、反り返った陰茎からぴゅ、と薄い精液を放つ。
北川は腰を振り続ける。初めての時よりずっと好かった。少年の中は熱く潤んで、突き上げる度に北川のものをきつく締めつける。抽挿を速めると芦屋の身体はずり上がり、繋がった穴からはひっきりなしに汁が飛び散った。
激しい情交に観衆も声を上げ、揶揄する。
「芦屋のやつ、急にしおらしくなったな。北川の魔羅はそんなに好いか」
「涼しい顔をしていると思ったら、北川も獣だ」
「ずっと達してるんじゃないか。ああ、あの締めつけ……もう1度、」
芦屋は唇を噛み締めていたが、その口の端から、鼻から、甘い吐息と喘ぎが漏れる。
「くぅ、んッ、ン、ン、ふ、ンンッ!」
「声を、我慢してるのか? 淫乱、と言ったからか」
「……っ、……ぁ、……ふ……ッ」
「誰でも好かったんだろう? ここを、こう、してくれる、男ならッ、」
「あ、ひぃッ!」
ぐりゅ、と内壁を擦り上げると、芦屋の身体がきゅっと緊張した。きつい締めつけに北川も息を詰め、動きを止める。
「ひ、がぅ……っ、」
「何が違う」
「ぼ、くは……ただ、北川さん、だけを……っ」
震える小さな唇が、北川だけに聞こえる声で言う。少年のいじらしい囁きに惹かれて、北川はその唇に吸いついた。きゅっと口先を吸い、噛みつくように唇全体を覆う。芦屋は目を閉じると、それに応えるかのように唇を開いた。口内に舌を滑り込ませ、絡める。
「……っン、ふ……ぅ」
ちゅ、ちゅ、という音だけが響く。2人の熱情のこもった営みに、いつの間にか道場は静まっていた。まわりの者達は美しい春画に見惚れるようにして、固唾を飲んで見ている。2人だけは誰の目も忘れて、互いの熱だけを感じていた。
「あ、はぁ、あンッ……、は、あぁ、あっ、あっ、あっ、」
唇が離れると、芦屋の口からは甘い嬌声が迸った。北川はその声に酔いしれる。自身の肉棒が少年に声をあげさせ、少年の締めつけが北川の肉棒を戒める。罪と罰のような交わりはしかし、2人に快楽だけを与えてくれる。
「ひぁ、あ……ッ、ゃ、あっ、き、……がわさ……っあ、あン、あンッ!」
「芦屋、芦屋……ッ」
「だめ、も、だめ……っ、こわ、い……ッ、こわいぃっ……きたがゎさ……、」
ぐずぐずと泣き縋る芦屋を突き上げながら、亀頭ぎりぎりまで引き抜き、狭い肉筒を力強く突き上げると、芦屋の下腹が痙攣した。
「ひッ……! ぁひっ……、こぁれちゃ、ぁ……っ」
「ぐ、くぅ……ッ、締めつけ過ぎだ、」
「うぁ、は、こわ、ぃこわ……ア! ぬ、て……抜いてくださ……ッ!」
「なんだ……俺がもっと欲しくないのか? さっき、他の男には言っていたじゃないか、もっと、もっとって……浅ましく腰を捩りたくって、ねだったろう!」
「ひ、が……ッ、ねが、ぃしま、抜いて……っ! ぉかひくな、──ひ、ひぃ、あッ!!」
尋常でなく身悶える芦屋に、北川は一瞬戸惑って腰を引いた。芦屋の陰茎はもう精を出し切ったのか、力なく項垂れている。しかし、少年の身体は明らかに、これまでにないほどの頂点に上り詰めようとしていた。
「くっ……ふ、淫乱、淫乱めッ」
「抜ぃ……はひッ!? ン"ひぃい……ッ!! ひぁ……ッ!! ン"ッ──〜〜!!」
静かだった場内は、芦屋の激しい達し方に再びどよめいた。その表情やぴんと伸びた爪先の妖艶さは、その場にいる者全員に息を飲ませるほどだった。
「──で、出るッ……!!」
ぐぐ、と結合を深めると、北川は少年の身体の奥深くに勢いよく射精した。どくどくと脈打つものが、中で搾り取られていく。
「ひ、……ぃ、……ぁ……っ、や、ぁ……っ、」
「好かったか? 芦屋」
背後で響いた声に、北川ははっと我に返った。まだ自身を締めつけている内壁を押し退けるようにして身を引くと、ぬぽ、と秘部から肉棒を抜く。収まっていたものの抜けた穴からはどろどろと白濁が溢れ、薄紅色の内壁はひくひくと息づいていた。
