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バタバタバタバタ…
そいつは色気のねぇ足音を立てておれの前にやってくる。そして第一声はこうだ、
「あたしの心臓返しなさーいっ!!」
心臓よりも
『…部屋に入る時はロックくれーするもんだってママに教わんなかったか?』
「鍵してないローが悪い!」
つくづく口の減らねぇ女だ。
つい先月の事だ。
船を停泊した島の中心街で住民どもが海賊だとうるさく騒ぎ立てるもんだから、少しヤキ入れてやった所、怯えた子ども達を背に1人の女が立ちはだかった。女の名は***。
“この子たちに手を出さないでっ”
“別に殺すつもりはねーよ、バラすぐらいはしてやってもいいがな”
“そ、それを殺すっていうんじゃない…!”
“おれがバラしても死なねーよ”
“なに馬鹿な事言ってるの?!殺すなら私を殺しなさい!”
“ハ、上等だ、女”
威勢のいい女は嫌いじゃねぇ。そいつの心臓を綺麗にくり抜いてやったら“な、何よこれぇぇえ!こんなスカスカの身体じゃお嫁にも行けないわ!”なんて的外れな反応見せやがるからますます気に入った。
“返して欲しかったらおれの船に乗れ、女”
“待てー!私の心臓ーっ!!!”
と、こういう経緯だ。今では船の連中とも打ち解け『お、***ちゃん!今日もキャプテンに奇襲しかけんのかい?』なんて聞かれている。
「うん!今日こそ返してもらうわ私の心臓っ」
『こりないねぇ…まぁ、がんばりなー』
そして冒頭に戻る。
「もういい加減返してよー、あたしこのままじゃこの船でおばあちゃんになって一生を終える事になるわ」
『それは幸せだろーな、この船に乗ってりゃ老後の治療や介護の心配もねーしな』
「あ、そっか。いいかも……って!私は早くこの船を降りたいの!」
『降りてどーする』
「え?そりゃ街に戻って日々を過ごし、素敵な男性と劇的な出会いをし、3年の月日を経てゴールイン。それはそれは可愛い子宝に恵まれましたとさ、めでたしめでたし」
『終わったな』
「そうよ!今こうしている間にも私の華麗なる人生設計は崩れているの、おわかり?」
『じゃあ尚の事返せねーな、これは』
俺は宙に心臓を投げては掴み、投げては掴み、とボールの様に扱うと、***は目を丸くして悲鳴をあげる。
「ちょ、ちょ、大事に扱ってよ私のかわいい心臓なんだから!」
『……返して欲しいか?』
「え……ほ、欲しいっ!欲しいよ!それはそれはものすごく!」
『じゃあ交換条件だ』
「?! うぁっ!」
ダンっ!と強く***の身体を扉に叩き付ける。左肘で胸の上を押さえ、右手にはヤツの心臓。息のかかるくらい耳元に口を近づければ、***の肩は面白いくらいに揺れる。
『…おれの事どう思ってる』
「ど、どうって……」
『男として、どう思ってるのか聞いてる』
「え、そんな事急に聞く…?」
『3秒以内に答えろ。嫌なら俺を突き飛ばせ、その場合お前の心臓は一生戻らないがな』
「は?それって私の選択肢になってる?え?ねぇ?」
『3、2…』
「わわわわ…!え、ちょっと待っ、」
『……1』
「っ、すすすすきだよっ、ん…っ」
言い終わらないうちにその口を塞いだ。キスと同時に***の心臓を元あった場所に埋め込んでやる。
「………酷い男」
涙目になって頬を紅くし、悔しそうな顔をする***を見ておれは笑った。
本当は***の気持ちなんて当に知ってた。おれの部屋に入る直前は決まって***の心臓が熱くなり、鼓動が急に早くなるからだ。
元ある場所に戻り、規則的な波を打つ***の心臓に手を当てた。
『もうこんなの必要ねーな』
「え?」
欲しかったのは、心の方。
(2012.11/29)
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