奇妙な男

06

「なんつーか、『ザ・好青年』って感じだったな」
「フン。どうせ『ブ厚い面の皮』だろうぜ」
「なんだイルーゾォ、居たのかよ」

 へらりと笑うホルマジオに、イルーゾォは軽い睨みをきかせる。彼は鏡の中からズケズケと出てくると、先程までガリカが座っていた場所にドスンと腰を下ろした。

「部屋は?」
「ペッシの隣だ」
「あァ、それでペッシに案内させたのか」

 リビングに残っているのは、リゾット、ホルマジオ、プロシュート、それからイルーゾォだけだ。ガリカは一通りの挨拶と説明のあと、ペッシに連れられて空っぽの自室に向かった。「個人の部屋なんてあるのか!」と目を輝かせている姿は、ちょっとだけ少年のようにも見えた。

「アイツ、俺は気に入ったぜ。ノリが良くて面白れェ」

 ホルマジオは、コーラ瓶を傾けながら笑う。その目線は、先程『ブ厚い面の皮』と評価したイルーゾォに向けられていた。

 ホルマジオは、そういう男だった。使えるならばいい。面白い奴なら尚更良い。――信頼するかと言えば、また別の話だ。だから、ホルマジオはガリカに対して「気に入った」と言う。

「ヘラヘラしてて気に食わねー。アイツ、どこをどう見たら暗殺者なんだよ。昨日まで高い肉くってマンマによしよしされてましたって面してるぜ」

 それに皮肉げに返すイルーゾォは、ホルマジオとは全く逆の思考を持つ人間だった。彼にとって、気に入るとは、信頼が置けるということとほとんど同義だ。だから、どことなく『とりつくろい』の見えるガリカが、イルーゾォは『気に食わない』と思ったのだ。

「……プロシュート、お前はどう思う」
 リゾットは、先程から煙草をふかしているプロシュートに目を向けた。

「人の懐に入るのが上手ェ奴だな」
「………………」
「賭博管理チームから来たってのもわかるぜ。相当アタマが良い男だ、アレは。初対面でスタンド能力をバラしてきたのはビビった」

 プロシュートの口角は、ゆるりと笑みを描いている。挑発的に上がった眉は、新人に対する詮索ではなく、興味を表していた。

「俺は、『半分』はイルーゾォに同意だぜリゾット。『もう半分』はホルマジオに同意だ」

 ――あの面の皮を剥がした時、何が出てくるのか楽しみじゃあねーか?

 そう言って笑うプロシュートに対して、リゾットは、静かに眉を寄せた。


……………………


「二階と三階が個人の部屋で、ガリカは俺の隣。廊下の一番奥だ」
「皆、ここに寝泊まりしてるのか?」
「いや、寝泊まりしてるのはリーダーだけだよ。他のみんなは仕事終わりとか気まぐれに泊まってったり、結構疎らなんだ」
「食事とか、洗濯は?」
「手の空いてる人が適当にやってるよ。まぁ、今まではオレが一番下っ端だったから、特に洗濯とかはオレが一番やってたけど……」
「成程。じゃあ俺も頑張らなきゃな」

 ――あっ、そ、そういうつもりで言ったワケじゃあないんだぜ!
 と、前を歩いていたペッシが勢いよく振り向いた。彼の頬に流れる冷や汗に気づかいを感じて、ガリカは首を傾げる。

「いやいや。そういうことは新人が率先してやることだろ?大丈夫、わかってるよ」
「いや、でも……」
「ん?」
「あんたって、パッショーネでは……その、オレより、先輩だろ……?」

 タジ、と分厚い唇を噛むペッシに、ガリカは『あぁ、なるほど』と小さく笑って見せた。

「多分そうだけど、ここのチームじゃあ俺が一番の新人だろ?だから、ペッシくんは俺の先輩、でいいんだよ。俺、暗殺とかやったことないし」

 きょと、と丸い目が大きく開いて、二度まばたきを繰り返した。

「そ、そっか……そう、そうだな!オレは先輩!」
「そ!ペッシくんは先輩!だから色々教えてくれると助かるぜ」
「オウ!…………って言ってもオレもまだ、一人も殺ったこと無いんだけどな……」
「へぇ、そうなのか!じゃあ初心者同士頑張ろうぜ」

 ――無論、ガリカに暗殺の経験なんてものはない。ただ、生まれてこの方『堂々と』殺したことしかないのだ。「殺しが初めて」だと思っているペッシと、「暗殺が初めて」というガリカは見事にすれ違っていたのだが、この勘違いが明らかになるのは、もう少し、あとの話である。

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