※学生時代
※名前変換なし

今日の私は頑張った。任務は予定よりも3級呪霊が2匹も多くて依頼主は結構面倒な人。戦闘後疲れ切った私に呪いのことは絶対に他言無用だと終始念を押しまくるタイプ。多分10回は聞いた。言わねーよばかと返さなかっただけ偉い。お疲れ私。帰って暖かい部屋に引きこもろう。そう言い聞かせて(ついでに直近で貰った報酬を手に)コンビニスイーツをチェックしてきた。
しばらく見ないうちに増えたラインナップをさんざっぱら吟味して、ちょっと豪勢にミニホールケーキとプリン(ちょっとお高いやつ)を入手している。もう夜遅いけど今日はお昼からご飯を食べそびている。よって大丈夫。心配ない。後は寮に戻ってから五条先輩に見つからない様するだけだ。細心の注意を払って、一番危険な談話室を抜けなければ。
静まり返った真っ暗な廊下の先に電気がつけっぱなしの談話室。誰か居るんだろう。だって最近は節電やらがうるさいので電気はこまめに消されている筈だ。ここで誰が居るのかによって私の選択が変わってくるぞ...いや、先輩の誰かが居てもほとんどの場合で後輩からおかしをカツアゲする人ではない。落ち着け。とにかくそっと開けよう。中に居るのが誰なのかだけ確かめよう。ゆっくり、音を立てないようにゆっくり開ける...そして人影が見えた気がした瞬間、
「遅い」
声が飛んできた。えっまだ私からは制服の端しか見えないのになんで分かったの。あっちは私の顔見えてないでしょ怖い。いや待て、それよりもこの声はやばい。よりにもよって五条先輩を引き当ててしまった。これはケーキ達が誘拐される前にどうにかして切り抜けないと。
「遅いも何も今日は任務だったんですよ。予定と違って呪霊は2体も多いし依頼主も面倒な人で大変だったんです」
「どうせ呪いは雑魚でしょ。面倒な依頼主だっていっぱいいる。本当はさっさと部屋引っ込むつもりだったけどあんまり遅いから待っててやった」
ふん、と不貞腐れた様な顔をしてそっぽむいて見せた先輩にため息を吐く。
「先輩が私の帰りを待つ理由に思い当たる節がひとつもないんですが」
いや本気で。あの任務内容で心配してたわけでもないでしょうに。そう言った私を碧眼が見つめる。先輩の意図するところがわからない。近寄ってきた180cmオーバーが私を見下ろす。威圧感がすごい。
夏油先輩か家入先輩助けて。いや家入先輩は助けてくれないな。夏油先輩助けて。私は五条先輩のこと全然わかんないです。テレパシーを試みても返答はない。どうしたものか。

てん、てん、てん、まる
何か言ってくれるのかと待ってみたけれどやっぱり先輩は私を見下ろしたまま微動だにしないので暫し見つめあってしまった。この先輩顔はめちゃくちゃ良くな...でも中身あれだから全然ときめかないわ…。
「もうなんなんですか。私は夏油先輩じゃないので言ってくれないとわからないんですが」
痺れを切らした私にピクリともしなかった先輩が深い深いため息を吐いて呆れたような視線に変わる。
いやいやそんな目をしたいのはこっちなんですけども。任務で疲れて帰った後輩をいつまでもこんなところで足止めするな。
「それ」
無駄に長い指が今日の戦利品を指さす。
「それ?どれ…あ、もしかしてこれ、ですか」
片手に下げた袋を持ち上げて見せた。
「中身何」
「え、いやその。これは」
少し言葉に詰まる。ここで正直に答えてこのケーキ達は無事でいられるだろうか。この
「何」
呪言でも使っているのかと言いたい様な圧はなんなんだ。任務被った時でもこんなに圧感じない。いいじゃないか後輩の買い食いくらい!
「…今日頑張った私へのご褒美です」
正直に、中身を伏せて答えると言うが早いかするりと抜き取られ、袋が先輩の手元へ。慌てて手を伸ばしたけれど、なんか壁ある届かねぇ。嘘だろ無限はってるこの先輩!!
「ちょ…っと!先輩!それ私のですってば!」
無限の先で悠々と人の袋を漁る甘党魔王がケーキとプリンを誘拐した。

「やっぱ分かってんじゃん。変な誤魔化し入れやがって...待っててやったんだから感謝しなよ」
途端に機嫌良くなった先輩が笑う。笑うな。
「なんですか待っててやったって!それは私のご褒美です!態々待ち伏せしてまで後輩から甘い物カツアゲしてんじゃねーですよ!」
まるで意味なんかなくてもとりあえず無限を叩いて抵抗する。ふざけんな。
「カツアゲじゃねーよ。人聞きの悪い。今日の主役様なんだけど?」
「は?何ですか主役様って。わけわからんこと言って誤魔化さないでください」
機嫌良くケーキを開けようとした先輩の手が止まる。そのままじとりとした視線を寄越してきた。
そんな視線は要らないから早くケーキたちを返してくれ。そんな言葉をどうにか飲み込んだ私に先輩の怪訝そうな顔と低くなった声が返ってくる。
「…ちゃんとケーキ買ってきてんだから知ってたんじゃないの?」
「知らねーです。なんの話ですか」
今度のため息はずいぶん長い。なんなんだこの先輩は。この短い間でテンション下がったり上がったり下がったり。情緒不安定かよ。

「今日俺の誕生日」
「は?誕生日?…え誕生日ですか?先輩の?」
仕方ないとばかりに教えられたそれに思わず聞き返してしまった。いやほんとに知らなかったぞそんな話。
「いやでも誕生日だからって人のケーキ強奪するのは如何なものですか」
「俺に買ってきたもんじゃないの」
「違いますよ今知ったのに。…まさか私が何かしらのプレゼントでも買ってくると思って待ってたんですか」
「…そうだよ。悪いか」
「ええええ…それは、いや事前に言ってくださいよ…知ってたらちょっとくらいなんかしたかもしれないじゃないですか…」
「...知らない方が悪い。ほら、優しい誕生日の先輩をお祝いして」
そう言うなら誕生日当日の夜に後輩にねだるんじゃない。せめて前日に言ってくれ。いや言われてもちょっと悩むけど。
今度は私がため息をつく番だった。この先輩は一度こう言えば何があっても祝わせる。いつになってもプレゼント貰ってないとか言う。...今ここでどうにかして祝う面倒と今後の面倒を脳内で天秤に掛ける。あぁもう、仕方ないな。
「じゃあこうしましょう。ケーキもプリンも半分こでどうですか。ささやかですけど私から小さな誕生日パーティーをプレゼント、ということで」
渋々そう告げると途端に口端を釣り上げた先輩が嬉しそうに返事するんだから全く。

「じゃあコーヒーでも入れてくるので少し待っててください。...お誕生日おめでとうございます」
「うん。俺の分砂糖多めね。待ってるから早く」