金髪極悪コンビという名の寄生虫にパラサイトされている。主に俺の財布が。
「何勝手に一人一部屋取ってんだよ。お前ら自分の部屋代くらい払うんだろうな?」
「ここカードOKだって。良かったねアービィ」
「はいマイナス50ポイント」
「えー…お客様、こちらがお部屋の鍵になります。当ホテルのお支払いはチェックアウト時となりますので、11時までにこちらの受付にお越しください。朝食バイキングは6時から10時まで、2階のレストランにてご用意しております。エレベーターは受付から向かって右手、奥にございます。それではごゆっくりどうぞ」
「どーも」
じゃねえよ。何勝手に鍵受け取ってんだよ。これで三部屋分の支払いが決まっちまったじゃねえか。
……さて、クソストーカー野郎がその辺でかっぱらった車(マイナス100ポイント)に乗ってそこそこお高そうなホテルへとやって来てしまったわけであるが。留まるところを知らぬ奴らのパラサイトっぷりに、つい映画スター張りのオーバーリアクションを取りたくなってしまった。ふう、やれやれだぜ。
余談だが、肩を竦める俺を放ってエレベーターの扉を閉めたあいつらを許すことは一生ないとここに誓う。
ハンターらしく気配を辿り、フィンクスとクソストーカー野郎がいる部屋に着き、ふと頭の隅を「三部屋取った意味は?」という疑問が掠め、部屋のワインを勝手に開けている二人に悟りを開きつつ、備え付けのパソコンの電源を入れた。
「分かった。ここ数日プラス数時間でお前らという人間の構成物質が純度100パーセントの非常識で出来ていることは嫌というほど分かった」
「知識としてはあるって」
「身に付いてねえそれは萎びたセルフィーユほどの価値もねえ!」
セルフィーユってなんだ? ケーキとかに乗ってる葉っぱ。 ああ、あれか。
そんな会話を背中に受けながら電脳ページの検索窓に文字を打ち込んで行く。検索ワードは“友達”。候補画像にあがる覆面姿で指を一本立てた愉快なトモダチを飛ばし、辞書サイトのページを開いた。そしてクソストーカー野郎が見やすいよう椅子ごと体をずらす。
「これを読め」
「はいはい。えーっと…“友達。互いに心を許し合って、対等に交わっている人。一緒に遊んだりしゃべったりする親しい人。友人、朋友、友”」
「はいよく出来ました」
「で、これが何?」
うん。予想通りの反応をありがとう。俺は慈愛に満ちた眼差しをクソストーカー野郎へと向けた。
「友達が何をするものなのかの前に、そもそも友達がなんなのかきちんと理解してもらおうと思ってな」
「このくらいなら俺でも知ってるよ。フィンクスはどうか知らないけど」
「あ?」
「はいはい。そういうのいいから、やるなら三日後にやってくれ」
額に青筋を浮かべるフィンクスの前に新しいボトルを差し出し、乱暴ながらも受け取ったのを確認して元の席へと戻る。クソストーカー野郎は「えこひいきだー」だのとほざいていた。こいつの頭はお花畑か。
まあいい。こんなことでいちいち話を止めていたのでは一向に本題に入れない。先ほどの辞書サイトから検索窓へ戻り、今度は“友達 遊ぶ”と打ち込んだ。どうでもいいが友達といれると候補ワードに“いらない”とか“いない”とか出るのはどうにかならないのか。後ろに“遊ぶ“をつけると“めんどくさい“とか“つまらない“とか“疲れる“とか……。お前らもっと友達は大切にしろよ!ないがしろにするんじゃありません!
「ふーん。友達ってやっぱ面倒臭いんだね」
「……まあ、わざわざありがたいとか電脳ページに書く奴いねえだろうからな。こういう奴の方が引っ掛かってくる」
適当に目についたページに飛ぶと、そこは友達がいない奴から友達がいる奴への質問スレッドだった。「遊ぶって何するの?」という実に簡潔な質問に対し、返ってきているのは“喋る”だとか“買い物”といった簡素な答え。それが段々と流れが変わって“特に何をするわけでもないが一緒にいるだけで楽しい”という結論で半分くらい落ち着いている。
大人しく画面をスクロールするクソストーカー野郎の後ろで、腕を組んだ俺は友人兼ハンター仲間のスタンのことを思い出していた。
スタンと遊ぶときは何をするか。大体がどちらかの家かホテルでお互いの近況や笑い話をして、腹が減ったらスタンに飯を作らせ、日中なら銃を見に行ったり市を見に行ったりと適当に買い物をして、疲れたら拠点に戻ってだらだら。会話のない時間もゼロではない。会うときも“何かをするため”に会うのではなく、特に目的もなしになんとなく会ってなんとなく一緒にいるだけのことが多い。もちろん、仕事絡みのときは別だが。
しかしそう考えると、たしかに友達とは何をするものなのか説明しづらい。何もしなくても友達は友達だ。下手すりゃ仕事明けで一日寝ているだけのときもある。それでも俺の感覚からいくと一緒にいれば“遊ぶ”の内に入る。
一通りスレッドを読み終わったのか、クソストーカー野郎がこちらを振り向いた。
「どこからどこまで現実で作り物なのか分からない。なんか現実感ないんだよね、あまりにもかけ離れ過ぎてて」
そう言ったこいつは、たぶん、ふざけてはいない。ひょいと肩を竦める様は相変わらず軽いし言葉も軽いが、中身がないわけではない。すぐには返す言葉が浮かばず、俺は黙って電脳ページを閉じた。
それまで大人しく酒をあおるだけだったフィンクスが俺の代わりに、クソストーカー野郎の言葉を引き継ぐように、口を開く。
「言っただろ?想像すらつかねえって」
俺たちにとっちゃ紙ペラか画面の向こう側の話だ。
そう続けたフィンクスにも、頷くクソストーカー野郎にも、悲壮感はない。
今までにも利害の一致なくして他人といる意味は無い、みたいな奴には会ってきた。それこそハンターという職業だ。偏屈じゃない人間の方が少ない。だけどそいつらのどれとも、この二人独特の“感覚”は違う気がした。
「まあ、なんだ。その……」
「同情でもする気か?」
「いや。なんとなくお前らの歪んだ人格が出来上がった経緯が見えた気がして……」
「ちょっと。なんでこっち見ながら言うのさ」
見るなと言わんばかりにペンのようなものを突きつけられたので、大人しく明後日の方向へ視線を逃した。草原をスキップするがごとき軽やかな口笛付きだ。目を逸らした隙にフィンクスにどつかれてしまったのには目を瞑る。
本当はちょっぴり、フィンクスの眉毛以上俺の小指の爪以下くらいは同情したと言ったら、たぶんどつくなんてもんでは済まないんだろうけど。
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