出産
病院に着くとすぐに診察室に通された。
「出してあげましょうか」先生がモニターを見ながら言う。
「…産むってことですよね?」
「はい。そういうことです」
破水した時から覚悟はしてたけど、こんなに早く事が進んでいくんだ…。
「芽依本当にいいの?櫻井さん」
「だから大丈夫だってば(笑)。しぃちゃんもいるんだし」
診察が終わると、病室に運ばれた。点滴を打ってもらって、看護師さんに「安静にしててくださいね」と言われる。
「芽依怖くない?」
「ん?なにが?」
「ほら、もしかしたら帝王切開かもって…」
さっき診察室で言われたこと。
なかなか出てこないようなら、帝王切開に切り替えるかもしれない。
そりゃ、怖くないわけない。
「怖いよ(笑)。でもね、そんなことより元気なこの子たちに会いたいからさ。ママ頑張んなきゃ」
「芽依…」
「芽依!!」
「え…」
慌ただしく病室のドアが開いて入って来たのは、来るはずないと思ってた翔ちゃん。
「…翔ちゃんお仕事は?」
『来てくれて嬉しい』なんて思ってるくせに言えない私が嫌になる。
「仕事より芽依に決まってるだろ?1人で産もうとすんなよ…頼むから。“俺らの子”だろ?」
「翔ちゃっ…ごめん、なさい…」
「泣くなよ(笑)」
「私、コンビニ行ってくるね」
そう言って気を遣ってくれたのか、しぃちゃんは席を外した。
「陣痛とかは?まだ来てないの?
」
「いや、来てなくはないんだけど、まだ間隔が広いかな〜
」
今の間隔は大体10分程度。家にいたら病院に連絡しなきゃな〜ってぐらい。(笑)
看護師さんにも「3分間隔ぐらいになったらナースコール押してくださいね〜」って言われてるからまだ安心。
「安産だといいなあ
「お前らママ困らせんなよ〜(笑)
」
なんて翔ちゃんがわたしのお腹をさすりながら言ってる。
「いっ…しょ、ちゃん。腰さすって?
」
「わ、わかった…
」
恐る恐る腰をさすってくれる翔ちゃん。やっぱり間隔狭くなってくるとだんだん痛くなってくるものなんだなあ…(笑)
痛みに耐えながら、いきまないようにしているとだんだん痛みが治ってきた。
「ん、ありがと、翔ちゃん。…5分か。もうそろそろかも
」
「もうそろそろか…。うわ、緊張してきた(笑)
」
「なんで翔ちゃんが緊張するのよ(笑)
」
「いやもうわかんないけどさあ(笑)。手汗ヤバいもん(笑)
」
そこから何回か陣痛がきて。
その度に腰をさすってくれている翔ちゃんの腕に爪を立ててしまっていた。
「ごめっ…爪…
」
「いいから。…もうそろそろ?
」
間隔が徐々に縮まりついに3分間隔になった。いよいよか…。
「うん…ナースコール押さなきゃ
」
「俺押すよ。あんま動くなって(笑)。今から体力使うんだから
」
こうしてわたしが分娩台の上に上がれたのは、日付が変わる少し前だった。
分娩台の上に上がったからってすぐに産まれるわけじゃないらしい。
死んじゃったほうがマシなんじゃないかってぐらいの痛さから開放されるのはいつなんだろう…。
さっきから翔ちゃんも痛がるわたしを目の前にどうしたらいいのかオロオロしているのも伝わってくる。
手は握ってくれてるんだけど、震えてるし汗すごいし…。
「しょぉちゃっん"んんっ…!!
