奇妙な男
05
新人であるガリカを待たせていた時は、ずっとシンとしていたその空間は、扉を一枚隔てていてもなおその騒がしさが伝わるほどに、「何か」に盛り上がっている。
リゾットは、読んでいた書類を一度置いてデスクにしまい、立ち上がった。
今日、メローネとギアッチョ、それからソルベとジェラートは任務に出ているため不在である。それ以外のメンバーは十時までにアジトに集まるように言っていたが、もう十時半だ。リゾットは、そろそろ集まっているだろう――と半ば確信を持って部屋の扉を開けた。
「だから言ってンだろうがよ!ちゃんとこれでも『ついてる』んだぜッ!流石に俺のスタンドでも突貫工事は無理だからな!!」
「嘘だろお前ッ!どっからどー見たって女だぜこりゃあ!!」
「お前ちょっとズボン脱いで見せてみろ」
「そ、そりゃ流石にマズイぜプロシュート兄貴ッ!!」
そこに居たのは、女だった。
ガリカとよく似た――けれども、顔立ちも、胸部も、足のかたちも、男ではない、人間。
「脱がせるんじゃあねーぜッ!いくらセンパイだからってセクハラで訴えるぞ!!」
「ガリカ、ガリカ、ガリカよォ〜〜ッ!テメェ男ならそれくらい腹くくれやッ!!」
「ズボンを下ろす≠チてのはそれくらい≠フ範疇に入らねーよッ!!というか俺は今『半分』は女だからその理屈はどうかと思うぜーッ!!」
ソファに仰向けに倒れた女と、そのズボンを引きずり下ろそうとするプロシュート。オロオロしてそれを止めようとしているペッシと、爆笑して止める様子のないホルマジオ。チラリと鏡を見ると、驚愕した表情のまま固まったイルーゾォが居た。
リゾットは、現状を理解しようとして――眉に、皺を、寄せた。
「あ!リーダーさん!ちょっとアンタこの人止めてくれッ!初日から丸出しにされるなんて御免だぜッ!!」
「………何をしている」
「おうリゾット。この新入りが『俺は男だ』って言い張って聞かねェモンだからちょっと確認をだな」
「正確には『下半身は男』だ。そこん所間違えんなよ」
「………………兎に角、プロシュートは一旦そいつから降りろ」
ため息を何度重ねれば良いのか。リゾットが呆れて言うと、プロシュートはやや不満そうにガリカ――のような女から体を退けた。ガリカはプロシュートにのしかかられてよっぽど重たかったのか、それとも緊張したのか、「ふぅ」と息をついていた。
「説明しろ。ガリカ――だな?」
「あぁ。そうだぜリーダーさん。アンタにはまだこれは見せてなかったな」
ガリカは乱れた衣服を正して、髪を軽く整える。髪の色も、目の色も、衣服も、それは今朝リゾットが見たガリカと同じものだ。けれども、顔立ちはやや丸みを帯びているし、肩幅も心無しか狭くなっている。ズボンの裾から覗く足首だってかなり細くて、極めつけは、どうみたって女性的な胸囲。リゾットは、顰めっ面のまま、いつものソファに腰掛けた。
「メンバー揃うまで暇だったからさ。先に来てたホルマジオに俺のスタンド能力の説明をしてたんだ。この体は、俺のスタンド能力のせいだよ」
「……お前の能力は他者の洗脳ではなかったのか?」
「いや。自分自身にも使えるんだなぁコレが」
ガリカが両手を広げて見せると、彼の指には合計四個の指輪が嵌っている。
「今俺は、俺自身に『お前の体は女になる』って契約を交わしている状態なんだ。俺自身の脳みそは俺の体を女だと思っているから、体をそういうホルモンバランスにしようとする。すると、顔立ちが変わって見えたり、華奢に見えたり、胸が大きくなったりするんだ」
「これで『ついてる』ってンだから驚きだぜ。信じらんねぇ」
「ホルマジオはそればっかりだな……俺のスタンド能力はあくまでも『洗脳』で『肉体改造』じゃあ無いからね。工事までは出来ないんだよ」
中々ぶっ飛んだスタンドだな、と。リゾットはそう思った。ガリカの今の容姿は、やや中性的な面立ちとはいえ、誰が見たって『女』だと思う体をしていた(主に胸の膨らみのせいかもしれないが)。それを『洗脳』という言葉の範囲で収めていいものかどうかは甚だ疑問だが、スタンドは――総じて奇妙な能力ばかりである。リゾットは、するりと目線をプロシュートの方へずらした。
「それで、お前は何をやっていた」
「あ?」
プロシュートは、リゾットの冷たい目線に全く怯むことも無く、大股を開いて煙草に火をつけていた。冷や汗を流しているのは隣のペッシだけである。
「簡単だぜリゾット。どっからどう見たって女の奴が『下半身にゃついてる』って言ってたらよォ〜〜。するだろうが、確認」
「気持ちはわかる」
「プロシュートはまだしもホルマジオは男の俺を見てるだろうが。なんで気持ちがわかるんだよ」
リゾットは、頭が痛くなる心地だった。ペッシ以来の新人ということもあって、面倒事が起きないかとは考えていたが、面倒事の方向性がイカれている。まさか、部下のセクハラ場面に直面するとは思わなかった。それも、よりにもよってプロシュートの。
「……兎に角、お前はそろそろスタンドを解け。元に戻るんだろう」
「あぁ、そうだな」
それがいい――と言ったガリカは、自身の指から二つの指輪を抜き取った。すると、途端にガリカの体はゆっくりと、ゆっくり、形を男のものへと変えていく。ふくよかな胸部は男の固いそれになって、喉仏がせりあがり、骨格も心無しか角張っていく。数十秒立つと、ガリカはすっかりリゾットが知っている『男』へと戻っていた。
「マジに男じゃねーか」
「だから最初からそうだっつってんだろ」
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