「オー!ガイ、柚琉というものがありながら浮き輪なんて!」
「浮気、とみた。
確かにガイさんも隅に置けないな」
「監督、すまない。今どこう」
「いえ、むしろ頭を守ってくれてありがとうございます」
全く気にした様子のないガイさんと監督は面白味にかけるが、これから始まるであろう修羅場を思い笑いは止めない。
ガチャリと談話室に"誰か"が入ってくる。
「こんにちはー、次の公演曲でき…」
ガイさんの恋人の柚琉だった。
「あーっと…お邪魔しました?」
「ちょっと待ってくれ、柚琉」
ガイさんが監督を助け起こした後に柚琉に詰め寄る。
「オー、ジャパニーズシュラフネ!」
「難問キタコレ」
「修羅場、な」
「皆さん面白がってません?」
「ふむ、ガイさんがあんなに焦ってるのは初めて見るね」
「元凶はお前だからな」
「むっ…」
傍観者よろしくニヤニヤしながら状況を見守る俺らを他所に、二人のやりとりは続く。
一歩一歩ガイさんが近づくたびに柚琉も一歩一歩下がるが、歩幅の関係ですぐにガイさんが柚琉の肩を掴んだ。
「いやいやいや、何も見てませんよ。
ガイさんがいづみちゃんを明らかに押し倒してるのとか全く見てません。
多分、誉さんと丞のゴタゴタに巻き込まれたんだろうことはコーヒーまみれのバーソロミューからわかるんですけどちょっと気持ちが追いつかないのでとりあえずお邪魔しました」
「柚琉、誤解だ。
いや、その考察は合っているんだがとにかく待ってくれ」
「す、少し頭を冷やす時間をください!」
そう言って柚琉がシトロン直伝の電源ボタンを押すとガイさんの動きが止まった。
「え?あっこれまだ効くんだ!?と、とりあえず失礼します!!」
「…」
「やっぱりガイはポンコツネ」
「…!しまった!待て!柚琉!」
柚琉が押した電源ボタンをシトロンが見兼ねて押し直す。
そのおかげか彼女が談話室を出てコンマ数秒後にガイさんも追いかけて出て行った。
「柚琉ちゃん…ごめん」
「まあ、柚琉も動転してただけだろ。
それより、有栖川…」
「す、すまなかったのだよ…」
「まあいい」
「とりあえず、20分後くらいに柚琉達は戻ってくるだろうからお茶の準備でもしたらどうかな?打ち合わせで彼女は来たんだろうし」
「そうですね」
「…騒がせてしまったお詫びに私が紅茶を淹れよう」
「俺は着替えてくる。次の公演なら俺も関わるだろ」
俺のその声で冬組の堅物は部屋に戻り、詩人はお茶の準備を始めた。
そして、俺の読み通り、20分後には顔の赤い柚琉と対照的に涼しげな顔をしたガイさんが戻ってくるのだった。
「それにしてもまだアンドロイド抜けないのか」
「ガイはポンコツだからネ」
「シトロン嬉しそうだな」
「…あんなに感情を見せるようになるなんて昔は思ってなかったヨ。このカンパニーのおかげ」
「まあ、誰だって変わっていくさ」
「先輩、やけに実感こもってません?」
「…たまにはそういう時もあるだろ」
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