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造りものの愛


 診察台のような平坦で硬いベッドの上で、少年の身体がビクンと跳ねる。細い両足は冷ややかな金属のベルトで固定され、出産時の妊婦のように広げられていた。その爪先はピンと伸びて、時折ヒクヒクと動く。
「は、ぁ……ひっ、は、もっと……ひぃンッ!」
 ウィン、と機械音がして、少年の尻が浮いた。
 ベッドには、少年の腕が通るほどの穴が開いていた。そこから突き出ているのは、男性器を模したシリコン製の棒だ。機械的な動きで、少年のアナルを出入りしている。ウィ、ウィ、と音を立てると機械制御のペニスが下に下がっていき、少年のアナルからその長大な全容を露わにする。ねっとりと濡れたその棒は、少年の腸をずいぶん深くまで犯していたようだ。
「ひ、あぁ……、」
 舌を出しながら喘ぐ少年は、確かにその刺激に感じていた。幼いペニスは起ち上がり、自身の腹を先走りで濡らしている。
「あ、は……、も、と……、もっと……っぁ、はぁ、あッ!」
 起ち上がったペニスが丸い筒状のアームに包まれる。柔らかい襞が、ゆっくりと少年の性器を愛撫していく。
 少年は首をゆるゆると振りかぶった。艶のある黒髪の清らかさとは対照的に、泣き濡れ、涎を垂らす口元はすっかり淫蕩の虜だ。
 もの言わぬ機械によって、一体何度達したことだろう。
 すべての機械は1つのコンピュータに繋がっており、そこには最先端のAIが組み込まれている。その人工知能は少年の身体の反応をすべて精細に感知し、データ化して、彼の性感帯を的確に学習していく。
「い、ひぃぃぃッ──!」
 少年自身の体温によって暖められたシリコンの肉棒が、再び少年の体内に埋没する。その速度、角度に少年は激しく痙攣し、勃起しながらも射精せずに極めていた。
「ひっ……ひ、……は、ぁ……ッ!」
 腹の奥を犯す棒が、体内でチキチキと調整される。太さ、長さを変え、少年の前立腺を押しつぶす位置にでっぱりが形成される。
「あ、そこ、だめ……っ、あ、あ、あ、ンッ、あぁッ!」
 少年は悲鳴をあげるとカクンと頭を垂れた。機械に犯され続け、快感を搾り取られて失神してしまったのだ。
 意識のない少年の薄い胸には、長いアームが音もなく忍び寄る。小さな乳首はすでに何らかの刺激で虐められたものか、赤く腫れていた。
 その胸を覆うように、椀のような形の透明な吸盤が覆う。中にはイソギンチャクのようなピンク色の襞がうぞうぞと蠢き、透明の椀の中でいっぱいになると少年の乳首を刺激し始めた。
 少年の身体がピクリと反応する。は、は、と短い呼吸が蘇り、薄く目を開けた。
「……かせ……博士ぇ……っ」
 涙が頬を伝う。このままでは本当に死んでしまうかもしれない。身体中が性感帯となって、少年の心と身体を蝕んでいた。
「ぼ、く……は、……っ、にんげ、ん……に、」
『そうだよ。人間より人間らしくなるんだ。そして、誰からも愛される子にお前はなるんだよ』
 スピーカーを通して聞こえてきた無機質な声に、少年がはっと顔を上げる。
「博士……、」
 真っ暗だったモニターに映る映像は、静かに波が打ち寄せる青い海だ。
『君の身体をどこまでも細かに作り込むのが、僕の使命だ。外見は美しく、愛らしく。身体の中の中まで、繊細に……』
「あああッ!」
 乳首を刺激していた機械の圧力が強まる。見た目の割りに、その動きは細やかだ。男の指のように力強くありながら、5本の指では及ばない執拗な刺激が、少年の胸の果実をいたぶっている。つねられ、舌のように熱くぬめったものでなぞられる。吸盤がはずれると少年の胸は薔薇色に染まって、いやらしく光っていた。
 「あ、は……、ぁ、あッ……!」
 ゆっくりとしたペニスの抜き挿しがじょじょに激しくなっていく。
 カリの部分で中を強く擦られると、少年はその度に背中を逸らして喘いだ。何の反応も示さない機械の棒をきゅんと締めつけても切なさが募るばかりなのに、身体はただ擬似的な性器に縋る。
「はか、せ……、博士の、が……欲しい……っ」
 少年は顔を真っ赤にしながら、震える手をモニターに伸ばした。穏やかな波が、何も言わずに少年を見ている。
 博士は、少年をバイオノイドとして作り上げた天才科学者だった。ロボットであり人間、人間でありロボット。
 自身の細胞を元に作り上げた少年に、知識や感情を与え、実の息子のように育てた。やがて博士は、恋人のように彼を愛し、抱いた。
 博士の身体は勉学と研究だけに励んでいた割りには、逞しかった。少年の細い身体はその腕に抱き上げられ、何度も甘い愛撫を受けた。少年の作り物の身体は、今でも博士の精液の熱を覚えている。
 しかし、時間の制限を持たない少年と違い、博士の身体は年々衰え、老いていった。少年の中に精を放ったペニスもやがて役に立たなくなり、その慰めにとこの機械を開発した。少年が寂しくないように、自分のことを忘れないように。
 今や博士は、頭脳だけをこの機械の中に残した。肉体はとうの昔に滅び、塵となってしまったが、機械に己の思考パターンを宿すことで、今でも少年の身体を愛し続けているのだ。
 はじめの頃、感情表現もろくにできなかった少年が、今は博士の愛を求めて涙し、欲情して全身を朱に染めていた。腰を捩り、懸命に博士の求めに応えようとしている。
「あ、あ、あ、っ、深……ぃ、もっ……と、もっと、博士……っ」
 でも、足りない。機械がどんなに少年の快楽のツボを突いても、博士の本当の肉体には少しも及ばなかった。
 少年はただ、体温が欲しかった。自分以外の身体、声、熱。博士の突き入れた肉棒が少年の身体を溶かし、少年の肉襞が博士をきつく締めつけた時に吐き出される、あの幸せの吐息。
「博士、はか、せ……っ、もっと、奥……っ、熱くて硬いの、欲しい……っ」
 少年は自ら作り物のペニスに跨がり、カクカクと腰を打ち振るう。もう身体はとうに限界を迎えていたが、それでも。
「あ、あンっ、は、はぁ、……あ、あ、あ、あはっ……!」
 少年は自身の下腹をおさえた。博士の熱を、腹に感じた気がしたからだ。
 しかしそれは違った。
 ブゥン、という低い音と共に、部屋の照明がすべて落ちる。
 機械の寿命だったのか、何かの回線がショートしたのか。原因はわからない。機械は、少年の身体を犯したまま、その力を失った。
 まだ達していなかった少年は、犬のように早い呼吸だけが響く静かな部屋で1人、温度のない肉棒を身体の奥深くに納めたまま硬直していた。呼吸が収まるのを待つと、本当の暗闇と沈黙が少年を襲う。
 博士の肉体がなくなってから、ずっと1人だったはずなのに。改めて味わわされる孤独に、バイオノイドの少年は激しい嗚咽と共に泣き崩れた。
「博士ぇ……、ど、して……ぼくを、置いて……っ、」
 少年はきゅっと拳を握ると、震えながら腰を上げ、またゆっくりと腰を下ろす。
 ただの空洞の身体、ただのシリコンの棒。
 人造の肉体は空虚に、今はない愛しい人の在処を求め続ける。その悲しく健気な姿は、打ち寄せる波に軋む壊れた機械のようだった。

2016/10/13

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