」
翔ちゃんに『頑張れ』って言ってほしくて、翔ちゃんを呼ぼうとしたけど、同時に痛みが襲ってきた。
痛みが引くと翔ちゃんの手が離れていくのがわかった。
息を整えてる間にまた次の痛み。
もういつまで続くのよ…。
都姫「恵梨香ちゃん!」
「あ、都姫ちゃん!!芽依さっき入っていきました!」
芽依が分娩室に入ってから30分後くらいにお姉さんの都姫ちゃんが来てくれた。
都姫「まだ、そうだね。一応親にも連絡入れたんだけど明日の朝イチまで来れないらしくて」
「そうですか…。多分おにぃたち…メンバーさんはもう着くって二宮さんから連絡が」
都姫「そう。あの子もいいメンバーさんに恵まれたわね(笑)」
「しぃ!!
」
そんな話をしていると、おにぃたちが到着した。
ずいぶん急いで来たみたいで、みんな息が上がっている。
「まだ、だよな?
」
「うん…。さっき入っていくときもすごい痛そうだった…」
「翔さんは中入ってるの?
」
その時、松本さんの問いかけと同時に櫻井さんが分娩室から飛び出してきた。
その顔はもうなんというか…死んだような顔してた。
「…ダメだわ、俺。芽依の苦しんでるとこ見てられない
」
そう溢した。
しばらく誰も言葉を発さない中、隣からため息が聞こえた。
都姫「すいません。誰でもいいんですけど…じゃあ大野さん。
ちょっとだけ芽依のところ行っててやってくれませんか?絶対翔くんに変わらせますんで」
「翔ちゃんの代わりしてればいいのね?わかった
」
そう言って芽依のいる分娩室に走って行った大野さんを見届けてから都姫ちゃんは俯いて座ってしまっている櫻井さんのところに向かった。
都姫「翔くん。今のままだと産まれる瞬間見るの大野さんだよ?芽依がママになった瞬間見れるの大野さんだよ?もしかしたら一番初めに赤ちゃん抱くのも大野さんかもね。それでもいいの?」
さすがにパパを間違えられるってことはないだろうから、一番に大野さんが抱き上げるってことはないだろうけど。都姫ちゃんは脅しも込めて言ったのだろう。
「芽依ちゃん今頃大ちゃんに泣きついてるかもよ?早く行かなきゃ!
」
「芽依も翔さんのこと待ってるって。早く行ってやりなよ
」
「わたしからも、お願いします」
櫻井さんに向かって頭を下げる。今の芽依には櫻井さんが必要なんだ。
しばらく沈黙が続く。
それを破ったのは櫻井さんだった。
「いってくるわ
」
そう一言だけ言って分娩室に入って行った。
わたしたちのいる廊下が安堵の表情で溢れる。
これで芽依も安心して産めるのかな。
"翔ちゃんがいない"
そう気付いたのは痛みが引いてきた時。
「しょぉちゃん…?
」
その問いかけに答えたのは翔ちゃんではなく
「芽依?ど?
」
智くんだった。
「え?さとっ…
」
「いいよ。しゃべんなくて。翔ちゃん絶対戻ってくるからそれまで俺の手掴んどきな?
」
「ありがと…
」
智くんはずっと手を握ってくれて、爪を立ててしまっても怒らないでいてくれた。
「智くん
」
「あ、翔くんきた(笑)。待ってたよ
」
「ごめんありがとう。芽依、あとちょっとだから。一緒に張ろうな?
」
あまり喋れないから縦に頷くだけで翔ちゃんには伝わったみたいで。翔ちゃんの代わりをしてくれてた智くんは部屋から出て行った。
「櫻井さん、もう1人目産まれますからね〜!」
先生のその声が聞こえて翔ちゃんの手を強く握った瞬間
んぎゃー!!!!
元気な産声が聞こえた。
「おめでとうございます。男の子ですよ〜!あと1人もう出るからね〜!」
1人出てしまえばなんだか気持ちが楽で。それが原因なのかなんなのか。2人目の産声もすぐに聞こえてきた。
「お疲れさまです。女の子ですよ〜!!」
「よ、かった
」
翔ちゃんの方に目をやると。声を殺して涙を流しているのが見えた。