初恋はアイスレモンティー







虎石「よっ!愁!来てやったぜ!」

空閑「…おまえ、また来たのか。今日でもう3日連続だぞ」



最近、虎石がよくバイト先へやってくる。


虎石「いーじゃん、愁!俺のおかげでお前の業績上がってんじゃねーの?」


長居してコーヒー1杯しか頼まないやつが、なに言ってやがる


虎石「んで、俺の彼女は?」

空閑「今日はまだ来てねーけど。てか、いつお前の女になったんだ?あいつは」



虎石がここ最近俺のバイト先へ来る理由

それは、虎石と同じく、最近よくこのカフェに来る女だ。

どうやら、また女好きという名の病気を発症しているらしい



虎石「なーんだ、ちょっと早く来すぎちまった?」

空閑「もうすぐ来るんじゃねーか?ほら、水でも飲んで待ってろ」


俺は、店員として虎石の前に水を置いた。




その時


カランカラン……




「こんにちは!」


虎石「おっ!来た!名前ちゃん!こっちこっち!」


最近よくこのカフェに来てて、虎石が可愛いと騒いでる女、名前がやってきた








虎石「いらっしゃーい!名前ちゃん、ここに座って座って!」

「虎石くん、もう来てたんだ」



…虎石、お前は店員かよ。


心の中でツッコミを入れながら、もう一つ水を用意して、名前の前に置いた



空閑「よお。水、置いておくぞ」

「あ、空閑くん。ありがとう!」


そう言って、名前は水を一口飲んだ



空閑「注文、いつものか?」

「うん、お願いします」



こいつは決まってアイスレモンティー。



虎石「名前ちゃんて、まじアイスレモンティー好きだよな!そんなうめーの?」

「うん!すっごくおいしいよ!ここのアイスレモンティーは、レモンの香りがとっても良くて、あとほんのり甘いのが好きなの!」


そう言って、名前はふんわりと笑顔を見せる


ここのアイスレモンティーは、甘さ控えめのハチミツにレモンを丸一日漬け込んで、少し工夫を凝らしているアイスティーだ。



空閑「ほら、アイスレモンティー」

「おいしそう!ありがとう!」


そう言って、名前は嬉しそうに受け取った


虎石「えー、そんなにうめーならさ、俺にも少し飲ましてよ」

「えー?虎石くん、コーヒー飲んでるのに?笑」

空閑「虎石、他の客に迷惑かけんな」

虎石「こっわ!なんだよ愁、せっかくストローで名前ちゃんとの間接キ…」


どうせ、そんなことだろーと思った


空閑「虎石、それ以上言ったらしめるぞ」

虎石「あー、わーったよ!ハイハイ、もう言いませんよ。」

「虎石くん?何か言った?」

空閑「気にするな。こいつはこーいう病気なんなんだ」

虎石「おいコラ。勝手に人を病人扱いするな!」



最近は、こんなふうに名前と虎石が楽しそうにカウンターで話しているのを横目で見ながらバイトをすることが多くなった



「やっぱり、ここのアイスレモンティーが一番おいしい!」


そう言っておいしそうに飲む名前を見るのも、また一つ最近多くなった出来事の一つだった


その笑顔を見ていると、何故だかすごく心地よかった









虎石「うっわ…もうこんな時間かよ。俺、そろそろ行かねーとだわ」

「虎石くん、帰るの?」

虎石「わりー、名前ちゃん。俺この後用事あってさー」

空閑「また女か?」

虎石「おいコラ愁!またってなんだ、またってなんだよ!名前ちゃんが誤解すんだろ!」


空閑「冗談だ。team柊、今日ミーティングなんだろ。」

虎石「お前の冗談は冗談に聞こえねーんだよ。冗談なら冗談っぽい顔して言えっての!」


…冗談っぽい顔ってなんだ。



「team柊?」


虎石「ごめん、名前ちゃん!そのことは愁に聞いてくれ!あと愁、コーヒー代、つけとけ!」


じゃあな!と言って虎石は慌てて店を出ていった



「…行っちゃったね」


空閑「昔から、落ち着きのねーヤツなんだ」


やれやれと、俺は虎石が飲み干したコーヒーのカップを片付けた









「ねえ、空閑くん。team柊って?」


虎石が帰ったあと、名前が、さっきの話を聞いてきた


空閑「俺達の高校でやってるミュージカル学科の中にあるチームだ。あいつは、スターオブスター、team柊。」


名前に簡単に説明しながらに俺はグラスを磨く


「空閑くんは?同じチームじゃないの?確か幼なじみで高校も同じなんだよね?」


空閑「俺は、team鳳だ。スターオブスターって柄でもねーし」


そう答えて、俺は最後のグラスをか拭きにかかる



「空閑くんは、team鳳かー」


空閑「でも、いつかアイツを超えてみせる。負ける気もしねー」


「そっか、二人はいいライバルなんだね!」



名前はそう言って笑った



いいライバル。



空閑「…そうだな」


名前がそう言うなら、そうなんだろうなって思った









そこからは、仕事の合間に名前と他愛もない話をした


そうして、時間は過ぎていった





「あ、雨…」


そろそろ帰るねと、ふと名前が窓の外を見ると、いつの間にか外は雨が降っていた



空閑「あんた、傘…持ってるのか?」

「天気予報じゃ、雨なんて言ってなかったから、今日は持ってなくて…」


どうしようと言って困った顔をする名前



空閑「もうバイト終わるから、ここの置き傘使うか。送っていく」

「え、でも空閑くん。バイクで来てるんじゃないの?前にそう言ってたような」


空閑「…ああ。でも、この雨だ。今日はバイクは置いていく」


こいつ、よく覚えてるな
