「まさか先輩がタキシード着る日が来るなんて思ってもいませんでした」
「素直に似合うって言っていいよ。僕だって名前がドレス着てるとこを見る日が来るなんて思わなかったさ」
「まぁ流石に結婚式じゃ普段着というわけにもいきませんしね。...と言うか今日の先輩は全体的に白いですね」
真っ白なタキシードに真っ白な髪。青い目と胸元のコサージュだけが鮮やかな色を持っている。
「そりゃ今日ばかりはね、折角だし白にしようかなって。一生に一回しかないレアな僕だよ」
「確かに、レアかもですね。サングラスも目隠しもないわけですし。まぁ先輩が離婚、後に再婚する〜ってなればもう一度着るかもですよっいった!!」
「何その笑えない冗談。この晴れの日になんてこと言うのかねこの後輩は。デコピンで許してあげたんだから感謝しな」
僕ってばやさしい先輩。なんてふざけたことを言い出すから思わずギョッとした。この人自分のデコピンで人が死ぬって知らないのか。いや本当に死んだ人は知らないけど。それだけ痛いって事だ。
「この晴れの席にでこ赤いまま写真に映ったら先輩のせいですからね…確かに今のは多少不謹慎でしたけど…」
「そもそも奥さんは僕にベタ惚れだからそう簡単には別れないよ」
一体その自信はどこから湧くんだと聞きたい程にキッパリと言い切った先輩は随分と幸せそうな顔をしていて一瞬言葉に詰まる。
「…先輩がお相手を捨てる可能性もあるでしょう」
「ないよ。ここまで来るのに結構苦労したんだから、今更離してやるわけないでしょ」
「ソウデスカ。全く、こんな人を好きになるなんて奥さんも物好きな人ですね」
「全く、可愛くない後輩だね。僕ってば顔良し性格良しでおまけに最強で稼ぎもいいんだから引く手数多だったに決まってんでしょ」
ふふん、と先輩が胸を張る。確かに歳を取る中で落ち着いた部分もあるけれど、その他は変わってない部分も多い。生徒達なら兎も角付き合いの長い自分達は性格の良い先輩というのが思い浮かばないのだ。だから昔から「いくら人数の少ない高専でも五条だけはやめた方がいい」とは歌姫さんや硝子さんその他の先輩方に散々言われてきた。正直私もそう思う。
「性格以外は概ね同意出来ますが、残った一つが結婚には致命的だと思いますけどね…」
「もう一発デコピンいっとく?」
「結構です。これ以上はほんとにでこ真っ赤で式に出る事になる」
指を構えた先輩から咄嗟に額をかばった。これ以上は本当にヤバい。折角の式にでこ真っ赤で出るのは笑われる。
「ハハ、今日ばかりは名前も真っ白だからね。デコだけ赤かったら目立つんじゃない」
「…仮にも主役ですからね。披露宴なら兎も角、式ではやっぱり白がいいですから。」
「でもヴェールあげて真っ赤なでこした奥さんがいたら笑うかも」
「でしょう。分かっているならもう新郎控室に帰ってください」
改めてまじまじと私を見た先輩がにんまり笑って今度は私の頬を突く。そのままふにふにと連打。連打?やめてくれ。化粧済みだぞ。
「そう言えばさ、今日の名前は普段の僕と真逆だね、黒髪に真っ白のドレス。一緒に選べなかった分見るの楽しみにしてたけど、うん。似合ってる」
「露骨に話を逸らしましたね…そりゃドレスは硝子さんと選んだので間違いないとは思いますけど」
特級と準一級、それなりに任務の多い等級同士そう簡単に休みは合わなかった。おまけに教員としての仕事もある先輩は休みが取れる方が稀だった。それでも式だけは休みを合わせるために調整してドレス選びは先輩以外の人とばかり行った。
「その硝子に対する信頼なんなの?」
「学生時代からの積み重ねですかね…」
「ふぅん」
「…そろそろ本当に時間ですよ先輩。さっさと新郎控室に戻ってください、最後の仕上げに係の人待ってるはずですよ」
「はいはい。じゃあ先に式場で待ってるからね」
あ、それと。もう先輩呼び止めろよ。
そう言ってまた笑った先輩が今度こそ自分の控室に戻っていった。静かになった新婦控室に係の人が戻ってくる。後は最後の確認をして式場へ歩くだけだ。
そうしてふと本当に結婚するのかと改めて実感が湧いてきた。そっか、私達結婚したのか。
私は先輩を選んで、先輩は私を選んだのか。


「…全く、私と結婚するなんて物好きな人だなぁ」