1.三ツ谷との出会い

 路地裏からカツアゲかなにかの声が聞こえた気がして、三ツ谷は隣を歩いていた八戒を呼び止める。一般人が絡まれてるなら助けた方がいいな、ぐらいの気持ちで覗こうとしたところで、ドン、と人にぶつかった。

「あっ、すいません」

 爽やかで穏やかな声が聴こえ、ばちっ、と目があった瞬間に、三ツ谷はフリーズした。
 ───イケメンという言葉が陳腐な言い回しに思えるほど、整った顔がすぐ目の前にあった。まるでモデルのようなアイドルのような、そして何よりルナやマナがよく絵本なんかを見て指差しているどこぞの国の王子様のような、眩いほどのキラキラ感。

 こんな人間がこの世にいるのか。三ツ谷は目を逸らしたいような、それでいてずっと見つめていたいような心地というのを初めて感じた。

「……え、今の、人間?」

 八戒の言葉が冗談で言っているわけではないことは明らかだった。三ツ谷も同じ気持ちだったのだ。



2.マイキーとドラケンとの出会い

 ファミレスで腹を満たした佐野万次郎──マイキーは、抗えそうにない眠気に身を委ねそうになりながら、目の前の「寝るな」と繰り返す友人の声をBGMにうつらうつらと平行線を辿っていた。

店の入り口あたりで「いらっしゃいませ」と言う店員の声を最後に夢の世界へと旅立とうとしたところで、マイキーの意識が覚醒する。店へと入ってこちらへ向かってくるその男の顔を見て、さっきまで陥落させられかけていた眠気はどこぞへ飛び立って跡形もなくなり、その男を目に焼き付けようと必死だった。

まさかマイキーが寝ないどころか眠気に打ち勝つなどと想像もしていない彼の友人──通称ドラケンは視線を追うようにしてそちらを見たが、もう後ろ姿のみだった。

「……知り合いか? マイキー」
「………」
「マイキー?」

 知り合いなら迷わず声をかけるはずなのでまあ違うだろうと思いつつも、ドラケンはそう聞かずには居られなかった。離れた席に座ったのだろう、店員がランチメニューの説明をしている声が聞こえる。ものすごく噛みながらだが。

「ケンチン、どうしよう」
「あ?」
「一目惚れしちゃった」
「……は?」



3.灰谷兄弟との出会い

 六本木をブラついていた灰谷兄弟は、周囲がやけにざわついているのを感じた。自分たちはこの六本木では割と有名ではあるが、通行人は彼らに関わらないよう目を逸らしながら歩くのが常だった。
 こんなにも落ち着かない雰囲気は珍しかったため少し観察していると、竜胆は周りの視線がある一点に注がれていることに気付いた。

「……兄ちゃん」
「ん〜?」
「なんか王子様みたいな奴がいる」
「……は?」

 まさか弟の口から『王子様』なんて言葉が出てくると思わず、揶揄うでも疑うでもなく弟の視線の先を見た。
 そこにいたのは、たしかに王子様と見紛うほどの男だった。とにかく整った顔、洗練された雰囲気。なのにカジュアルな黒縁の眼鏡をかけているのがまたイイ。雰囲気としてはまるで、お忍びで街に降りてきた王子様のようだった。
 同い年ぐらいだろうか、と蘭は思案した。カフェのテラス席に一人で座り、コーヒー片手に本を読んでいる。テーブルには食べかけのチーズケーキがあって、別に珍しいことでもないのに正直言ってちょっと可愛いななどと思ってしまう。

 灰谷兄弟は逡巡した。声をかけてみたいと思ってしまったのだ。今までナンパなど、されたことは数えきれないほどあっても自分たちからしたことはない。しかも相手は男。どう声をかければいいか分からない。
 しかしここで逃せば次、いつ会えるか分からない。名前だけでも知れたらやりようがある。

 そうこうしているうちに、いつの間にかケーキの皿は空になっていた。そしてコーヒーも飲み終えたのか、灰谷兄弟をもってして王子様と称された男が立ち上がる。二人はあまりに顔面が強すぎて服装のことは視界に入っていなかったが、立ち上がったそのコーディネートはもちろん、スタイルもまた完璧で固まった。
 小さな顔、180cmほどあろうかという身長、股下に住めるのではと思うほど長い足。眼鏡は読書用のものだったのか、長い指がテンプルにかかりそれが外された。

 そこからはもう、二人はあまり記憶がなかった。素顔を直視してしまい、それがあまりに精悍で近づくこともできなかった。

 その日の二人は、もう一度会うにはどうしたらいいか、会えたとしてその時にはどう声をかけたらいいかという話題で盛り上がった。

 灰谷兄弟は自他ともに認める面食いだった。

自分でも書いていて何これ? の一言に尽きます。
おそらくですが本誌があまりに地獄だった頃(今もですが)皆のどタイプの顔した夢主がいたら平和になるんじゃないか?というよくわからないことを考えた記憶があります。

たぶんみんな最初はあまりの顔面のタイプさにうまく話せないんですが、耐性がついてくる&他のやつも狙ってると知りアタックしていくみたいな感じです。