一週間の出張後はじめての行為。行為自体10日ぶりくらいで、さすがにいきなり突っ込まれたりするとそれなりにキツそうなので、事前にシャワーを浴びて後ろを準備してから五条の家に向かった。

 いつも通り寝室に案内されたので、ズボンと上着を脱いで、そのまま下着も脱ごうとしたところで、五条にそれを遮られた。

「シながら僕が脱がせるから、そのままでいいよ」

 言葉の意味が分からないまま、とりあえずいつも通り四つん這いになる。シながらと言ってもただ突っ込むだけだろうに、と思いながら待っていると、五条が後ろから覆い被さり、片手で俺の前のモノに下着越しに触れた。思わず声が出そうになったのを堪えていると、その手がそのまま服の裾から手が侵入して腹筋をなぞり、胸の尖りを指先で弄るように動く。
 今まで何度も抱かれたがそんなことは初めてでぞくぞくと快感を拾いそうになって、思わず五条の手を掴んで止める。

「何すんの」
「え、や、別に俺に触らなくても……」
「なんで?」
「いや、もう後ろ、挿れていい、よ? ある程度準備、してきたし」

 男のモノを受け入れる準備をしてきたと言葉にするのは多少羞恥があったが、今は何でも良かった。とにかく五条の奇行(本来の手順では前戯として合っているのかもしれないけど)を止めたくてそう言うと、五条は何も言わなくなった。
 無言のままボクサーパンツが下され、いつも通りに腕を噛む準備をして待つが、与えられた刺激はぬるりとローションを纏った指が一本侵入したのみだった。

「五条……?」
「なに?」
「えと、ごめん。気分じゃないなら、」
「そんなこと言ってないでしょ」

 指が2本に増やされた感覚があって、ナカが丁寧に押し開かれていく。何度か足されていくローションだって、今までも使われてはいたけどこんな馴染ませるようにゆっくりと塗りたくられることはなかったし、指が出し入れされる感覚にぐちゅぐちゅと水音が連動するようなこともなかった。
 経験したことがない優しさを感じさせるその指先が前立腺を掠める。いつものモノで押し潰されるような暴力的な快楽と違って、ぞわぞわと這い回る快感がもどかしい。

「……腰、揺れてる。気持ちいい? もっと触って欲しい?」

 五条の声で初めて、自分が強請るように腰を揺らしてしまっていることに気付いた。無意識下の行動に羞恥心が募る。もっと熱くて太いものでそこを突かれたいという、はしたない思考が恥ずかしくて、何もかもを抑えるようにただただ腕を噛んで堪えた。
 勘違いしてはいけない。五条は夏油を抱いているだけ。今まではただ捻じ込むだけだったけど、前戯もしてみたくなったんだろう。これらは全て俺にではなく、夏油に対しての言葉と行為だ。

 結局この日は後ろを弄られながら前を扱かれて先に俺だけがイかされた。その後はいつも通り抱かれたけれど、俺はとにかく恥ずかしいのと困惑とで訳がわからず、いつもより素早く服を着て、五条の部屋を後にした。背中に視線が刺さったけれど、これは最近は恒例となっていたことなので慣れた。


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 五条はどうしたのだろうか。あれから色々と様子がおかしいことも含めて、最中にあまり夏油の名前を呼ばなくなった気がする。もう親友のことは昇華できつつあるのかもしれない。そうなるといよいよこの行為ももうすぐ終わりだろうな、と思い始めたとき、「あのバカが風邪ひいたらしいから見舞いに行ってやってくれないか」と家入さんに言われた。

 薬を受け取り、コンビニでゼリーやインスタントのお粥、冷却シートなどを買い込み、五条の部屋を訪れた。事前にメッセージを入れたが既読がつかないので寝ているかもしれない。
 起こすのも忍びないので、一度だけインターホンを押してもし出なかったらマンションのコンシェルジュに預けようと思い、エントランスで部屋番号を押して呼び出すと、すぐに「はい」と五条の声がした。

「俺だけど、家入さんから薬預かってるから届けに来た。少しだけ上がっていい?」
『………』
「……五条? 大丈夫?」
『っだ、いじょうぶ。上がって』

 カシャリと解錠された音が鳴り、通話は切れた。少しぼーっとしているようだったし、熱が高いのだろうか。

 五条の部屋のドアを開ける。顔を赤くして少し息苦しそうな五条が出迎えた。いつものサングラスや目隠しはしておらず、熱のせいか瞳が潤んでいて六眼がいつもより更に綺麗に見えると、不謹慎なことを思ってしまった。

「寝てたよな、起こしてごめん。歩ける? ベッド行こう」
「ん……」

 フラつく五条を支えて寝室へ行き、そのままベッドに入ろうとする五条を制した。背中に触れた時に汗で服が少し濡れていたので、このままじゃ熱が下がらない。替えのパジャマの場所やタオルの場所を聞き、服を脱がせてタオルで身体を拭く。色々とされるがままになっているところを見ると、相当辛いらしい。

「食欲ある? 薬飲んでから寝たほうがいいけど、その前にゼリーとか食べられそう?」
「……食べる」

 ゼリーを開け、プラスチックのスプーンで一口掬って五条の口元へ持っていくと、驚いた顔をした五条は、ゆっくりと口を開け、ぱくりと食べた。俺はと言えば、そこでようやく我に帰った。

「……ごめん。自分で食えるよな」

 弟がいるために、癖でつい世話を焼きすぎてしまった。アラサーの男が同年代の男にすることではなかったと反省し、ゼリーとスプーンを五条に渡そうとするが、手を出す様子はない。どうしようかと思っていると、五条が薄く口を開けた。

「……食べさせて」
「へ、あ、うん」

 言われるがままゼリーを口に運ぶ。見慣れない五条のその行動に、心臓がどくどくとうるさい。風邪をひいて身体が怠いから頼んだだけだろうと思うけど、それでも頼られて嬉しいと思ってしまった。俺はどれだけ五条のことが好きなんだ。
 五条にとって俺は夏油の代わりでしかないのに、馬鹿にも程がある。ずきずきと何処かが痛むなんて間違ってる。

 ああもしかして、五条は過去に夏油にもこうしてもらったのかもしれない。さっきの着替えも今もそれに重ねているなら、おとなしいのも頷ける。
 心臓と肺の隙間あたりが痛い。ずきずきとしつこい。最初から分かっていたことだろう。分かっていて全部を受け入れ全部を委ねたのは、俺なんだから。

「……ねえ」
「っ、」
「いま、何考えてたの」

 五条の声に意識が引き戻される。何を考えていたか。五条には絶対に言えないことであることだけは確かだ。

「……なんでもないよ。五条に迷惑をかけるようなことじゃないから」

 五条に信じろと言うのは無理な話だろうけど、努めて何もないことを伝えたくて言葉を選んでいるのに。俺がそう言った時、その綺麗な顔が一瞬悲しそうに歪んだ気がするのは、どうしてだろうか。