自殺幇助
05
――はァ!?何言ってンの!?爆発!?
――マジに爆発したんだって!腹が急にぶくぅー−−って膨らんでよォ!!
――私、電柱に突き刺さったって聞いたんだけど!?
――腹から出てきたのが電柱だったんだって!
――な、なんでッ!?
――知らねーよッ!!マジにやばいってことだけは確かだろうがッ!
「おーおー、騒いでる騒いでる」
「正直、俺も一緒になって騒ぎたい気分だよ」
けたたましいサイレンを聞きながら、車のドアを閉める。キーを差し込んで、サンバイザーにかけたサングラスを取ると、「それ俺にも貸して」とホルマジオはトンチキなことを言った。幸い、予備がもう一つあるので、手にもったそれをガリカはホルマジオに渡した。
「窓開けていいか?」
「もう開けてるだろうが。シートベルトしろよ」
「気が向いたら」
「行きの三時間でも結局気は向いてなかった気がするんだがな?」
帰りの運転も、勿論ガリカに決まっている。自分の車である以上文句は言わなかったが、シートベルトもせず窓から腕を出すホルマジオは見ていて危なっかしかった。いや、ガリカの方がギャングにしてはあらぬ危機管理能力なのかもしれないが。
「あの豆粒、ちっちゃくした電柱だったんだな。言われりゃあ、そう見えなくもなかったが」
「あァ。俺のスタンド『リトル・フィート』は、なんでもかんでも縮ませる能力だ。もちろん、俺自身もな」
車を発進させながら、ガリカはちょっとびっくりした顔でホルマジオの方を見た。
「オイ、前見ろ前」
「っあ、あぁ、悪い。まさかネタバラシしてくれるなんて思わなかったからさ」
動揺して、ギアチェンジをミスるところだった。
そう零すガリカは、ギアを2速にしながら慌てて前を向く。
「イルーゾォの野郎は、俺のスタンドを『くだらねェ』なんていうけどよォ〜〜〜〜……」
「くだらない能力」。
ガリカは、イルーゾォがどんなスタンドを持っているのかは知らないが、少なくとも彼はホルマジオの能力を「くだらない」なんて言うことはできなかった。だって、先ほどの狂乱はほとんど全部が彼の仕業だ。腹の中に仕込ませたのはガリカだが、突飛な能力で殺してみせて、大学に大騒ぎを起こしたのは彼なのだ。ガリカは、見知らぬ男の腹を電柱が突き破っていく瞬間を想像して、少しだけ血の気が引いた。
「使い様≠セっただろ?なァ、ガリカ」
男はヘラりと笑って見せる。
それは、アジトで見せたときのものと同じで、先ほどカフェテラスで見せたものとも同じだった。随分と凄惨な殺し方をしておいて、ホルマジオは平然と笑ってみせるのだ。まるで釣った魚が大きかった、なんてしょうもないことで笑っているような顔だった。
「俺さぁ、ぶっちゃけ――ぶっちゃけ、だけれどね。スッゴクスッゴク尊敬したぜ。今、アンタのこと」
「オッ、わかってんじゃあねーか!!」
――カッコイイな、と思ってしまった。
いや、平然と笑って見せたことではなく。自分の能力をくだらないと言われようと、「使い様だ」と得意げに笑って見せるその様がカッコイイと思ったのだ。
ガリカの能力に派手さはない。時を止めることなんてできないし、ものすごいパワーがあるワケではなく、すさまじい炎を繰り出せるわけでもない。騎士のような剣を持っているのでもなく、ハジキを構えることもない。
「お前も初めてのわりにはよくやったじゃねーか」
「え?何が?」
「俺は『ターゲットにコレ飲ませてこい』って言っただけだぜ。まさか見知らぬ女に手伝わせるとはなァ」
「あ、おいちょっと頭叩くな、前見えないって」
どうやら、ガリカの『回答』はほぼ百点だったらしい。
「俺だってそうしたぜ。俺がお前のスタンドを持っていたらそうした。ただ、お前みたいな性格の奴が『見知らぬ他人を巻き込む』なんてこと――ちゃっちゃとやってのけるとは、思わなかった」
ホルマジオは、上機嫌に笑っている。
ガリカは、ホルマジオに『課題』を与えられて、暫くは悩んだのだ。そして自分のエスプレッソを自飲み終えたあと、ホルマジオが小さくした電柱を持って席を立った。
自分のスタンドで出来ることなどたかが知れている。そのたかが知れていることで、課題をクリアしなくちゃあ、ならない――と思ったガリカは、その辺の学生を捕まえて命令を与えることにした。最も安全な方法を取るのが、ガリカの常だった。可哀想だとは思ったが、『可哀想だと思っただけ』だ。
勿論、命令を与えた女には、自分の、ガリカの存在を忘れるようにスタンドを掛けてある。結果、代償としてガリカは暫く右手が全く動かなくなっていたのだが、スタンドを解除した今では元通りだった。
「下手したら、あの女の子が犯人として捕まってたかもしれないんだぜ」
「腹から電柱だろ?そんな奇妙な死に方に犯人なんか見つけようもないさ。あと、自分がやったことも忘れてるだろうし、言質も取れない」
「でもお前はあの時、教授にアレを飲ませたらどうなるか知らなかっただろ」
「………………」
「――――だから、よくやったと、言ってるンだぜ。俺はさァ」
黒いことを褒められるのは、不思議な気分だ。
信号に差し掛かってゆるくブレーキを踏み、ガリカはそっとホルマジオの方を見た。しかし、やっぱり彼は笑っていたので、目線を道路へと戻す。
「ご期待に添えたようで、何より」
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