俺の恋人は強くて格好良くて紳士だけど、たまにすこぶる機嫌が悪い。理由を聞くと「貴方が変なモノをつけてくるからです」と言われたので、とりあえず謝っておいた。

「貴方が悪いわけではないです。ただまあ、少し危機感を持ってください。……持っていても無駄なこともありますが」
「? うん、分かった!」
「………」

目頭を抑える建人が少し心配ながら、仕事に戻った。







「なまえ、お疲れサマンサ〜」
「五条さん、お疲れさまです! よろしくお願いします!」
「うん、よろしくねー」

五条さんの任務同行のときが、おそらく補助監督としての仕事が一番少ない。帳を下ろす。五条さんが祓い終えて帰ってくる。この間、僅か20秒。これは一級呪霊が数匹いる任務だったはずだけど。

「お疲れさまです! さすがですね……」
「ふふ、なまえはいつも褒めてくれるから僕、やる気でちゃうなあ」
「それはよかったで、す?」

五条さんは俺の頬に手を伸ばして、すりすりと撫でた。頬から耳元、首筋、鎖骨と色々なところをなぞられ、くすぐったくて身を捩ると、「今日、七海に会うんでしょ?」と聞かれた。それとこれに何の関係が…?

「会いますけど、何でですか?」
「くっくっ、なんでも。ちなみにどこで会うの?」
「あ、建人の家です」
「へぇ、そっか」

楽しんでね、と言う言葉と、最後に腰をするりと撫でられて、よく分からないまま頷いた。







ということがあったのが数時間前。建人の家に言って、ちょうど自分も帰ってきたところだという建人に出迎えられて。いつもならリビングのソファにでも案内されるはずだったのに。

いま、俺は建人の寝室で、ベッドに組み敷かれている。

「け、建人? 俺、何かした…?」
「貴方は何も。ただ、我慢にも限界がありまして」
「え、」
「五条さんに、随分と良いようにされたようですね」

つう、と首筋に触れられて、ぴくりと肩が跳ねた。いつも端的でわかりやすい建人の言葉が今日はよく分からなくて、見上げてもう一度名前を呼ぶ。

「貴方が誰かと付き合うのは初めてということで、少しずつ触れたかったのですが。こうも分かりやすく挑発されて手を出さないでいられるほど、できた人間でもないので」
「ちょ、挑発……?」
「ええ。……ここも、あとはここにも。五条さんの呪力の残穢がべったりです」
「え、」
「疚しいことがないのは承知の上です。ただ、それでも今から貴方を抱きたい」

紳士なはずの恋人が、熱を帯びた瞳で言う。ネクタイを外すその姿が格好よくて雄々しくて、どこか獣の、ようで。

「すべて上書きします。……貴方が私のものだと、誰が見ても分かるように」



書きかけ供養。この後の展開として「頭がおかしくなりそうなほどぐちゃぐちゃにされる」と書いてあったのでたぶんそういうことらしいです