俺は少し驚いた。











雨の中、名前と一つの傘に入って歩く


雨はどんどん強くなっている気がした



「雨、強くなってきたね」

空閑「そうだな。バイク置いてきて正解だった」


少し話して、また沈黙が訪れ、また少し話す。その繰り返し。

でも、だからと言って気まづいとかはなかった


むしろ、ずっと話しているより、その沈黙の時間も、俺にとっては心地のいいものだった







「あたしの家。この突き当たりの道を、右に曲がったところ」

空閑「そうか」

「空閑くん、もうここでいいよ。お家、すぐそこだし」


そう言って名前はゆっくりと立ち止まる



空閑「でも、濡れるだろ。家の前まで送る」

「え…でも」

空閑「迷惑…か?」


名前が少し困っている様子だったことから、俺はそう聞いた



「…う、ううん!全然、そんなことない!あ、ありがとう////」


どことなく、名前の顔が赤い気がした。







名前の態度が少し気にはなったが、俺達はまた歩き出す



突き当たりの道を右に曲がって少し歩くと、名前が一軒の家の前でゆっくり足を止めた



「ここ、なの。」


そこは、住宅街の中の一つの一軒家だった



空閑「へー、いい家に住んでんな」


「空閑くん?」


空閑「俺の家は、団地のマンションだからな。」



じゃあな、俺はそう言って名前が屋根のある場所に入ったことを確認してから、帰ろうと後ろを振り返った



「待って!空閑くん!!」


すると、雨の中、傘もささずに名前が屋根の下を飛び出して走ってきた



空閑「おい、何してんだ!濡れるだろ!」


その姿を見た俺は慌てて引き返して、俺のもとへ走ってきた名前を、急いで自分の傘の中に入れた



空閑「おい、どうしたんだ。風邪ひくぞ」


すると、名前は先程と同じく顔を赤らめて俯いている

そして、話し始めた


「…あのね、最近ずっと、空閑くんのバイト先のカフェに通ってた理由、話してもいい?」


空閑「は?」


「もちろんね、アイスレモンティー、すっごくおいしい。でもね、それだけじゃないの!」


「あたしね、空閑くんのこと…




すき…です///」



そう言って、名前はもう絶対顔をあげられないといった様子で、なお俯く




思いもしない、名前からの告白


素直に俺は嬉しかった。

でもら同時に浮かんできたのは虎石のこと




空閑「…虎石」

「…え?」

空閑「虎石は、アンタのこと、好きみたいだけど。わかってんだろ?」


「え、ええ!虎石くん、あたしのこと、好きだったの!?」


名前は本気で驚いたといった顔をしている



…虎石、あんなあからさまなアピールして気づかれねーとは。

ちょっと虎石が可哀想だと思った



「で、でもね!あたしは、空閑くんが好きなの!空閑くんが、あたしのこと何とも思ってなくても!あたし…っ!」

空閑「何言ってんだ」

「…え??」

空閑「何とも思ってねーやつ、家まで送ってやるほど、俺は優しくねー」


「きゃあっ…///」


俺は遠慮がちに傘に入っていた#nameを、抱き寄せた



空閑「虎石にはわりぃーが、アンタはもう俺のもんだ」


「く、空閑くん/////」


空閑「…愁、だ。」


「え??」


空閑「いつまで、空閑くんなんて呼ぶつもりだ」


「…空閑だって、アンタなのに?(笑)」


それもそうだったな。



空閑「…好きだ、名前」


「あ、あたしも!しゅ、愁…くん///」



顔を赤く染めて、恥ずかしそうに言う名前を可愛いと思った俺は、



空閑「ま、今日は勘弁してやるか」


ちゅ…っ!///


「っ!!!///////」


名前の頬にキスをすると、また一段と頬を赤く染めた。


「…愁、くんの、いじわる」


空閑「悪いな、俺はこーいうヤツだ。こんな俺は、嫌か?」


「嫌いなわけ、ない、です/////」


空閑「じゃあ、こんな俺は、どうだ?」


ちゅっ…!!



「っ!!しゅ、愁くん!////」


空閑「お前、甘いな。うちのアイスレモンティー、だな」



名前に口づけをした。


それは、アイスレモンティーの味。



end*




*−おまけ−*



虎石「えええっ!!なんでだよ!なんでいつのまにか、そんなことになってんだよ!!!」




後日、

俺のバイト先のカフェには虎石の悲痛な叫び声が広がった



空閑「おい、虎石、静かにしろ」


虎石「静かにしろだ?どうやったって、そんなの無理だろ!」


どうやら、やっと俺と名前が付き合ってることを知ったらしい


「と、虎石くん!落ち着いて!」


虎石「おい、愁!俺、なーんも聞いてねーんだけど!」

空閑「ああ、言ってねーからな」


虎石「それはねーだろ!幼馴染みに、恋人出来た報告とかすんだろ、普通!俺だってお前には報告してんだろ、毎回!」

空閑「お前の彼女、サイクルはやすぎんだよ。覚えらんねーから、もう報告してこなくてもいいぞ」

虎石「冷た!」



やれやれと、騒ぐ虎石を前で俺はグラスを拭く


虎石「てか、ちゃっかり名前ちゃんゲットしてるし!」


「あのね、虎石くん!あたしが愁くんを勝手に好きだったの!だから…」


どうやら名前は、幼馴染みである俺と虎石にもめてほしくないようだった



虎石「名前ちゃんからかよ!愁っ…てめー!」

空閑「違うぞ、虎石。俺も名前が好きだった。ただ、それだけだ」


「……しゅ、愁くん!/////」



俺の初恋、それは。

アイスレモンティーの味。