五条悟・夏油傑(高専)の場合




「……もうむり。しばらくやんない。禁欲しろ」
「え?」
「は? なんで?」
「悟も傑もしつこい。昼から盛りすぎだし」

 啼かせすぎたせいで少し枯れた喉から発されたのは、傑とともに禁欲をしろという死活問題な一言だった。なんならもう1ラウンド強請ろうとすら思っていたので、猫缶を目の前にしてお預けされる野良猫はこんな気持ちなのかもしれないと思う。高専の裏庭に住み着いていて時々ナマエに構われている嫉妬から少し意地悪をしただけなのでその件については許してほしい。





 外泊届を出して恋人と一緒に外に遊びに行けば、ヤることは一つしかない。昼飯食ってダラダラ遊んで、あー触りてえなって思ったら傑とアイコンタクトをしてホテルに誘う。ナマエは俺の顔と健気な言葉に弱いらしく、大抵流されてくれる。ちなみにこれは傑談で、「普段悪ガキの悟に、あの顔で控えめにお願いされると弱いんだよな……」と溢していたらしい。それ以来、なんとか押し切ってイチャイチャしたい時にはそうするようにしている。プライド? そんなもんより大事なもんがあんだよ。

 寮だと壁が薄いから声を抑えるナマエもホテルならエロい喘ぎ声だって聞かせてくれる。あと男3人でも余るぐらいの馬鹿デカいベッドがある部屋を取れば、たとえばベッドの端の方で傑が一回ヤってそこがぐちゃぐちゃになっても反対側に移動すればまたすぐ俺が次を始められるし、そういうことをするための部屋の雰囲気からか普段より更に流されやすいナマエは俺と傑が求めるままに抱かせてくれる。

 声も表情も仕草も全部が俺達を煽って、正直言って服も脱がずにキスしながらちょっと擦り合わせるだけでも気持ちよくてやばい。

 ただ、挿れたときのナマエのナカ気持ちよさとかナマエの声とか表情のエロさとかの比じゃないし、俺や傑ほどじゃないにしろ術師としても普通にそこそこ強いはずのナマエが俺達に足開いて善がってるのがたまらない。普段はちょっとツンツンしているナマエがベッドの上で従順になるその様子にも興奮する。それを知ってしまったから、服の上から触るだけだとか抜き合いだとかではもう満足できない。

 つまり何が言いたいのか。禁欲なんて出来るわけないということである。どれだけ術式も眼も家柄も普通じゃなかろうが、この身体はあくまで健全な男子高校生だ。そりゃフリーならオナったり適当な奴ひっかけたりするんだろうが、エロい恋人がいる思春期の男が我慢なんかできるわけがない。
 つまりどうにか撤回させないといけない。無理やり事に及んだらナマエの要望を無碍にすることになって、そうしたら案外頑固なところがあるナマエの機嫌を損ねてこの禁欲宣言とやらが長引く可能性だってある。それは避けたい。

「あー……、昼からは嫌だったっつーこと?」
「……そういう問題じゃない」
「じゃあ痛かったとか? 夢中になってしまって、無理をさせたかな」
「…………別にもう痛くは、ないけど」

 良くなかったか? とは傑も聞かなかった。だって俺たちが言葉を強請らなくても「きもちいい」っていつも言ってるし。そりゃ初めてシた時は痛いとか苦しいとかから始まって、やだとか一回抜いてとかそういう否定的な反応ばっかりだったけど(ちなみに最後のはめちゃくちゃにエロくて理性が飛んで一気に腰を進めて拗ねられた)、回数を重ねる毎にだんだんそれも言わなくなった。「だめ」「動かないで」とかは言われるけどまあ、「W気持ち良すぎてWだめ」の意味だと分かるし感じまくってるのは一目瞭然なので気にせず揺さぶってるけど。ちなみに何か言えば言うほど俺たちを煽る結果になってることにナマエは気付いてない。

 あー、やばい。色々考えてたら勃ちそう。ナマエがその気じゃないならとりあえず傑のメイド姿でも想像して萎えさせようとしていると、シーツにくるまったナマエが目線を泳がせた。

「俺がもう無理って言ってんのに、そこから何回も突っ込んでくるし」

「止まってって言ってんのに止まってくれないし」

「デカすぎて苦しいって言ってんのにもっとデカくするし」

 ぽつぽつと恥ずかしそうにしながらそう呟くナマエには分からないだろうが、俺は隣にいる傑の心情は手に取るように分かる。というか互いに分かっていると思う。ナマエに言いたいことは色々あるが、着地点は「は? 何こいつブチ犯してえ」だと思う。何故なら俺がそう思ったから。なのに当の本人は煽るだけ煽って禁欲宣言してミノムシ状態である。もう俺らが可哀想まであるだろ。

