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俺は我に返った。めっちゃペース呑まれてる。
このままではいかんと冷や汗をかくと同時、思い出したのはそもそもの本題である“ゲーム”のことだった。人のものを盗む、ましてやそれが替えの効かないものともなれば、それは友人にあるまじき行為と言えるだろう。
……待て待てやっぱあいつらのペースに呑まれてる。友人如何以前に人としてやっちゃいけないことだから、犯罪だからこれ。

「よって友達ポイントマイナス200!!」
「なんだよその“友達ポイント”ってのは」
「いい。聞かなくていい。フィンクスは聞かなくていいから」

追加で頼んだフライドポテトでクソストーカー野郎を指せば、その横でビールを煽っていたフィンクスが不思議そうな顔をした。対して、クソストーカー野郎は苦々しげに首を振っている。いいことだ。

「言っただろ?こいつと“ゲーム”をしてるって。友達に値する行動を取ればプラス、逆ならマイナスってわけ」

摘んだポテトを円を描くように回し、口の中へと放り込む。現状はマイナス300ポイント。奴の勝ちまであと400。一発逆転なんて俺が審査している時点であり得ないので、俺の勝ちは決まったも同然だ。

「貯めたらなんかあんのか?」
「……友達になれる?」
「わけないだろ!ゲームの勝ち負けがつくだけ!あんまり勝手なこと言うなよアービィ!」

今度はフォークではなくナイフを投げられた。こいつ、おちょくられんのに慣れてないのか知らないが沸点が低過ぎる。
首を逸らすだけ、という格好良い感じの避け方をして大人の余裕を醸し出したいのは山々。しかしそれだともれなく俺の後ろの席のおばさんがご臨終してしまうので、やはり指の間で挟むようにして受け止めた。そして受け止めたナイフをカトラリー入れに戻し、そっと手元に引き寄せる。これは食事のために使うものであって投げるものではありません。

クソストーカー野郎は不満げな顔でポテトを口へと運んだ。

「大体、“友達”ほど曖昧なものもないんだよ。人によって定義は違うし、一般的なものがアービィに当てはまるとも限らないし」
「まーなー。今更だろ、そんなの」
「そもそも!俺はあんたとまともにゲームするつもりなんかなかったんだよ!俺の一人勝ちで終わるはずだったのに!」
「お前素で嫌な奴だな」
「どーも!お褒めに預かり光栄です!」

妙にぷりぷりしているクソストーカー野郎に首を傾げる。フィンクスとアイコンタクトで「なんでこいつこんなに機嫌悪いの?」と聞いたら向こうも目で何かを語ってくれたが付き合いが浅いので全く分からなかった。

ゲームは残り二日。こいつらに振り回されて疲れたから一日くらい休養に当てて、その後に仕事を再開しよう。スタンが連絡をくれと言っていた期限は一カ月だから、移動が必要になってもまだまだ時間はある。……やっぱ俺の傷ついたハート的にもあと一週間くらい休もっかな。

最後のポテトを食べ終え、さすがのフィンクスも腹が落ち着いたのかメニューに手を伸ばすことはなかった。ぼんやりと呟かれた「友達、ねえ」という言葉からして、クソストーカー野郎とのゲームのことが引っかかっているらしい。

「んなもん、いたこともねえから想像すらつかねえな」
「この類友が」
「要は仲良しごっこだろ?鳥肌モンだぜ」
「お前ら……」

いい年こいて友達いないのを『孤高の一匹狼』とか『ふっ……周りが俺について来れねえのさ』とか言って誤魔化してるタイプじゃねえだろうな。少々可哀想なものを見るような目になってしまい、視線を窓へと逃した。外はすっかり陽が沈み、窓には店内の様子が映り込んでいる。頭の色は同じだが顔立ちが面白いくらい対照的な二人の横顔を見ても別に面白くもなんともなかった。
こいつらに欠如しているのは常識、倫理観、その他もろもろ。金だけは持っているようだが友達は金では買えないのだよ、諸君。

「俺、なんかお前らが可哀想になってきた……。頑張れ、生きてりゃいいことあるって」
「余計なお世話だボケ」

そうだな、フィンクスは口も悪かった。俺も人のことは言えねえが。

さて、ここまで比較的大人しくしていたクソストーカー野郎。こいつが最後まで大人しくしているはずがないことを若干調子に乗っていた俺は忘れていた。失念していた。忘失していた。ついでに言うといらん同情の念まで湧いてしまって普段なら即答で「No」と言えるアービィさんであったところをよく考えずに「Yes」と言ってしまうアービィさんになっていた。
後になって己を殴りたいと思うのは何もこれが初めてではない。

「俺からひとつ提案があるんだけど」

氷が溶けて薄まった中身をストローで回し、顔を俯けたまま目線だけをこちらに寄越してクソストーカー野郎は言った。野郎の上目遣いなど鳥肌モノでしかないが、寛大になっている俺は優しく続きを促す。

「おう、なんだ言ってみろ」
「そこまで言うんなら教えてくれない?“友達”ってやつをさ」
「別にいいぞー……ってちょっと待てよくない!!」
「はい。いいって言ったね」
「なし!んな面倒臭えこと誰がするか!常識から教育するようなもんじゃねえか!俺は最初に“めくれ”っつったろうが!」

思わず身を乗り出して中指を立てると、顔の前にリモコンのような形をした何かを突きつけられた。

『別にいいぞー……ってちょっと待てよくな、』
「……なにこれ」
「言質」

リモコン、もといボイスレコーダーの向こうには有邪気をきれいに包み隠した無邪気な笑顔。対して俺の頬はひくりと引き攣り、一拍置いてフィンクスが吹き出した。

「口八丁でシャルに勝てるわけがねえんだよ」
「納得いかねええええ!!」

これは口八丁で勝てないんじゃなくて性格の悪さで勝てないだけだ!そんなもので勝っても嬉しくないから悔しくない!けどやっぱ腹立つこいつ!!

苛立ちから頭を掻き毟る俺をよそに、クソ野郎とフィンクスは「そろそろ出るか」「近くにホテルの予約取っといたよ。アービィ名義で」「そりゃいいな」だのなんだの言いながらさっさと店を出て行ってしまった。聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするのだが。そして俺と一緒にこの何枚も重ねられた伝票が残されている気がするのだが。
いつまでもうだうだしているわけにもいかず、伝票を持ってレジへ向かう。待っていたのは何度もジョッキのおかわりを運ばされたウェイトレスさんだ。渡した伝票のバーコードを読み取り、表示された金額に俺の目は点になった。

「お会計、2万1850ジェニーです」
「あ、はい」

ファミレスで万超えるって何。俺はそろそろストレス過多で禿げそうで怖い。



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