生まれたときからずっと、才能がないと言われてきた。家族に愛された記憶もない。覚えているのは、子どもに強いるにしては過酷な修行をさせられて、その上、後に生まれてきた弟達が優秀だったから、才能がなかった俺はW用済みWのレッテルを貼られて12歳で家を追い出された。あれは夏の終わり頃だったと思う。真夏や真冬なら死んでいたかもしれない。

 このご時世、育児放棄なんてシャレにもならないが、ある意味まかり通るのがこの呪術師の世界なのかもしれない。何かあっても揉み消せるし、思い立ったらすぐに放り出したほうが楽だったんだろう。

 あのとき、たまたま遅咲きで術式が発現して、公園にいた3級相当の呪霊を祓ったところを、たまたま任務に来ていた冥さんが見ていなかったら、俺は身寄りもなくただのたれ死んでいただろう。そのとき冥さんは「将来金になりそうなものを拾って育ててみるのも投資のひとつかと思ってね。立派な術師になって稼いで返してくれればいいよ」と笑っていたが、その分かりやすさが俺にはありがたかった。

 冥さんは気まぐれに修行をつけてくれて、俺はその合間に独学で勉強した。勉強は一通りしたものの、義務教育を受けていない俺の身元だの何だのをどう誤魔化したのかは知らないが、天気でも告げるようなトーンで「明日から高専に入学だよ」と言われた。4月1日だったので、エイプリルフールだと本気で思った。


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 そうして入学した呪術高専では、同級生が3人いたが、これが所謂天才たちの集まりで、それはもうこの学校の歴史と偉業を更新し続けているだろうと思う。同じ学年に特級が二人、その二人にもできない高度な反転術式を使えるのが一人。俺はただの一般人なので、普通に四級から。
 半年ほど経ってようやく二級に上がって、来週には初めての単独任務。入学して半年で2級に上がれるのは凄いと夜蛾先生は褒めてくれたけど、俺はそれを素直に受け止めるほど馬鹿じゃない。

 同級生の3人は俺なんかとも仲良くしてくれて、仲間に恵まれたと確かに思ったけれど。それと同時に「ああこれが才能ってやつなんだ」と思った。

 家や兄弟のことを思い出す。俺はあのとき術式が目覚めていなかったけど、それを差し引いても弟達はとても才能に溢れるように見えた。だけどそんなものとは比べ物にならないほど、こと戦闘において五条と夏油は圧倒的だった。強くて眩しくてまるで目を開けていられないと思ったとき、線引きをしなければならないと感じた。追い出されたあの日の記憶が蘇る。一緒にいてはいけない。俺には才能がないから。

 とはいえ、同じ時間を過ごす中で、もしかして形だけでも友達になれているのかもとも思った。そして、自分さえ頑張れば本当の友達になれるのでは、とも。強くなって、特級とまではいかなくともたとえば冥さんと同じ一級術師になれれば、隣に立つ権利になるのではないかと。

 そうすると今度は、失うのが恐ろしくなった。自分の短い人生と狭い世界の中で、大切な人はそうたくさんいない。恩人である冥さん、恩師の夜蛾先生、そして同級生の3人。誰も欠けてほしく無い。自分のことはどうだって良いけれど。



 悟と傑は今日は遠方の任務だと聞いた。あの二人は階級が同じなだけでなく、術式的にも性格的にも相性が良いから、一級や特級の任務を度々一緒にこなしている。時々シャレにならない大喧嘩になって俺が硝子によって無理矢理間に割って入らされ、命がけ(物理)で止めて、最後に夜蛾先生の鉄拳をくらっているけど。

 そう、あの二人は強いから心配いらない。ただ、強いからこそ危険な任務に行くことが多くて、いつも不安になる。「任務が終わった」という連絡がないときは夜うまく眠れない。何より、俺は不安になるだけで何もできないし、たとえば怪我をして帰ってきても硝子みたいに治せない。無力な自分が、一番嫌いだ。






 初めての単独任務は滞りなく終わった。だけど、誰かと付き添いで来てもらう時よりもヒリヒリと肌に刺さる呪霊の殺気に、ひとつ間違えば簡単に死ぬのだと気付いた。死んだら、冥さんにお世話になった分を返せない。それはいけない。

「……?」

 ふと、感じた呪力の気配。知っているような知らないような呪力の波長を不思議に思って振り返ったが、そこには誰もいなかった。ほんの微かな殺気が混じっていた気がする。気のせい、で済ませるには気配の消し方が綺麗すぎる。

 その日から、高専にいるとき以外、後を尾けられていると勘付くのにそう時間はかからなかった。心当たりはないわけじゃない。この界隈は狭いから、俺が生きていて術式を使えるようになっていて、そして呪術高専入学していることなんて、俺のW元W家族に伝わっていてもおかしくない。

 五条と夏油はたとえ誰かに狙われても対処できるし、そもそも家族の誰かが俺の周りの人間を狙ったとして、格上に何かをするとは思えない。

 家入さんは危ない場所に一人で行くことはないし、そもそも高専の外で俺と会うことはほぼないから存在も知られてない可能性が高いが、もし狙われたら。そう思うと怖くなって、家入さんにだけ話した。
 一人で出歩かないこと、人気のない場所へは行かないこと。誰にも言わないでほしいと伝えたときは少し顔を顰められたけど、念押しすると了承してくれた。





「……頭いたい」

 ああ風邪ひいたな、とすぐに分かるこの倦怠感は久しぶりで、もうそれだけで憂鬱になった。これは体調のせいで弱ってるだけじゃなくて、ただただ俺が弱いだけ。そもそも、体調管理できない自分が悪い。外にいる間は神経をすり減らして、布団に入って寝ている時も色々なことが気になって眠れないでいたから、それによる不調だろう。



「……やばい、時間だ」

 医務室に行って薬をもらうことも一瞬考えたが、体調不良がバレて任務が他の人に回されるかもしれないと思うと、言い出せなかった。

中途半端すぎて全然意味が分からないかと思いますが、8万hit企画のボツ作ですので許してください。劣等感を抱く同期の夢主がさしすに大事にされるお話を書いてみたものです。設定にクセがありすぎました…。