タクシーに乗り込んでから10分程経った頃、ポケットに入れていたスマートフォンがようやく震えた。知らない番号からであることを期待しながらディスプレイを見れば、自分の詰めの甘さに腹が立った。

いつまで経っても電話に出ようとしない俺を不思議そうに見つめる章ちゃんに向かって溜め息を吐き、仕方なしに通話ボタンを押す。


「………はい。」
『あ、えっと、にしき、ど?さんのお電話でお間違いないでしょうか。』
「……はい。」
『…私、焼き鳥屋ムゲンの名字と申します。先ほどは御来店いただ「なんで店からかけてくるん。」


はぁ、と電話越しに溜め息が聞こえる。え?なに?俺、呆れられてる?落胆する気持ちを隠し切れず頭を抱えれば、今度は助手席に座る大倉が振り返った。

賭けではあったけど、もしクレジットカードを置いて帰れば、絶対に彼女から連絡が来ると思っていた。ただ、まさか店からかけてくるとは思ってなくて。


『お客様へのご連絡なので。私個人の携帯電話からご連絡する必要はないかと。』
「いや、うん。そうやけど…、そうやけど!」
『クレジットカードなんですけど、「待って!このまま話進めんといてや。」…じゃあ、どうしたらいいんですか。』


彼女の声色が変わり、やばいとは思いつつももう後には引けない。ダサいけれど、本当はもっとスマートに行くつもりやったけれど、仕方なしに縋るような声を出す。


「どっかまで行くから届けて欲しいって言うたらあかん…?」


流れる沈黙。考えているのか、店の声がよく聞こえる。頼む。頼むから、誰にも繋がんといてくれ。


『…最寄り駅、どこですか。』
「えっ?」
『もうすぐバイト上がるんで、持って行きます。気付かなかった私も悪いんで。』
「あっ、ぅえっ?ちょ、待って、こっち来てもらうとあれやから、『どこですか。』


立場が逆転してしまって、しどろもどろしながらも最寄り駅を勢いで言ってしまった。


『じゃあ、またあとで連絡します。』
「それって、」
『…私の携帯からかけます。じゃあ。』


プツリと切れた電話。嬉しくってニヤける口元。じーっと俺を見ていた章ちゃんと大倉の存在を思い出し、何見てんねんと逆ギレ。計画通りには進まなかったけれど、終わり良ければ全て良しやろ。


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