He who has never hoped can never despair.

希望を抱かぬ者は失望することもない

七海が呪術師として復帰すると五条さんから聞いた時、本音を言うと少しだけ悲しかった。
せっかく高専を卒業する時この世界を見限ることが出来たのに。せっかくこんなくそったれな場所から出て行くことが出来たのに。そも呪術師だ呪霊だ呪詛師だの世界なんて無縁に生きて来たのだから、こんなとこさっさと見捨ててしまえば良かったんだ。私達も何もかも、高専のたった4年なんて過去にして忘れてしまえば良かったんだ。次の瞬間には誰かが死ぬ様なこの場所なんて。
それが嫌になって呪術師を辞めたとばかり思っていた。私の理解不足だっただろうか。いや、私に七海を理解出来ていたかと問われればそもそも否だったかもしれない。
だからこそだろうか。私には七海がこの血生臭い世界に戻ってきた理由なんて理解できなかった。





「どうして戻ってきたの」

出戻った七海を歓迎しようと身内で開いたささやかな飲みの席で酔いに酔ってそんな言葉を漏らした事だけは覚えている。
素面だった五条さんも既に何合飲んだか分からないのに素面と変わらない家入さんも、それなりに飲んでいる七海も私に目を向けていた。しこたま飲んで知性も飛ばした私にはその視線の意味なんで分かりもしなかったし考えようともしなかったけれど。
他に覚えている事といえば掘り炬燵にへばりついてぐずぐず言っている私に隣の五条さんが何やらちょっかいかけて遊んで居た事だけだ。肝心な七海の返事の有無は全く思い出せなかった。
かと言ってあの醜態をもう一度蒸し返すのも流石に憚られるので改めて問いかける事は出来るはずもなく、結局は質問の答えを掴めないまま今に至る。

あの飲み会から暫く経ってしっかり一級術師として復帰した七海は今日も今日とて任務である。私達準一級以上に休みはそう多くないのだ。
ちなみに五条さんに聞いたところによると今日の七海の任務は高専生が付き添うらしい、もう少し適任が居るんじゃないかと思う。初対面でもとっつきやすい猪野君とか。