月が見ていても




樹「ごめん、俺もうわかるようになっちゃった」
『え?』

戸惑うなまえの腕を引き寄せて、俺から逃げられないように、なまえの後頭部に手を添えて額を俺の肩に当て、反対の手で腰を引き寄せる。こんなの、束縛するためだけの抱擁だと思われるだろうか。

樹「知らないふりしてやろうかと思ったけどやめた。俺が後悔したくないから」

なまえからの反応はない。

樹「なまえ無理してるでしょ」
『⋯⋯ううん』
樹「最近忙しかったもんね」
『別に大丈夫』
樹「ごめん」
『なんで、あやまるの』
樹「なまえに大丈夫って言わせて、ごめん」

時折鼻を啜る小さな音が聞こえてるから、やっぱり我慢していたんだとわかる。いい加減、俺の前でくらい肩の力抜いてくれていいのに。頭をぽんぽんと優しく叩く。

『ちがうの』
樹「ん?」
『樹が頼りないから言わなかったとかじゃなくて⋯⋯』
樹「うん」

なまえからの次の言葉をゆっくりと待つ。

『言葉にしちゃうと、頑張ってきたものが崩れちゃう気がして怖いの』
樹「そっか。無理矢理言わせてごめんな」

俺の腕の中でなまえはふるふると小さく首をふる。



prev next