 ていうか何シーツに丸まってんだよあざといなこいつ。かわいいキャラしてるけどシーツ剥いだらパンツも履いてないからまあまあ据え膳だ。だってパンツ履いたまま触ってイかせたせいで汚れたから洗って干してるとこだし。

 そもそも最後の何? デカくしたのはお前だよ、と言ってやりたいけど我慢。がまん、したいけどやっぱこれ無理じゃね。

「ごめんね、ナマエ。気持ちよすぎて苦しかったね」

 俺があれこれ考えている間に傑がまず特攻した。まずは受け入れて謝ってからのナマエの状態への刷り込み。相変わらず口が上手い。「気持ちよすぎて」とわざわざ言ったのはたぶん、ナマエが行為の時に言う否定的な言葉はあくまで『過ぎた気持ちよさからくるもの』であり、『負担を強いた結果』じゃないと思わせるためだと思う。早いところ機嫌を直してもらってもう一回抱こうってハラである。まあそこは俺も同意見だけど、俺にはそんなまどろっこしいことは無理だった。

「仕方ねえだろ。お前の『やだ』は『いい』ってことだし、『だめ』は『イきそう』ってことだし、だから何言っても『もっとして』って言ってんのかなって思うだろ」
「は……!?」

 シーツにくるまるナマエの横に寝転がって抱き締める。風呂に入れてやったのでシャンプーの匂いと、ナマエの匂いがする。傑が反対側に寝転んでナマエの髪を触る。

「俺、お前が気持ちよすぎて泣いてんの好きだし」
「分かるな。イきすぎて苦しいんだけどナカは気持ちいいの続いちゃって泣いちゃうナマエ、かわいいんだよね」
「……っそ、れは、お前らが、」
「あと俺、あれ好きなんだよな。上乗ったときに上手くイイとこ当てらんなくてぐずってんの、腰にクる」
「騎乗位だったらあれじゃない? 脚とか力入んないから一気に挿入っちゃって『奥当たっちゃう』って泣いちゃうやつ」
「あーあれもエロい。あとさ、バックでしたら奥まで入るじゃん。その時に『もう挿入んない』って泣くお前の、この細い腰掴んで一番奥に俺のでキスすんの。あれたまんねーわけ」

 とりあえず唯一布団から出ているその顔をこっちに向かせて鼻の頭にキスすると、ナマエはぶわりと赤くなった。胸の辺りに手を添えると戸惑った顔でみじろぐ。ああかわいい。セックスのときとはまた違う可愛さだ。

「も、いいから黙れ……!」
「えー? おまえが襲うのダメっつーから、ムラムラすんのを恋バナで鎮めようとしてんだけど」
「恋バナじゃねーよ下ネタだろ!」
「好きな子の好きなところを語るんだから恋バナだろう?」

 傑が頬にキスをして、布団越しにナマエの腰ある辺りを撫でた。ナマエは照れるだけとは違う、何かを期待して、そしてそれを恥ずかしがっているような顔。

 そのままのしかかるような体勢になって唇を塞いで舌を擦り合わせる。W恋バナWの続きをするとしたら、ナマエにキスを強請られるのも好きだ。気持ちよさを受け止めきれなくて泣くナマエの涙をゆっくり舐め取っていると「さとる、キスして」って言ってくるのが最高にかわいい。ナマエも多分キスが好きなんだろうなと思う。現にキスだけで蕩けて物欲しそうな顔してるし、シーツを半分剥がれたこともたぶん気付いてない。これで禁欲だなんて無理があると思うけど、ナマエがそう言うなら仕方ないので、俺と傑に弄られてすっかり性感帯の一つになった胸の尖りを舐めた。

 別に、本気で言ってなかったわけじゃない。慣れてくればそりゃ気持ちはいいけど、腰も尻も痛いし終わった後は動けないしで身体への負担はとんでもない。だから本当にしばらくしないつもりでそう言ったのに、シてる時のこういう顔がエロいとかこういう仕草が興奮するとか死ぬほど恥ずかしい話で自分の痴態を想像してしまって、そのあとに悟にキスされて。散々抱かれた俺の身体は熱が燻ってたのかそれだけで気持ち良くなって、だけど悟と傑は俺の言ったことを馬鹿みたいに捻じ曲げて「挿入れなきゃいい」と解釈したらしく、胸とか耳を舐めたり甘噛みしては俺の反応を楽しんでいる。

 自分の甘ったるい声が漏れそうになるのを手で抑えるも、「キスしようか」と傑に促されれば手を退けてしまう。こいつらのせいで胸だけでもぞくぞくと気持ちよさを感じるけど、物足りない。イけない。前を触りたい、と思ってそこへ無意識に伸びていたらしい俺の手を、悟の手が阻んだ。

「俺ら頑張ってW禁欲Wしてんだから、ナマエも触っちゃダメだろ?」




2023.05.20