竹刀袋と紙袋を下げた少女が手元の紙切れを確認してどんよりとした空に目をやった。何度見ても出発時間が変わる訳もなく、宙ぶらりんな数時間をどう潰すか少女は考えあぐねている。時間の潰し方さえパッと浮かばないのは遠方任務の良くないところの一つだ。携帯の充電は残り僅かで心許ない。この後の補助監督への連絡を考えたらあまり使いたくはなかった。端末もなく地理さえ分からない場所では散策するにもイマイチ躊躇う。仕方ないので纏まらない思考のまま重い灰色をした雲を見つめていた。
梅雨も目前の六月、大きく吸い込んだ空気は生ぬるくて湿っぽい。雨の予報は無かったがいつ降ってもおかしくはなさそうだった。
しばらくの間ぼんやりとしたままだった少女の手元で端末が小さく震えた。任務の追加だろうか。あるいはそのままゴミ箱に流れるメールマガジンか。任務の追加は勘弁願いたいがメールマガジンなら幾分暇は潰せるだろう。確認すると通知がついていたのはメッセージアプリだった。何度か画面を叩いて担任の名前が表示されたトークルームを開く。よくわからないキャラクターのスタンプと簡潔に書かれた文が浮かんでいた。
『同級生が一人増えたよ』
目を通した少女が、ふぅんと小さな声を漏らす。スタンプ一つで返事を返してそのまま液晶の明かりを落とす。そのままポケットに滑り込ませた。
「あ、一人増えたらお土産足りないかも」
少し前に買った紙袋の中身を思い浮かべる。多少余裕を持って買ったつもりだがどうだろうか。まぁなんとかなる。最悪自分用に買った菓子類を出せば足りるだろう。
そっか、新しい同級生。どんな人間だろうか、考えていれば少しは暇が紛れそうだ。
竹刀袋を抱え直した少女が駅構内へと消えていく。

発車まで数十分を残して、ぽつんと小さな雨粒が落ち始めていた。