転生、ってやつなんだろうなと思う。
 前世の記憶ってやつがあって、前世と同じ名前でこの世に生を受けた。

 全部を覚えているわけじゃない。曖昧な部分もあるし、中学ぐらいまでの記憶はそこそこ鮮明だけどその先は朧げだ。

 ただ、ひとつだけ分かること。

 オレ達全員を救ったアイツはある日突然オレ達の前から消えて、そして久しぶりに会えたと思ったらオレの目の前で死んだ。自殺だった。

 悲しいなんていう陳腐な言葉じゃ言い表せないぐらいには感情がめちゃくちゃで、本当に訳が分からなかった。

 そんな大馬鹿野郎が最期の際に呟いた言葉は3つあった。

 殺しや薬は絶対にするな。
 女と子どもと弱い奴は守って、仲間を大切にしろ。
 幸せになれ。

「ま、って、待て、なまえ、しぬな」
「しあわせに、なれ。万次郎」

 ふわりと笑ってそのまま目を閉じた。なまえが自らの心臓に突き立てたナイフ、その周りに広がるおびただしい赤。抱き起こした俺の服を真っ赤に染める、さっきまでなまえの身体を巡っていた血液が温かい気がしてそれと同時に、なまえの体温が失われて冷たくなっていく。

 息をしていないことはすぐに分かった。それでも、すぐに現実を受け入れられなかった。

 嫌だ。やめろ。一人で勝手に死ぬな。なんでだよ。なんでオレに、オレ達に何も言わなかった。なんで独りで抱え込んだ。なんで勝手にいなくなる。なんでお前だけ、いつも。

 後からヒナちゃんの弟──直人に聞いた話だが、裏社会の人間がオレやその周辺の仲間に目を付けていたようで、なまえは自分が身代わりになるから友人達には手を出すなと言って組織に入った。そして内部で独自に動き、確固たる証拠を掴んで内々に警察に突き出したため、大多数が逮捕され組織は崩壊した。

 さすがに組織に属して忠臣のフリをしていたならおそらく時折犯罪の片棒を担いでいただろうと直人は言う。
 ああ、だからだろうか。ナイフで自分の胸を刺す瞬間、「こんな俺でお前に会いたくなかった」と悲しげに笑っていた。オレはどんなお前でも会いたかったって先に言っていれば、結末は変わっただろうか。



***



 生まれ変わりなんて信じたことはなかった。だけどはっきりと前世の記憶があるし、信じるしかなかった。
 あの頃と同じようにオレは佐野万次郎として道場のあるこの家に生まれて、場地と会った。場地もオレのことを覚えていて、驚いたけどお互いにあまり深く考えない主義だ。早々に納得した。

 ケンチンと会って、その紹介で三ツ谷にも会った。一虎やパーにも会った。馬鹿なパーですら前世のことを覚えていて、精神年齢はもういっそアラサーかってぐらいだった。
 お互いに笑い合ったが、最後に誰もなまえに会えていないという話になるとみんな悲しい顔になって、一虎や場地なんかは泣きそうだった。

 なまえはオレ達を守って死んだ。つまりオレ達のせいで死んだと言っても過言じゃないわけだから、アイツへの罪悪感だって当然感じたけどそれでも会いたくて。
 なまえを探したい、今度こそ離れないよう繋ぎ止めたい、幸せにしたいと言えば、みんな頷いてくれた。

 東卍の奴らだけじゃなくて、天竺だった奴らや稀咲や半間、黒龍だった奴らにも会った。みんなアイツに救われた前世を覚えていて、だけど会えていないという。

 たとえば小学校に入れば。中学に入れば。高校生になったら。これだけ前世の人間に今世でも会えているんだから、もう少ししたらもしかしてアイツにだって会えるんじゃないかと思ってた。
 だけど覚えてる奴ら全員で探している今も見つからなくて、アイツは俺たちを残して先に逝ったからこの世界には居ないのかな、それとも会いたくなかったって言ってたから生まれて来てくれてないのかな、なんて思っていた。




 高校二年になった。こういう新学期の空気は別に嫌いじゃない。あいつらと過ごす学校生活は好きだ。
 ただ、なまえに会えない事実だけが憂鬱だった。

 転校生が来るらしいとざわめく教室。男か女かと盛り上がっている。
 正直なところ、興味なんてなかった。だから適当に窓の外を見ていて、だけどなんとなくガラリと開いた扉につい、視線を持っていかれた。

 教室に入ってきたそいつを見て、息が止まった。教師に促されたそいつは、凛とした声で言う。

「はじめまして。みょうじなまえです」




 ──やっと会えた。やっと、見つけた。
 同じクラスのケンチン達も息を呑んだのが聞こえた。

 思わず立ち上がってしまってガタンと椅子が倒れたが気にする余裕はない。ざわめく教室、狼狽える先生。それもどうでもよくて、驚くなまえに抱きついて胸のあたりに耳を寄せた。とくんとくんと、心臓の音が聴こえて泣きそうになった。

 クラスがざわざわとうるさくなる中、ただただなまえは困惑している様子で、それはオレがなまえにとってW初対面Wであることを示していた。
 そもそも、オレ達は相変わらずの容姿だから普通に席に座っていても目立つ。それなのに何もリアクションせずにただ名前を名乗ったということは、そういうことだろう。

「あー、オイ、佐野? いきなりどうした? とりあえず離してやれ」
「……うん。なまえ、ごめんね」
「え? あ、あぁうん、大丈夫」

 オレの奇行にも怒らずに、戸惑いながらも笑顔を見せるなまえ。それがW昔Wと同じで綺麗で穏やかでやっぱり泣きそうになって、どくんと不整脈が鳴る心地がする。ああ、幸せだ。なまえが目の前にいる。夢なら醒めないでほしい。

 特別。大切。みんなにとって、そしてオレにとっても。
 オレに幸せになれなんて言いながら勝手にいなくなって、幸せなはずのどんな場面でもお前を思い出して泣きそうになったこと、一生忘れてやらない。
 あの頃は言えなかったけど今なら言える気がする。オレ達と幸せにならなきゃ許さないと。

 抱きついていた身体は離したけど代わりに手に指を絡める。すらりと細く長い指。喧嘩なんか知らない綺麗な手だ。

「はじめまして。オレ、佐野万次郎。お前のこと気に入っちゃったから、ダチになろ?」
「……え?」
「これからよろしくな、なまえ」

 わざとチュッとリップ音を立てて、手の甲にキスをする。「マイキーてめえ!!」と一虎や場地が叫んだ声がしたけど知ったこっちゃない。

 大きな目をさらに大きく見開いてぱちぱちと瞬きをするなまえの手をぎゅっと握ったまま、守られてばかりだった前世の記憶を脳裏に描く。
 今度こそ絶対にオレが守って幸せにするって決めたから、覚悟しといてよ。

現代で平和なことしてる彼らが見たかったので書いてみました。ただのネタですが比較的続き書きやすそう。
スマホやら何やらがある現代なので、夢主を見つけ次第報告する用に作られたグループメッセージにW夢主を見つけたWと投稿するととんでもないことになる。