※数年後想定のお話







 春夏秋冬という四季があるこの国で、どの季節が好きか? なんて深そうで浅そうでもある話題になることはよくある。それまでの自分は特にこだわりもなかったため、当たり障りなく「過ごしやすい秋かな」なんて答えていた。

 しかし、恋人ができて数年。今同じことを問われれば、迷いなく「冬」と即答する。



 それなりに浅いいつもの眠りから覚めて、体を動かすことなく瞼を持ち上げる。ふと見下ろした腕の中には、同じベッドに少し離れて寝ていたはずの恋人が擦り寄るようにして自分にくっついて眠っていた。

 なまえはあまり朝が強くない、というのはこうして泊まることが増えてから知った。僕には劣るといえども一般的な成人男性に比べると圧倒的に体力があるので、前日の行為が翌朝の目覚めを左右するということはあまりないけど、疲れや睡眠時間に関わらず朝スッキリと起きられる側の人間でもないらしい。
 自分はなんとなく毎朝6時頃には自然と目が覚めるタイプなのと何かあっても伊地知が連絡してくるので基本いつも目覚ましをかけないが、なまえのアラームは基本の起床時間である7時──ではなく、6時半から5分または10分おきに数回鳴るよう設定されている。

 真面目でしっかりしてるのに朝が弱いってちょっとかわいいというか、周囲がなまえに抱いてるイメージを考えると少し想像しにくいので、もしかしたら僕しか知らない一面なのかもしれないという優越感がある。ただまあ、とはいえアラームについては一般的だと思うからそれは四季には関係ない。

 冬が好きだというのは、寝起きの悪いなまえが寒い日にだけ見せてくれる、今のこの体勢のことである。

 15cmほどの身長差に加え、鍛えていても細身ななまえと、着痩せするタイプだとは思うけど実際はわかりやすく筋肉がつく体質である自分。身長差と体格差ですっぽりとおさまる恋人が自分の腕の中で無防備に眠るのが堪らない。

 初めてこの体勢になっていた日は僕が寝ぼけて無理やり抱き込んでしまったのかと思ったけど、ふと夜中に目が覚めた時にそのままぼーっとしているとちょうどなまえが眠りながらも僕に擦り寄ってそのまま身を寄せていたのを見て真相に気付いた。そして季節を何度か過ごすうちに、そのイベントが発生するのが寒い日だけだということが分かったのだ。僕は筋肉質だからか体温が高めだから、暖かさを求めてのことだろう。鍛えていて良かったと思った。

「……ん……」

 なまえが微かな声とともに少し身じろいだ。まだアラームは鳴っていない。というか今日はせっかくのオフなので、なまえの反対側の枕元に手を伸ばして勝手にスマホの電源を落としたので鳴ることはない。

 ただなまえだってもちろんアラームがない限り目覚めないというわけでもない。ゆっくり寝かせてあげたいけど今日はもう起きるかなと思っていると、「んー……」と幼さのある声で唸るなまえ。

 なまえに好意を寄せている補助監督や事務員はそこそこ居るのは知っているけれど、そいつらはこんな可愛いなまえを知らないし今後知ることはない。ある意味一番の警戒対象である冥さんもしかり。そんな性格の悪いことを考えてしまうほどには、寝起きのなまえを気に入っている。

「……んん」
「………」
「……なんじ……?」
「まだ早いよ。もうちょっと寝よ」
「ん……」

 そう答えると安心したのか、再び腕の中に寄り添ってきたなまえ。オフな訳だし起きるには早いので嘘はついていない。ついてないからもう一度眠るなまえは間違ってないけど、こうも無防備に信じられるとなんとも言えない気持ちになる。悪い男に捕まった無垢な存在をそうと知りながら唆している心地になるというかなんというか。

「……好き。僕以外に見せたらダメだよ」

 聞こえるか聞こえないかの声でそう言って思わずなまえの頭を撫でると、なまえが再びゆっくりと瞼を持ち上げた。せっかく寝るとこだったのに今度こそ起こしたかも、と思って何故か咄嗟に目を瞑って寝たふりをしてしまったのでじっとしていると、ふに、と下唇にほんの一瞬だけ柔らかいものが触れた。………は?

「おれも」

 いつもより少し舌足らずな言葉が聞こえてすぐ、また規則正しい寝息が聞こえてきた。寝ぼけてあんな風に喋るなんてかわいい。それはそうなんだけど、それよりも。

 さっきの感触ってもしかして、キスじゃなかろうか。なまえから? キス? 

 してほしいと頼めばそりゃしてくれるけど、なまえはあまり積極的なタイプではない。基本的に遠慮がちで、僕に対して嫌われることを恐れるあまり自分から触れてくること自体が少ない。そしてそれは自分が撒いた種でありそれを数々の愚行で育てたのも自分なので、何年かかろうともめげずになまえと対等な恋人になれる日まで頑張りたいと思っている。
 そんな日常だからこそ、この冬の日になまえからくっつかれている事実に浮かれているわけで。

 すやすやと眠りつつまたあざとく身を寄せてくるなまえに気付いてようやく我に帰ったけど、六眼だとか関係なく本当に普通に目を閉じていたせいでレアすぎる行動を目に焼き付けられなかったことに対しての後悔がものすごい。
 もう一回してくれないかなと頬を撫でたり目尻をくすぐったりしてみるけれどなまえは目を覚ますことなくて、そのくせ唇にそっと指を添えて少しだけ押し込んでみるととちろりと僅かに舌先が触れさせられたものだから正直ムラムラして、なまえが自然と目覚めるまでの30分間を悶々として過ごすことになった。

 目が覚めたら最終的に僕を抱き枕にしていたなまえが慌てて距離を取ろうとするのでついつい腰を抱いて熱を押し付けることになり、朝から盛ってしまって今後別室で寝ることを提案されて焦るのは、また別の話である。