明日、私とデートしてください




「お願いします。翼様。」


ここは華桜館。いつもは華桜会メンバーが勢揃いしているこの空間も、今はあたしと翼の2人きりで静まり返っている。


柊「ですから、何度言っても駄目なものは駄目です。」

「……翼のいじわる。一生のお願いって言ってるじゃん」

柊「だとしたら、君の一生はこれまでに何度ありましたか?」

「…………」


ああ、これはだめなパターンか。どうやらこの首席様は私の望みを叶えてくれる気はないらしい。

あたしがどうしたものかと俯いていると、翼の口から溜息が漏れた。


柊「一体、君の目的は何ですか?どうして恋人同士でもない私達が、デートをしなければいけないのですか?」


そう、私が翼にお願いした、


一生に一度のお願い






「明日、私とデートをしてください」






そもそも、翼とデートなんてことを思いついたのは今日のランチタイムのこと。


暁「ええっ?鳳くんに好かれてる自信がないだって?」


今日のランチは暁、楪、漣と私の4人。翼はまだ仕事中で、樹は午前の授業はサボってたから、まだ学園には来ていないはず。


そこであたしは、ある悩みをみんなに打ち明けた。


樹に想われてる自信がないと。



漣「名前、それは思い過ごしもいいところだ。」

楪「そうデスよー。鳳の名前への愛は本物デース!」

「そうかなー」

暁「ああ、そうさ。君が知らないだけで、鳳くんの君への愛情深さは、正直僕はどうかと思うけどね」

楪「おおー!暁が柊に抱いてる気持ちと一緒デース!」

暁「あんなのと一緒にするな!楪くん!」

漣「とにかくだ。間違いなく、鳳は貴方のことを心から愛しているだろう。心配など不要というものだ。」

「なんか、そんな真面目な顔して愛とか言われると照れるんだけど…///」


みんなはそう言ってくれるけど、いまいち自信がない


だって、樹は誰に対してだって優しい。もちろんあたしにも、ものすごく優しい。でも。それが逆に不安にもなったりするのだ。女心とはそういうもの。



楪「おおー!いいこと思いつきマーシタ!」


そこで楪が提案してくれたのが、あたしが他の華桜会メンバーとデートすること。


それなら樹のやきもち妬くところが見られるからって。


暁「いや、それはやめた方が…」

「いいね!やる!それ!」


こうして、あたしは翼をデートに誘うことにしたのだ。







「……てことなの!」

翼「聞いた僕が間違いでした。そんなくだらない理由でしたか。」

「くだらないって…。じゃあ、翼はどういう理由だと思ってたわけ?」

翼「………」


……………ん?



翼「……わかりました。今回だけ、ですよ?」

「…えっ……いいの?!」


半分諦めかけていたところに、思わぬ翼からの返事にあたしは驚いた


翼「なぜ驚くのです、頼んできたの君でしょう」


「え、うん。そうなんだけど」


翼「でも、やるからには徹底的にやりますよ」


え?徹底的って……



翼「ここは名門綾薙学園、私はここの華桜会首席ですよ。君の目的をきちんと果たすためにも、今日は残り一日君の彼氏役を演じなければ」


「ちょっ…彼氏って!」


翼「相手はあの鳳ですよ。生半可な演技じゃ、君のいうやきもちを妬いた鳳≠見ることは出来ないのではないですか?」


……うーん、確かに。


翼「やるのですか?やらないのですか?」

「やります!!」


こうして、あたしは放課後に翼とデートをすることになった







そして、放課後。


翼「で?鳳にはちゃんと伝えてきたのですか?」

「うん。翼の言う通り、ちょっと放課後翼と2人で街で買い物してくるからって伝えたよ」

翼「そうですか、なら、大丈夫でしょう」


…大丈夫って、なにが?


とは思ったけど、そこはなんとなく聞かないでおいた。


翼「さて、これからどうしましょう。ノープランで街まで出てきてしまいましたが…」

「あ!アイスだ!ねえ翼、アイスたべよ!」

翼「……しょうがありませんね。今日は貴方に付き合いましょう」


こうしてあたし達は、平日の放課後偽デートを楽しんだ。






一通り遊んで、辺りも暗くなってきた


柊「さて、ここからは僕に任せてもらいましょうか」

「…え?」

柊「名前、やきもちを妬いた鳳が見たいのなら、僕についてきてください」


見たい!すっごく見たい!

