「なまえ。こんなところで何してるのかな?」

 男とホテルから出てきたところで、声をかけられた。聞き覚えのありすぎる声で、振り返れば案の定、五条先生が立っていた。

「……じゃあ、今日はここで。また連絡します」

 五条先生を一瞥してから、先生の持つ雰囲気に気圧されてしまってる男に声をかけて、別れの挨拶をする。男は慌てて俺から離れて立ち去り、やがて人混みに紛れていった。

「なまえ、あれ誰?」
「セフレ、ですかね」
「へえ。援交相手とかじゃなくて?」
「お金貰ってないです。別に困ってないですし」
「そうなんだ。もしかしてなまえがタチ?」
「まさか」
「だよねぇ」

 その長いコンパスを俺に合わせてゆったりと歩く先生に並んで歩く。

「なまえってそっちなの?」
「まあ……、バイです。多分」
「多分?」
「女の人とする機会が最近なかったんで」
「最近、ね。爛れてるなぁ」

 咎めないものの、いつもより探るような視線を感じる。──あぁ、だからバレたくなかったのにな。これなら、遊ぶのも大概にしておくようにと諭される方がまだマシだった。

「なまえは学校、楽しくない?」
「そこそこ楽しいですよ」
「でもヤるんだ?」
「学校とセックス、関係ありますか」
「うーん、まあそう言われると無いかもね」

 核心には触れず、だけどぐるぐるとまとわりつくような言葉と態度。やめさせたいんだろうなと思う。この人はW青春Wに拘っていて、だからきっと俺が好きでもない相手に抱かれたりしてるのが引っ掛かるのだろう。

「なまえはさ、好きな人とかいないの?」

 担任としては好きだけど、この人のこういうところが好きになれない。俺にそれほど興味もないくせに、生徒だからという理由で俺を理解しようとする。「いますよ」と答えると、今日初めて驚いた表情を見せた。驚いたと言うより、意外だと感じただけだろうけど。

「あの。失礼を承知でいいますけど、先生に迷惑かけてますか?」
「え?」
「セフレから相手を好きになって恋人になるケースだってあるじゃないですか。好きな人でもそうじゃない人でも、俺が誰と寝ても、先生には関係ないですよね」

 好きな人はいる。だけど絶対に叶わないのだ。どうせ叶わないなら、それを忘れるぐらい気持ちよくなったっていいだろう。名前と年齢しか知らない誰かに抱かれながら、心の中で好きな人の名前を呟く。何でも手に入る五条先生は一生理解することのない虚しい感情だ。

「……落ち着いて、なまえ。僕の家で話そうか」

 特別だよ、と麻薬のような優しい声とともに俺の腕が掴まれ、あっという間に景色が変わった。
 掴まれた腕に熱が集まる気がした。たとえば先生に一度抱かれれば、この馬鹿な行為を終えられるだろうか? なんて、ありもしないことを考えながら、先生に手を引かれてエントランスをくぐり抜けた。おしゃれな間接照明が暖かい光で通路を照らしていて、見た目の抜群にいい五条先生に連れられている自分がひどく滑稽に思えた。

五条先生のことが好きな夢主がその気持ちを押し殺そうと他の男に抱かれてる話。
五条先生は別に放っておけばいいのに何故か夢主のことが気になり、「誰でもいいなら僕に抱かせてくれる?」と手を出す感じの展開を書きたかったですが途中で飽きました。