俺は鬼が嫌いだ。
だから鬼を連れた隊士なんか、仲良くなれる筈もない。

「なまえ! 今から任務に行くのか? 気をつけて!」
「……ああ、うん」

最終選別のときに、あの背が高いの(風柱の弟らしいけど地雷らしいので禁句)が女の子につっかかったとき、それを止めてその腕を折ったやつ。まああれは不死川弟(風柱の前でこう呼ぶとたぶん地獄を見る)が悪いのは間違いないけど、それにしてもあの場面でああやって啖呵をきれる人間はなかなかいない。

正義感が強いんだろう。鬼殺隊では珍しい真っ直ぐな性格で、向上心もある。下弦の鬼とも戦って生き残ったらしいし、きっと強くなるだろうなとぼんやり思った。

そう、竈門のことは別に嫌いじゃない。嫌いじゃないけど、一緒にいるのは嫌だ。理由はひとつ。そいつが俺の嫌いな『鬼』を連れている人間からだ。


▽▲▽▲▽


「……竈門」
「炭治郎でいいぞ!」
「いや、それは別にいい」
「………」

竈門は目に見えてしゅんとした。何でだ。これは俺が悪いのだろうか? いや、そんなことはどうでもいい。

「俺にあんまり近付くな」
「……? どうして、」
「どうしても」

それだけ言って、竈門に背を向ける。何か言いたそうな顔だったけど関係ない。
竈門がわざわざ俺を探すようなことをしているのは分かってた。その理由は知らないが、あれは根っからの仲間想いの性格だ。同期の俺とも仲良くしたいからってことなんだろう。

もしくは、鼻がきくのだと言っていたから、俺が鬼を──自分の妹を──疎ましく思っていることに気づいて、敢えて近付こうとしたのかもしれない。

鬼になったとはいえ、自分の大切な妹が同期の友人(とたぶん竈門は思ってる)に敬遠されるのは良い気分じゃないだろう。まあ最近は鬼は蝶屋敷にいるから、任務のとき以外は一緒に居ないが、俺にとっての問題はそこじゃない。俺はどうしても受け入れられないから、関わらないでほしい。俺も無闇に同期やその妹を拒絶したりしたくないから。


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と、そんな俺の忠告も虚しく、竈門は俺に話しかけてくる。そして最近はやたら近付いてくる。物理的に。

「……竈門、」
「す、すまないなまえ、これは、その、つい……」

今は俺の肩のあたりに竈門の顔があった。

つい近付くってどんな状況なのか、誰か説明してほしい。教えて天元さま。俺には分からないです。

「本当にごめん、良い匂いがしたから、気付いたら近くへ寄ってしまっていた、本当にすまない……!」

竈門はそう言って、真っ赤な顔で俺から距離を取った。いい匂い、というのは俺には分からないが、竈門にとっては何か分かるのだろう。自分の袖をくん、と嗅いでみるが、なるほど全く分からない。試しに竈門の羽織をつい、と引いて顔を寄せてみたが、結果は同じだった。ああでも、ほんのりと藤の花の香りがするような気もしないでもない。

「なまえ、あの、ちょっと」
「ああ、悪い。不躾だった、ッ」
「すまない。少しだけ……」

一瞬何が起きたか分からなかった。数秒ののち、竈門に抱きしめられているのだと分かったが、それが何故かという理解は追いつかない。ていうか力強いなコイツ。腕ごと抱きしめられてるから、振りほどこうにも動かせる範囲すら限られていて、とりあえず「竈門」と名前を呼んだが、無視。今まで竈門に話しかけて無視されたことはなかったので、ここから先のかけるべき言葉が分からない。

「竈門、離して」
「……もう少しだけ」
「ええ……」

すごく中途半端ですが、筆が進まなかったので供養。炭治郎が押せ押せで迫るのが書きたくて…