昔のはなし➀

◎昔の話



「ねぇじゅんくん」


さっき芽依が涙で目を潤ませながら家にやってきた。これはただごとではない…多分。


「どしたの?」


こんな寒い中歩いてきた芽依のためにココアを入れる。基本俺は飲まないけど、芽依が来たときのために置いてあるのだ。


「なんでアイドルって普通に恋愛できないんだろ…」


芽依だって、いくらアイドルでもまだ高校2年。青春真っ盛りに恋愛できない辛さは俺も知っている。


「アイドルだって人間じゃん。どうしてさ…別れなきゃなんないのよ…!」


「事務所の人に別れさせられたの?」


「うん…。前もね、言われてはいたんだけど、別れなかったの。

でも今回それがばれちゃって。その場で電話かけさせられた」


「うちの事務所もどぎついね。やることが」


「もうやだよ。私アイドルである前に人間だもん…。普通の恋したいもん…」


「でもね、芽依。普通の恋をしようと思ったらアイドルやめなきゃいけなくなる」


「なんで!?潤くんまでそんなこというの!?」


「落ち着けって。あのな、俺たちにはファンっていう存在がいるじゃん。その人たちはさ、俺たちが「○○でコンサートやります。来てください」って言ったら来てくれるじゃん。ファンだけだよ、そういうの。

彼氏も遠かったら来てくれないでしょ?だから、応援してくれている人のために本当に隠し通すか、そういうのは一切やめるかどっちかなんじゃない?」


芽依だってまだ高校生で、周りはそういう話が出ているんだろう。でもこの世界じゃそんなことでは通用しない。普通の世界なら通用することも通用しないような世界だから。



「事務所の人にもおんなじようなこと言われたよ。「普通に恋したいならアイドルやめろ」とか「ファンに失礼でしょ」とか。ずっと「私の気持ちなんかわからないくせに、適当なこと言わないで」って思いながら聞いてた。事務所の人たちって普通の恋しようが勝手じゃん。いいよなって。

でも潤くんに言われるとまた違うんだね。おんなじ世界にいる人に言われると「そうなんだ」って納得しちゃう(笑)」


「ちょっとはすっきりしましたか?」


「しばらくは引きずっちゃうかもだけど…結構すっきり!ありがとう」


「いやいや。よかったよ」


こんなに恋に悩んでた芽依が翔くんと誰もがうらやむような恋に落ちるのはもう少しあとのお話。




昔の話