あたしは翼についていった。






着いたところは幼い頃に三人でよく遊んだ公園だった


「ここって……」

柊「懐かしいですね。よくここで遊びました」


二人で懐かしみながら、ベンチに座る


もう辺りはすっかり暗くなり、人気はなく、月明かりと小さな街灯がかすかに辺りを照らしていた


柊「…今日は、なんだかんだ貴方に振り回された一日でした」

「すみません(笑)」

柊「でも不思議と、嫌ではありませんでしたよ」

「え……?」


すると、隣で今まで真っ直ぐ前を向いて話していた翼があたしの方へ視線をうつす


「翼…?」

柊「ずっと…貴方が好きだった。幼い頃から、ここで三人で遊んでいた頃から、ずっと。」


そして、そっと翼が手をあたしの手の上に重ねた


「…え、…つば…さ?」


これは、演技なの?


「うそ…だよね?演技でしょ?樹にヤキモチ妬かせるための」


あたしは、少し小声気味にいう


「あ、もしかして樹が近くまで来てるとか?」

柊「まさか、特に人の気配は感じません。僕ら2人きりですよ。それに、これは演技なんかじゃ…ない」


まだ、信じられませんか?


そう言って、翼のもう片方の手はあたしの頬に添えられる


「翼……」

柊「まだ信じられないというならば、ここで証明してみせますか?」



そう言って翼の顔が近づいてくる



もうすぐ唇が触れる…

翼の吐息とあたしの吐息が触れそうになる寸前



突然、後ろから強く肩を引っ張られた



鳳「翼、お前、やりすぎ」


そこに現れたのは表情を曇らせた樹の姿だった


「樹…?!」


え…ちょっと、いつからいたの?だって翼、人の気配なんてしないって。


すると、翼は溜息をつく



柊「やっと出てきましたか。少し遅くはありませんか?」


鳳「役者はラストで登場するものだろう。でも、俺も我慢の限界…かな?」


「…あっ…ちょっ…樹!」


そう言って樹は笑いながら急にあたしを引っ張り、ベンチから立たせて、抱き寄せた


鳳「名前、こんなところで俺以外の男と何をしているんだ?」


「…えっと…その」


鳳「まあ、大体の見当はつくよ。でも意外だな、まさか柊がこんな話に乗るなんて」

柊「だったら、君も彼女を不安にさせないことです。いつも君が言ってるでしょう…大事な彼女だと」

鳳「ああ、そうさ。名前は俺がこの世で唯一愛する女性さ」


あ…愛する…唯一/////


柊「…だ、そうですよ。名前、これで満足ですか?」


やれやれと柊は溜息をつく




「い、樹…?」


鳳「ん?なんだい?俺の可愛くて悪い子なお姫様?」

「樹は…あたしのこと…すき?」


…あたしはぎゅっと樹のシャツの裾を握りしめる


樹「………」

そんなあたしを樹は再び優しく抱きしめた



鳳「愛しているよ、名前」



ちゅっ……///




end




* おまけ1 *

鳳(どんな理由があろうとも、柊とデートなんて許せないな)

(…え、じゃあどうしたら許してくれるの?)

鳳(名前からデートに誘ってくれたら、俺は嬉しいな)

(…////今日、私とデートしてくださいっ!!)

鳳(よく言えました☆)




* おまけ2 *

鳳(柊、随分名前と楽しそうだったね)

柊(おや、君にそう言って言ってもらえるとは。僕の演技力も中々ではありませんか?名前もすっかり騙されてくれたようですし)

鳳(演技じゃないだろう?俺にはわかる。お前は昔から…だろ?)

柊(……)

鳳(悪いね。いくら翼でも、彼女だけは渡せないさ)

柊(…君こそ、本音のときに僕のことを名前で呼ぶその癖、直した方がいいですよ)