「お、れは……、」
酔いが急に醒めたかのように、血の気が引いていく。北川は目の前に倒れた少年を見下ろすと、自分の着物を合わせてよたよたと後退った。
「芦屋の中の具合はどうだった? 北川、」
ねっとりと囁く鹿嶋の声に、どっと汗が噴き出す。
こんな。こんなはずでは――。
「恋しくって恋しくって、夜も眠れません……、」
言うと、鹿嶋は一葉の封書を北上の懐に滑り込ませ、とんと胸を叩いた。
欲望に飲まれた己を恥じて、北川は足早にその場を離れる。男達の狂気のような叫びを背中に聞きながら、少年の無残な姿を残して。
鹿嶋は満足そうに笑うと、濡れた腹を上下させている少年に向き直った。
「好かったなぁ、北川に抱いてもらって」
「……ぅ、ふ……っ、ちが……、」
「違う? 何が違う?」
「こんな……、僕、は……ただ……、」
芦屋は達し続けている自分の身体を抱き締め、胎児のように丸くなるとひくひくと身を震わせる。
「精神的な愛だったとでも言うか? お前にも北川にも、己の肉欲を叩き込んでやったんだ。感謝をされても恨まれる謂れはない」
鹿嶋は不遜に言い放つと、芦屋の尻の穴に指を挿れる。
「ひっ……、」
驚き竦む少年の怯えた目を見つめながら、にやりと笑った。
「まだまだ、今晩はたっぷり可愛がってやるからな」
あの夜の狂宴を、北川は時折思い出しはしたが、すべては夢の中の出来事だったのではないかと思った。翌日、恐れながらも道場に行くとそこはすっかり清められ、夜通し咽るような人の匂いと熱に揉まれていたとは思えない静謐を湛えていた。
まわりの生徒達も、涼しい顔をして日常生活を送っている。芦屋を犯したあの顔も、あの顔も……眼鏡を掛け学帽を被り、清廉潔白な高等学校生の素知らぬ顔をしてマントを翻らせていた。
1人、ひっそりとした裏庭にやって来た北川は、狐につままれたような心地で懐中に潜ませた手紙を取り出す。それは、芦屋が北川に差し出した艶書だった。あの出来事が夢でないのなら、ことの終いに鹿嶋が北川に突き返したものだ。
便箋を開くと、流麗な文字で北川への想いが綴ってあった。もう何度読んだか知れない。今では暗唱できるほどだ。
手の中で乾いた音をさせるそれを見つめていたが、やがて決意すると、持って来た缶の中にその辺りの木切れを放り込んだ。マッチを擦り、火をつける。
木切れに火が回るのをじっと見つめていると、ふと視線を感じて顔を上げた。目線の先、渡り廊下の途中に芦屋がぽつねんと立っていた。じっと北川を見つめているが、微動だにしない。切なげな、もの悲しいような顔で北川を見ていたが、がやがやと人声がするとそちらへ顔を向けた。
諦念を浮かべた芦屋の肩に、男の手が伸びる。5、6人の学生が現れ、うちの1人が芦屋の肩を抱き、半ば引きずるようにして少年を攫っていく。集団はげらげらと騒がしげに芦屋を取り囲みながら北川から離れて行ったが、見えなくなる手前で振り向き笑ったのは、鹿嶋だった。
北川は彼らを見送った後、炎をあげる缶を見下ろした。そしてもう1度手紙に目を落とす。
貴方の顔を思ひ浮かべると
恋しくつて恋しくつて
夜も眠れません
一度でいいから貴方の手に触れたひ
さふすれば僕はもつともつと
貴方に惹かれ焦がれてしまふとわかつてはゐますが
僕の愚かを笑つてくださひ
ただただ貴方を想つてゐます
北川はぎゅっと目を閉じると、開き、その艶書をびりりと破いた。そして火に焚べる。自分の恋が破られたように感じながら、炎が2人の想いを焼き切ってしまうことを祈った。
赤い火は文字を焼いて、紙は炎に巻かれながら生き物のように身を捩っていく。きっと、あの晩の自分達はこの炎のようだったのではないか。北川はゆらゆらと縺れる炎をぼんやりと眺め続けた。
2016/10/01
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