先日、俺を襲撃しようとした少年を捕らえたと、側近の消太から連絡が入った。秘書兼世話役の出久と天哉にスケジュールを確認した上で、その少年に会いにいく。
「はじめまして。まずは、手荒な真似してごめんな」
牢屋の鉄格子越しに見た顔には今にも噛みつきそうな表情で、思わず苦笑した。少年はかなり抵抗したらしく、至る所に包帯が巻かれてあった。手当をするよう命じたけど、黙って手当されるような性分ではなかったらしい。本来なら個性で治せるが全く大人しくできないからと、ファミリーの看護係であるばぁやが半ば諦めるように報告してきたのは記憶に新しい。
「俺はミョウジ ナマエ。一応、ここのボスだ」
「!」
「名前を聞いても?」
視線を合わせるようにしゃがみこんでから名乗ると、少年は意外そうな顔をした。まあ、自己紹介すれば9割の人間がその反応だから、もう慣れたけど。俺はこのファミリーのボスになるには早すぎるし若すぎる。年齢にして、成人してから漸く3年が経った程度だ。
しかし、親父に任されたから仕方ない。ウチは本当に家族みたいに仲が良いから、幼少期からの顔なじみばかり。まだまだ不甲斐ない俺を、みんなよく支えてくれている。
「言わないなら、とりあえず今後はボム助くんってアダ名で呼ぶけど」
「……ネーミングセンス糞かよ」
「酷いなぁ。じゃあ名前、教えて」
「……、かつき」
かつき、かつきか。ぷい、と顔を反らしながらそう呟いた表情は、年相応に見えた。
「どんな字書くの?」
「知らね」
「……ちなみに苗字は?」
「知らねえし、必要もねえ」
「そっか、」
親が居ないか捨てられたか。言いたくないというより本当に知らないという感じだったから、前者だろうか。
今回の案件は、部下に確認したところ、俺が誰か知ってて襲ったというより、たまたま俺だっただけ、という感じ。また、戸籍なんかが見つからず、住所も不明。家がない可能性が高いとのことだった。
そんな子どもが何のツテもなく俺たちのことを知るわけないし、ボスである俺の顔を知って狙うわけがない。この子はたぶんシロ、ただし一応個性を使って手を出してしまってるから、W表Wに完全釈放は時間がかるな。
個性だけは把握しておかないと危険だからと、和平を結んでいる組のW個性をコピーするW個性を借りて確認済み。この子の『爆破』は隠密には向かないが、捕縛時の報告では身のこなしが身軽なのも相まって、強力で使い勝手の良さそうな個性だ。威力限界は当然あれど、さほどのデメリットらしきものは今のところ無し。
この子自身の能力を底上げすればとても戦力になりそうな個性であり、このまま警察に引き渡す人材としては惜しい。
だから身元に関するアレコレは特に本人の口から聞いて、その上で話をしたかったけど、知らないなら仕方ない。
「家族はいる?」
「……ンなもん、いねえよ」
「じゃあ、俺となろう」
「は?」
「うちのファミリーの一員にならないか?」
その時の少年の顔は、何も言葉にせずとも「何いってんだコイツ」と顔に書いてあったので、今度は思わず笑ってしまった。
さて、交渉はできれば3分以内、考慮する時間を十二分に与えたとしても、その一晩でまとめるのが理想だ。
▽▲▽▲▽
W話し合いWで、相手の首を縦に振らせるのは得意な方だ。
かつきは無事にウチの一員となり、まあ思った以上に口調が粗暴だったため世話役(特に天哉)とは早々にぶつかったが、いずれ配属される護衛部隊(いわゆる戦闘部隊だ)にはコミュニケーション能力がより高い鋭児郎や電気もいるし、きっとなんとかなるだろう。
教育係に消太を指名し、彼から時々報告を受ける。最初こそ常識的な部分や精神面での問題点も多かったみたいだが、覚えが速いようで、割とすぐに特筆すべきことはなくなった。
3ヶ月後に受け取った報告書では、戦闘センスに長けており、個性の使い方も様になってきたとのことだった。才能がある、と珍しく褒める消太に、しかも教える方が上手ですもんねと言ったら、おだてたところでボス自身の訓練メニューは減らないぞと言われた。バレてたか。
「あ、お疲れ。今日はもう終わり?」
「……おう」
「ちょうどいいや、ちょっと手伝ってくれる?」
朝の訓練のあと、最近できてなかったところへ挨拶回りをいくつかして、視察も終えて帰ってきたら、時刻は22時を過ぎようとしていた。皆には先に食べるように伝えてあったし、シェフにも21時までに戻らない日は休んでもらってるから、晩御飯(というより夜食)をこれから作る。
「……わ、手際いいね」
「別にフツーだろ」
「そんなことない、凄いと思うよ」
くしゃっと頭を撫でたら、思いのほかふわふわの感触が癖になって、しばらく堪能してしまい、かつきがじとりとこちらを見るまで気付かなかった。ごめんな、と謝れば「謝らんでいい」とそっぽを向いた。猫みたいだなあ。
俺の夜食はかつきの手際の良さもあり、量は控えめに作ったものの、一汁三菜の揃ったとても豪華なものになった。この時間に食べる量としては多いけど、せっかく一緒に作ったし残したくはないな。
「そういえば、最近はどう?ファミリーの雰囲気とか、訓練とか座学には慣れた?」
「フン、余裕だわ」
「頼もしいなあ」
実際、戦闘訓練も勉強も、とても優秀であると言えるので、すごい才能を秘めていると思う。気になるのは、本人が快適に生活できているかどうかくらいなんだけど、まあ徐々に慣れてくれて、本当の家族みたいに思ってくれたら嬉しい。
「あ、そうだ」
「……?」
「かつきの名前、考えてみたんだけど」
「はァ?」
「ごめんごめん、言い方が悪かった。苗字と、名前の漢字。無いと不便だから考えてみたんだけど、どう?」
そこらにあった紙とペンで書いて見せると、かつきは紙と俺とを交互に見た。即刻拒否、という感じではなさそうなので、ちょっとホッとした。
「『爆豪 勝己』。爆破の個性と、豪って字には、力や才知にすぐれた人、って意味があるんだって。それと、己に勝つ、で『勝己』。消太……、相澤から聞いたけど、自主練もしてるんでしょ? ストイックに頑張ってくれてるから、この字が良いんじゃないかなと思って」
「……アンタが、考えたのか」
「え? うん。やっぱりだめだった?」
「………ぃ」
「え?」
「それで、いい」
言葉にすると「それでいい」なのに、「それがいい」と言ってくれてるように聞こえるのは、きっと気のせいなんだろうけど。照れたように目を伏せるその様子がかわいく思えて、テーブルから身を乗り出して頭を撫でた。
「改めてよろしく、『勝己』」
「……ん」
その日の夜食は、とても美味しかった。